茶のみ話をしよう!!
私は再び村長宅でお茶をごちそうになっている。
一仕事終えた後のお茶は、格別にうまい。目に見えて喜んで貰える仕事は、やはり充実感が違う。
「ふぅ。さて、村長さん」とお茶をテーブルに置きながら声をかける。
「はい」と言葉少なく答える村長。
──あれ、緊張させてしまっている? ああ、何か悪い内容かと思わせちゃっているのかな。
と、私は話し出すのを延ばしすぎたかと反省しながら言葉を続ける。
「気を楽にしてください。今後の話です。旧型の魔晶石ですが、この村だけであれば先程の量があれば数年は大丈夫でしょう?」
「数年だなんて。あの量! そして容量が増えている事を考えれば数十年は持ちますとも! 本当になんと感謝して良いか──」
と、早口になった村長にたいし、私は笑顔を浮かべて軽く手を振る。
それだけで、ピタリと口を閉じる村長。
「ただ、旧型の魔晶石が必要なのはこの村だけではないと思うんですよね。特にこの辺境周辺地域なら……」
「ええ! それはもちろん! この地方に住まう者なら誰だって熱望していますとも。旧型の魔晶石が再び手にはいる事を!」
「さて、そこで相談なんです」
「もしかしてうちの村にしばらく滞在してくださるのですか! それならいくらでも──」
「残念ながら違います。実は、私は騎士カリーンの元へと馳せ参じる途中なのですよ。ここより北、辺境に新たな領地を切り開く手伝いとして」
「おおっ! それは! カリーン様の噂は、開拓の件も含め、この地の領主様より伺っておりますとも! 先だっての戦争において目覚ましい活躍をなされたとか。その剣は、一閃で重装備の男三人を吹き飛ばすほどだとか。見た目は女性らしい細腕なのに、人間とは思えないほどの豪腕っぷりからついた二つ名が……」と、英雄について語るような村長。
それを再び笑顔で軽く手を振って黙らす。すでに同じ噂を聞いていたので。ただ、友人であり、これから上司になる方の人外扱いされた、あまり優美でない二つ名を何度も耳にするのが嫌だったので。
あっしまったと言う顔をして黙りこむ、村長。
私は軽く咳払いをして話を進める。
「というわけで、村長からそちらの領主様に内々にお話をしておいて欲しいのですよ。騎士カリーンの新領地との、旧型の魔晶石の取引の可能性、についてですね」と、私はにこやかに締めくくる。
──新領地の開拓は何かと物入りのはず。金を稼げる手段はいくらあっても邪魔にはならないだろう。まあ、カリーンが私に他の仕事を振りたいって言うならそれもまたよし。カリーンとここの領主で話し合って、作業量控えめな取引条件を決めてくれるだろう。
村長は、私の要望に快諾してくれる。
まあ、村長からしたら当面必要な魔晶石はすでに確保してあるし。余分な魔晶石を手土産に、自領の領主が喜ぶに違いない話を持っていくだけの事だ。当然、快諾してくれる。
「あ、それと手紙を出したいのですが」と、私はもう一つ、根回しをするために紙とペンを村長にお願いする。
「こちらをお使い下さい、ルスト師」と恭しく差し出されるそれを手に私はカリーンとは別の、学生時代の友人の一人に手紙を書き始める。
──彼は今、確か国の軍部にいたはず。今回の件は魔晶石の利権がらみだよな、どうみても。リハルザムとか、思いっきり関わってそうだけど、まあ、あいつはどうでもいい。それよりも気になるのが軍部の動きだ。戦争中に、新型の魔法銃への変更。軍の装備品だって当然、巨大な利権だ。そこへこの地から、大量に旧型の魔晶石が流れていくとすると……。
私は物思いにふけりながらもささっと手紙を書き上げると、近くにいた村長に手渡す。
すでに蝋封の準備をしてくれていた様子。
──こういう常識的な部分に気が利いて先が読めるのは流石だな。まあ、私の錬成のパフォーマンスで気圧されてなかったら、もう少し違ったのかも?
私はそんな事を考えながら、自分のメダリオンで蝋に印をつける。手紙を出してもらう事をお願いすると、せめて一晩でもと引き留める村長や村人達に別れをつげ、村を出発した。
「さあ、いよいよ辺境だ」まだ見ぬ地に、心躍らせながら。
昨日の日間ランキングで一位になりました。皆様の応援のおかげです。誠にありがとうございます。
次は十万字を目指して頑張りたいと思います。
また、個別の感想返信が追い付かなくなって参りました。




