職場の雰囲気をみてみよう!!
白いトカゲを拾った水場からのびる川を辿る。
途中、明らかに人の手が入っていると思わしき場所があり、そこで曲がる。
なんとなく道っぽい。大きな石が排除され、何度も人やら荷車が通った跡が大地に刻まれている。
「お、あれかな」私はヒポポの鞍の上で伸びあがるようにして前方を見る。
遠目には、そこは軍の野営地のような見た目だった。
私はヒポポの速度を緩め、刺激しないように気を付けながら近づいて行く。
野営地まであと十数メートルというところでピタリと足を止めるヒポポ。
「ヒポポ?」
「ぶもも」と答えるヒポポ。
私はそれを聞いて、その場でヒポポから降りると、そっとヒポポの鞍の横につけられた荷物袋に、意識のない白いトカゲを置く。
落ちないのを確認すると、懐からメダリオンを取り出し、高くかざす。そして声を張り上げた。
「私の名前はルスト。錬金術師として、マスターランクを修めている。所属学派は、礎に真理を追求する者の集い。騎士カリーンに請われ、この地を訪れた。取り次ぎを求む!」
私の名乗りが終わったタイミングで、前方数メートル先の地面が二ヶ所、大きく盛り上がる。
ずざざっと音を立て、砂が落ちる。そこには槍を手にした二つの人影が、地面から立ち上がるところだった。
「ルスト師、来訪を歓迎します。辺境は人に擬態するモンスターもおります故。このような出迎えで失礼しました」と先ほどまで地面に隠れていたとは思えない様子で、話してくる人影。
どうやら声からして女性らしい。
全身に灰色の布を巻いた姿。顔も布で隠され、そこに大きく赤色で目が一つ描かれている。
ヒポポが教えてくれていたのはこれだ。あれ以上近づいていると彼女らの攻撃範囲に入りますよ、と。
「いえ、素晴らしい姿の隠し方でしたね。その目の布は錬成された魔道具ですか?」
「その隠れている私たちに、易々と気づいた御仁に言われましても。カリーン様が、ただ者じゃないと自慢げに言っていたのも納得です。それにこれはただの布」と答える赤い方。そこへもう一人が割り込んでくる。
そちらは顔をおおう布に青色で大きく目が描かれている。
「その騎獣の背にいるのはモンスターではないのか」と手にした槍をヒポポの荷物袋に突きつけてくる青い方。槍先に揺らめく魔素のきらめき。私は本気の殺気に身構える。
「やめないか、ロア」と赤い方。
「しかしアーリ姉様!」とロアと呼ばれた、青い方の女性。
「私達ではルスト師はおろか、そちらの騎獣にも勝てぬよ」とアーリ。
「っ。そんなにですか……。わかりました姉様」と槍から魔素を霧散させて引っ込めるロア。
「ルスト師、妹が大変失礼しました」と頭を下げるアーリ。
私は無用な争いにならなそうで内心ほっとする。新しい職場でしょっぱなからトラブルとか勘弁してほしいので。
──二人の女性、魔道具を使ってないとすると視覚に関する異能持ちかな。妹の方が多分、遠視系。私達の接近を見ていたんだろう。姉の方は力量が見える何かかな。たしか西方の方に魔眼が発現しやすい一族がいるとか聞いたことがある。何にしても、やっぱりこの白いトカゲは警戒されるよな。モンスターだし。
私はそんなことを考え、念をおしておく事にする。
「わかりました。お二人が危惧されるのも当然ですが、この白いトカゲについては私がこのメダリオンにかけて責任を取りますので」と手にしたままのメダリオンを示しながら二人に伝える。いざという時はトカゲの命を断つのは勿論、被害の補填を全て行う事を、示しておく。
「寛大なお言葉、ありがとうございます。さあこちらへ。カリーン様の所へ案内します」とアーリ。
二人の案内に従い、私はヒポポの首筋に手を当てると、歩き出す。こうして新しい職場となる野営地へと入っていった。




