トカゲさんを助けよう!!
目の前でぐったりとした白いトカゲに、私はそっと近づく。リュックサックから《純化》処理を施した採取用の手袋をはめて、刺激しないように気を付けながらそっと触れる。
反応がない。ただ、死んではいないようだ。巻き付いたままだった触手を外していく。
触手から染みだしたヌメヌメとした紫色の液が《純化》処理してある手袋の表面で弾かれ、指先から滴り落ちる。
触手は一応素材として確保しておくとして、私は手袋をしまい、スクロールを取り出す。
「《展開》《転写開始》《示せ》」
私はスクロールに写し取られたトカゲの情報を読んでいく。
「やっぱり人間と違うからか、うまく読み取れない。多分、極度の疲労状態ではあるのかも。ミトコンドリアの活動が最大値のわりに低下している、のかなこれだと……。ヒポポ、警戒お願いね」と私はヒポポにお願いする。
先日採取しておいた薬草とカゲロの素材を取り出すと、一番シンプルなポーションを作ることにする。
──ちょっとこのトカゲさんの状態にベストなポーションを作るのは無理だわ。最適な状態が把握出来ないし。こういう時は無難なポーションにしとくに限る。
私はスクロールを数本取り出すと、素材と目の前の池の水でサクッとポーションを作る。
途中、再び飛び出してきた触手をヒポポが撃退。そして水浴びがてら、ヒポポが池の中に飛び込み一暴れするも、特に問題なく。ヒポポが咥えてきた触手の元の死体、ナマズ風でした。口元に沢山の触手を蓄えていたけど。
そんなこんなで完成したポーションをいよいよ白いトカゲに振りかけてみる。
トカゲの脇にしゃがみこんだ私と、その横で脚を折り曲げ、心配そうな表情でその様子を見守るヒポポ。
「……目を覚まさないね」と私は隣にあるヒポポの顔に声をかける。
「ぶもぶも……」とヒポポ。
私は再びスクロールで白いトカゲの情報を転写し、目を通す。
「うーん。ミトコンドリアの活動レベルは明らかに改善しているんだけどな。普通の人間レベルにはなっている。ただ、最大値が高すぎるからな。なんとも──」
首を傾げながら一人呟く私の横で、ヒポポが自身の顎で優しく白いトカゲの体をつんつんとしている。
──そういや、敵意や害意に敏感なヒポポがここまで心許しているのは珍しいな。このトカゲ、単なるモンスターじゃないのか? なんにしてもこのままここに置いといたら助けた意味ないしなー。
と、私は考えながら辺りを見回す。荒れ地にある水場ということだけあって、普通にモンスターの数が明らかに多い。
それに、これまで触手ナマズを警戒して近づいていなかったモンスターも、今後は現れる可能性がある。
──放置しておけば助からないだろう、な。
「ヒポポ、その子つれてくか」と相変わらずつんつんしているヒポポに声をかける。
「ぶもっ」とヒポポのどこか嬉しそうな返事。私はそれに苦笑しながら白いトカゲを持ち上げる。
どうにか片腕に収まるぐらいの大きさ。
「あと少しだし、このまま行っちゃいますか」と私はそのままヒポポに跨がり、水場をあとにした。




