風土病を治そう!!
「これで最後の患者」と、どこかぐったりしたロアの声。
アーリが最初の患者を連れてきたその日のうちに、なんとか全員を治し終えられそうだ。
──やっぱり作業台があって、使いなれた器具があると、効率が段違いだな。
私はそんなことを考えながら、最後の患者用にセミカスタムメイドのポーションを錬成する。個々の患者の状態を読み取り、最適な状態へ戻すためのポーションへ調整。やっていることはそれだけの事。要は対症療法だ。
──根本的な原因の特定は今後必須だけど。まずは治療優先、治療優先っと。何人かの患者は処置が遅れたら後遺症が残る可能性もあったしね。
出来たばかりの黄金色に輝くポーション。それを飲み干す患者を注意深く観察する。この患者の症状としては、強い倦怠感と手足の麻痺。今回の風土病の患者の症状としては標準的な物だ。
患者の全身をポーションの光が駆け抜ける。
「手が! 手が動きますっ……。ありがとうございます、先生」と両手を動かしながら、大げさに感謝されてしまう。
──先生ではないんだけど、まあいいか。
私は良かったですね、と笑顔で同意してあげて、最後の患者を送り出す。
どこかほっとした様子のロア。アーリと二人して、かわるがわる野営地中の患者を連れてきてくれたのだ。疲れたのだろう。
「ロアも、今日はありがとう」といたわっておく。
「仕事だから」と相変わらず言葉少なく答えるロア。
「これ、アーリと二人で良かったら。疲労回復用のポーション」と私は苦笑しながら差し出す。
隙間時間で二人用に作っておいたものだ。
手を出すか一瞬迷った様子を見せるロア。しかし結局受け取ってくれる。
「……ありがとう」と、ロアは小さく呟くと、さっと天幕から出ていってしまう。
「うーん。なかなか打ち解けるのは難しそうだ。まあ気長に、かな。さーて、もう一仕事しますか」と私は呟きながら一度大きく伸びをすると、机に向かう。
やることはカリーンへの中間報告の作成だ。
治療中に走り書きしたメモと、患者の状態を《転写》したスクロールの履歴を、ざっと流し見していく。机の横で空中に展開したスクロールがくるくると、まさにスクロールしていく。
治療については簡単に結果だけ。原因に関する現時点での所見をざっくりとまとめる。
私は紙一枚にまとめた簡単な報告書を手に、天幕を出る。
──あとは、口頭で報告すればいいや。報告といえば、ついでに魔晶石のことも言わなきゃな。
辺りはすっかり暗い。それでも照明の下で作業を続ける人達の姿がちらほら見える。中にはさっき治療したばかりの人までいる。
そういった人達からは、すれ違い様に簡単に声をかけられ、改めて感謝されてしまう。
それ以外の人達からの視線もどこか暖かい。昼に来たばかりの時の値踏みするような視線はすっかり無くなっていた。
そうしてカリーンの天幕へ。
まだ明かりがついており、入り口には人影がある。護衛だろう。
その入り口の人に、取り次ぎを頼む。
「いいから、入ってこい。ルスト」と私の話す声が聞こえたのか、カリーンに直接呼ばれる。
入り口の護衛の人と苦笑をかわして、私は天幕の中へ。
「どうした? こんな夜更けに」とカリーン。
「風土病の患者の治療が終ったよ、カリーン様。これ、簡単な報告書」と書いてきた紙を手渡す。
「っ! なんと半日でか! 相変わらず無茶苦茶だなルストは。いや、素晴らしいが──」と報告書を受けとるカリーン。
「後遺症の可能性があったのか……。そうか」と私の書いた報告書に目を通しながら。
カリーンは姿勢を正すと顔をあげる。
「ルスト師、本当にありがとう。私の民を救ってくれて」
私も優雅にお辞儀する振りをして、それに答える。
「職務を全うさせて頂いた次第です。それに私にとっても皆、同僚になるしね」と答えた所で、ぐーと私のお腹がなる。
「あはは、そうだな。さて、軽く食事にしようか。ルストも食べていけ。どうせ何も食べていないのだろ? 軽食、二人分頼むっ!」と最後は外の護衛っぽい人に向けて叫ぶカリーン。
「確かに、携行食しか食べてないな」と治療の合間に食べたのを思い出しながら私は答える。
「携行食──あの草レンガかっ! まだ、あんなもの食べてるのか。ルストもマスターランクの錬金術師になったというのに。度しがたいな、本当に」と何故か思いっきり笑っているカリーン。
「はあ、久しぶりに笑った。さて、これだ。食事が来るまでに聞かせてくれ」と、カリーンは報告書の最後の部分を指差して。
私は風土病の原因についての所見と、明日以降の予定についてカリーンへ説明しはじめた。




