食事にしよう!!
食料保管庫は結果的には外れだった。何も風土病の原因と思われるものは見つからなかったのだ。
保管されている動物系モンスター由来のお肉も、植物系モンスター由来の果実や穀物も、どれもが適切に処理されていた。
保管状態もよく、清潔に保たれた保管庫は、管理している人物の性格をよく表しているかのようだ。
疑っていた、元の巣穴の主──ロアがクマと言っていたモンスター──の毒や残留物も見つからず。
私は責任者の男性にお礼を伝えると保管庫をあとにする。
うつむきながら坂をのぼり、地上に出る。
こちらに気づいたヒポポが寄ってくる。
「ぶも……」と首を軽く左右に振る、ヒポポ。
どうやらヒポポの方でも何も見つけられなかった様子。
「ありがとうね、ヒポポ。次に行こうか」とヒポポの耳をなでて労う。
「次はどちらへ?」と話しかけてくるアーリ。
「次はあそこへ行こう」と私は飲み水が保管されているであろう野営地中央の大きな水瓶を指差した。
◆◇
「ここも、問題なしか」と私は飲料用の水を《転写》のスクロールで情報を読み取って呟く。
水瓶はどうやら魔道具としては中古のようだが、その浄水機能はちゃんと働いているようで、問題のある成分は何も検出されなかった。
朝から始めた調査も、すっかりお昼時になってしまった。
アーリから、お昼ご飯がてら、休憩を促される。何となく、アーリやロアから言われると不自然に感じる提案。違和感について考えているとふっと思い付く。
「あ、なるほど。私についているようにってカリーンに言われた時、食事をとるように見張っとけって言われた?」とアーリとロアに聞いてみる。
無言のアーリと、プイッと顔を背けるロア。
どうやら、完全にカリーンの差しがねのようだ。私は、放っておくと携行食を食べながら調査を続けるような人間だと思われているらしい。
──いや、そういや学生時代も研究中、無理矢理カリーンに口に食べ物を突っ込まれた事があったような……?
身に覚えがあって強く言えない私は、大人しくお昼ご飯にすることに。
アーリ達に案内されたのは近くの天幕。広いが、天井部分しかなく、その下に机と椅子が並んでいる。
「向こうの天幕で調理した物をここで頂きます。取って参ります」とアーリ。
ロアも無言でアーリのあとについていく。
私はその間に、リュックサックからヒポポ用の草から作ったペレットを取り出すと、魔石を細かく砕いた粉を慎重に計量し、振りかける。錬成獣にとって、魔素の摂取は過不足ともに毒なので。
「ヒポポ。お食べ」
「ぶもぶもっ!」と尻尾をフリフリ、ペレットの山に顔を突っ込むヒポポ。
それを眺めていると、アーリ達が戻ってくる。
「戻りました。食事にしましょう」
その手には同一のメニュー。それが三人前。
「野営地の人は皆、ここで食べるの?」と私はそれを見ながらアーリに聞いてみる。
「いえ、自分で調理する人も多いですよ。それに家族がいる人達も自分達で食事にすることが多いと思います」とアーリ。
──ああ、ここって学園にあった学食とか、協会にあった協会員専用食堂みたいな感じか。
私が納得していると、そのまま無言で昼食を食べ始めるアーリ達。どうやらアーリ達も食前に神に祈る習慣はないらしい。私も目の前の食事に手をつける。
しばし、物を噛み砕く音だけが響く、無言の時間が訪れる。
私は片手で食べながら、《転写》のスクロールを取り出し、今回の風土病の患者のデータを見返す。
何か見落としている共通点でもないかと思い。
食事をしながらそんなことをしていると、アーリとロアの視線を感じる。布越しなので定かではないが。かもし出されている物言いたげな雰囲気。
私はちょうどいいやと二人に聞いてみることにする。
「二人とも、今回の風土病の患者って何か共通点ある? あとは、今日は発症した人がいるか聞いてる?」
顔を見合わせる二人。結局アーリが答えてくれる。
「ルスト師、食事中ぐらいは休まれた方がいいと思います。カリーン様には報告しますので。それと今日、風土病を発症した者がいるかはまだ聞いてません。共通点については私は存じません」
首を振るアーリ。
その隣で、ロアがぼそりと呟いた。
「独り身が多い」




