野営地を調査しよう!!
翌朝、私は白いトカゲが相変わらずかごの中で眠り続けているのを確認すると、ローズにあとをお願いして自分の天幕を出る。
ヒポポを再びスクロールから呼び出そうとしたところで、見たことのある人影が二つ。
何故か今日もアーリとロアの二人が天幕の外にいた。
とりあえず先にヒポポを呼び出してしまう。
二人はヒポポがスクロールから現れる間、じっと動かずにいた。雰囲気的には、どうも興味深かったようだ。表情がわからないのでなんとも言えないが。
「二人とも、おはよう。昨日は夜遅くまでありがとうね。体調は大丈夫?」
とりあえず、当たり障りの無さそうな話題を振ってみる。
「おかげ様で。ポーションをありがとうございます。ロアがルスト師に貰ったと言っておりました。一口で、完全に疲労感が消えました。物凄い効果です」とアーリ。
その後ろでロアも無言で頷いている、っぽい。顔を隠す布が前後に揺れたので。
そこで会話が途切れ、どうしようかと思っていると、今度はアーリから話しかけてくる。
「今日もカリーン様からは、ルスト師についているように言われています。必要であれば領内を案内するようにと。どちらへ向かいますか」
「あー。じゃあとりあえず食品をまとめて保管している所があったら、そこへお願い」
「わかりました。こちらへ」
歩き出すアーリ。そのあとを私とヒポポが続き、ロアは私たちの後ろからついてくる。
どうにも会話する感じではない。そのまま黙々と進む。やがて見えてきたのは、斜めに掘られた坂。そしてその先には半地下のようになった食料保管庫だった。
「責任者を呼んできますね」とアーリがそう言って近くの天幕へ。
私は早速調査を始めることにする。
「ヒポポも何か見つけたら教えて」
害意のある存在や術式に敏感なヒポポにもお願いしておく。
「ぶもっ」と鳴き、早速鼻を地面に擦り付けるようにしてヒポポも調査を始めてくれる。
私はそれを見て、リュックサックから魔素測定用のペンデュラム・ダウジングと、《転写》のスクロールを取り出す。
「《展開》」
ふよふよと私のあとをついてくるようにスクロールを起動させると、ペンデュラム──先に四角錐にカットされた宝石のついた鎖──を左手から垂らす。
──ここ、形状的には何かのモンスターの巣穴だったものに手を加えて、食料保管庫にしたんだろうな。建材の貴重な辺境としては合理的だ。
私は坂を少し下ると片ひざをつき、ペンデュラムを地面より下の部分になる場所に近づけていく。何故か、ついてくるロア。そのままペタペタと私から少し離れた所で地面を触っている。
──あれは手伝ってくれているのか……? ま、まあいいや。それより集中集中。……地中の魔素が、濃いな。これだけ魔素が濃いと微生物は生きていけないから、殺菌は十分されているな。
そのまま数ヶ所ペンデュラムで魔素を測定していくがどこも高濃度で魔素が検出される。ただ、特に怪しい所はない。
──半地下に食料保管庫を作るのは冷暗ってだけでなく、辺境だと魔素が濃くて微生物が死滅するって理由から、標準的な方法なんだよなー。ちゃんと魔素濃度は濃いから、この地域特有の微生物が食料経由で体内に入ったとは考えにくい。うーん。あとは、元の巣穴の主のモンスター由来の何か、だけど……
「ロア、ここって元々モンスターの巣だよね。何のモンスターだったか知ってる?」
と、いつの間にか私の隣で、左右に動くペンデュラムの動きにあわせて、両膝を抱えて体を揺らしていたロアに聞いてみる。
「クマ」とロア。
「えっと、どんなクマだった、とか。特徴とか」
首をかしげるロア。ちょうどその時、アーリが一人の壮年の男性を連れて戻ってくる。
「ルスト師、こちらが食料管理の責任者です」とアーリ。
「貴方がルスト師かっ! 弟を助けてくれてありがとう! アイツ、手足が麻痺して本当に落ち込んでいたんだ」と私の両手をガシッと掴んで感謝を伝えてくるその男性。
「俺に出来ることなら何でも言ってくれ! 全力で協力する」
どうやら食料管理の責任者の男性の弟というのは昨日私が治療した一人のようだ。
「助かります、早速なのですが、食料保管庫の中を調査させてもらっても良いですか」
「そんなことで良いのか? よし、こっちだ!」と私はその男性に連れられ、食料保管庫の中へと向かった。
読んでいただいている皆様のおかげで、今作の書籍化が決まりました。ありがとうございます!
レーベルや発売時期などは後日ご報告出来ればと思います。
とりあえず十万字を目指す方針は変わりませんので、これからも今作をお楽しみ頂けたらと思います。




