仕事場を整えよう!!
私は自分にあてがわれた天幕で荷ほどきをしていた。
「一人用の天幕が用意されていて、助かったよ」と、私は一緒に天幕の中にいるヒポポに話しかける。
天幕の大きさはカリーンの物についで、野営地では二番目に大きいようだ。
それだけで、カリーンから評価と期待されているのが明確に伝わってくる。そしてそれは多分、野営地の他の人たちへのメッセージ、という意味もあるのだろう。
とはいっても、用意してくれたのは本当に天幕のみ。床もなく、地面は剥き出しのままだ。私の事をよく知っているカリーンらしい。
「もうちょっとだけ、その子、見ててね」と、相変わらず目を覚まさない白いトカゲのことをヒポポにお願いする。
「よし、これで汚れがつかないぞ」と今回用意してきた絨毯に、《純化》のスクロールで処理を施し終えると、地面に直接、敷いていく。
「あ、そろそろ時間か。ヒポポありがとうね」と私はヒポポから白いトカゲを受けとる。部屋のすみに出しておいたクッションの上に、白いトカゲを置く。
「《展開》《送還》ヒポポ。しばらくお休みー」とスクロールへとヒポポを戻す。
そして別のスクロールを探す。
「最近はめったに使わなかったからな……。あ、あったあった。《展開》《顕現》ローズ」
部屋のすみに現れたのはその名の通り一輪のバラ。白いトカゲの近くに根をおろし、大輪の花を咲かせている。ローズ、見た目は植物だが、これでもヒポポと同じ立派な錬成獣だ。
「ローズ、まずはその子のベッドを。特に頑丈めで」
私の指示に反応して、するすると蔦が伸びる。白いトカゲの下に潜り込んだ蔦が地面から垂直にトカゲを持ち上げる。私の腰の高さ程度まで持ち上がると、今度は周囲に広がりながら、かごのような形へと編み上がっていく。複雑な網目で織られたそれは、ちゃんと私の要望通り。
「ありがとう。うん、いいね。じゃあ後は、この天幕を範囲に標準タイプでお願い」と続けてローズにお願いする。
大輪のバラを揺らして肯定の意を伝えてくるローズ。
すぐさま天幕中に広がっていく蔦。まずは絨毯の下に潜り込んだ蔦がまんべんなく絨毯を持ち上げる。断熱と通気が良くなった所で、次はローズの蔦が私用の家具へと編み上がっていく。
ベッドの枠に、机と椅子。そして実験用のテーブル。
それぞれにリュックサックから取り出した薄手のマットレスを置いたり、布をかけたりして、整えていく。
ローズは私が学生時代に作った錬成獣だ。フィールドワーク系の調査で、遠征先で長期滞在するときには凄くお世話になっていた。あまりの快適さに、たまたま同じ授業を受けていたカリーンを筆頭に数名が入り浸って邪魔だったのも、今では良い思い出だ。
昔を思い出しながら作業を続ける。そうしてローズの蔦が無事、必要な家具へ編み上がり、室内がだいたい形になった時だった。外から声がかかる。
「ルスト師、風土病の患者を連れてきました。入っても?」とそれはアーリのもの。
こうして、いよいよ私の新しい職場での仕事が始まった。




