プランB!!
「という訳で、理論的に成功するはずなんだが、どうにも上手くいかなくてね。悩んでいる」
「なるほどな」と腕を組み、顎に手を当てて話を聞いていたタウラ。
組んでいた腕をほどくと、腰に両手を当てて話し始める。
「まずは、だがな」と片手でこちらを指差してくるタウラ。
「お、おう?」
「私は錬金術は門外漢だからな。そんな専門用語だらけの話をしても、さっぱりわからん。せめてもう少し噛み砕いて説明してくれ」
「それは、確かに。済まない」
私が追加で説明しようとするのを手をあげて止めるタウラ。
「その上で言えるのはこれぐらいだ。私も、これでも神官のはしくれ、だからな。わずかだが、託宣が出来る。今ルストから聞いた件に対して試してみよう」
そういって、タウラは手のひらサイズの本を取り出す。どうやら女神アレイスラの教典のようだ。
──託宣、か。確か高位の神官は自身の無意識を操り、問いに対して有意な解を導く、だったか。そこに本当に神が介在するかは疑問だけど、それは個人の信仰の自由だしな。
祈りを捧げる姿勢をとったタウラの全身が、巡る魔素の光でうっすらと輝く。魔素の動きを見たところ、教典は魔道具では無いようだ。
目をつむったまま、タウラの指が教典をめくり始める。
ピタリとその指が止まる。
一瞬の静寂。
「『夜は夜の、昼は昼の理がある』」
静寂を破り、タウラの口から託宣らしきものが告げられる。
さっと波が引くように、タウラの全身を巡っていた魔素が消える。
私は目を開けたタウラに問いかける。
「……どういう意味だ? すまんが私は宗教の方はさっぱりなんだ。昼と夜とで現れるモンスターが変わるって言う、一般常識の話か?」
「ルストは、夜の理に属するものを昼の理で作ろうとしているのではないか、という内容だと思う」
「ほう──」
私は思わず考え込む。タウラの言葉は、全く考えたことも無かった視点だった。
「つまり、私のやろうとしている錬成は、何か外部の存在が設定した理に触れるから強制的に失敗させられている、と」
「そこまでは、わからん」
「いや、そうだよな。それでも考えたことも無かった観点だ。うん、参考になった。ありがとう、タウラ」
「それならば良かったが」
「とりあえず今試している事は、一回諦めるよ」
教典をしまうとタウラは再び口を開く。
「それで、その後はどうする予定だ? 私はどちらかと言えば、待たされている立場なのだぞ。アーリとルストに説得されたというのもあるが、今でも、すぐに飛び出して王都に向かいたい気持ちが強い」
そのまま再びこちらを指差してくるタウラ。
「とは言え、ルスト自身が王都に向かうなら、その護衛を誠心誠意、勤めるつもりだ。借りを返すためにも。そこは、安心していい」
「それは、ありがとう? かな」
私の返事を聞いて、一歩詰め寄るタウラ。とんと、タウラの伸ばした指が私の胸をつく。
「それで、代替案はないのか? 私はいつまで待てばよい」
そう小声で呟くタウラ。
私はタウラから提案されたからといって、心配させるような事を言ってしまったかと、後悔する。
「大丈夫。代替案はあるから。ただ、より確実な方法を取りたかったんだ。でも無理そうだから、そっちは一度止める。それで、代替案でいくなら、明日には出発出来るよ」
私は安心させようと、肩をすくめながらタウラに伝える。
「そうか」
言葉少なく、そう呟いたタウラの瞳。
それはとても印象的だった。




