無駄な抵抗はやめよう!?
先程まで防戦一方だったハロルドが、今では逆にリリィを攻め立てている。
その体さばきも、剣速も、段違いに速い。そしてそこから、さらに加速していく。
「ルスト師、一体どういう仕掛けですか」と相変わらず満面の笑みのアーリ。
「あれは、いわゆる不用品の再利用、みたいな事をしているんだ。武の心得の有るもの同士が戦うと、だいたい武器に魔素をまとわせて打ち合うだろう?」
「ええ、そうですね」
「すると、魔素が散るんだよね、周囲に。それをあの義眼は回収してハロルドに還元しているんだ。つまり強い相手と長時間戦うほどハロルドに有利になるんだ」
私はいったん説明を終える。ちょうどハロルドもリリィに打ち勝ったようだ。私の渡したポーションを、ハロルドはどこか優しげにリリィにかけている。
「よくもまあ、あれだけの短時間でそんな物を作れたな、ルスト」とカリーンの感心した声。
「いや、実はアーリとロアの魔眼を調べさせてもらった時の情報が応用出来てね」
「ルスト師」とアーリ。
「はい。あっ、勝手に情報を使ったのは申し訳ないと──」
「違います。ハロルドさんの義眼の作成に役立ったのであれば良いのです。そうではなく、この仕掛けはハロルドさんには承諾を取っているのですか」
つい、と私は視線をアーリからそらす。
「いや、その。驚かせようかと思って。ほら、ハロルドなら、これぐらいのことは慣れているから……」
私は歯切れ悪くアーリにこたえる。
「まあまあ、アーリ。さんざん学生の時にやらかしているからな。ハロルドもきっと何かあるだろうとは思っているはず──」
「カリーン様は、黙っていて、ください」
アーリの満面の笑みが、カリーンに向けられる。
「っ、はい……」
「ルスト師。皆様がご友人なのは私も存じていますが、今回の事は全く別です。自らの体の一部となった物に、知らない機能があると言うのがどれほど不安か。しかも驚かせようだなんて、子供っぽい理由でそれを隠しておくなんて──」
そこへ、気絶したリリィをお姫様抱っこしてハロルドが戻ってくる。
「ルスト、この義眼、すごいな。助かった。──うん、どうした?」
そこで場の雰囲気に気がついたのか、ハロルドが私とアーリの顔を交互に見る。
無言で笑みを浮かべているアーリ。
私もようやくその笑みの意味を悟ると、急いでハロルドに謝罪する。
「ハロルド、すまなかった。驚かせようと思ってその義眼の仕掛けを黙っていたんだ。子供っぽい事をしてしまった」
「ああ、なんだ。そんなことか。謝罪は確かに。しかし、大丈夫だぞ。いつもの事だしな。それにルストの事だ、ちゃんと安全マージンは多めに設定してあるんだろ?」
朗らかな笑顔を浮かべて私の謝罪を受け取ってくれるハロルド。ほっと息を吐き、私は軽く説明する。
「ありがとう。ああ、安全マージンは十分に取っている。義眼から還元される魔素の上乗せも、最初はゆっくりになる設定だし、上限もハロルドの能力に応じて段階的に解除されていくようになっている。ついでに、安全マージンを完全に取っ払う緊急用フレーズも、バッチリ設定してあるぞ」
「ほう、それは興味深いな。私も一つほしいぐらいだ」とカリーンも私たちの話に入ってくる。
「うーん。これはかなり脳に近い所に埋め込まないといけないからな。あまりカリーンにはおすすめ出来ない」と私はカリーンに答える。
「はぁ」とそこでアーリの一際大きなため息。
皆の視線がアーリへと集まる。
「カリーン様、ルスト師。もういいです。事後処理を始めなければ」
そういって、気絶したままの大量の兵士達を指し示すアーリ。
カリーンはそんなアーリに返事すると、ハーバフルトンの兵達に指示を飛ばし始める。
倒れた兵士達の回収が、始まる。
私も肩をすくめるようにして、自分の仕事に取りかかることにした。
そこへハルハマーがシェルルールとコトを連れて合流してくる。
「ルスト、だいぶ尻にしかれているようだなっ」とハルハマーは豪快に笑いながら。
「止めてくださいよ、ハルハマー師。そんなんじゃありませんって」
私はあらぬ誤解を否定しておく。そこへ割ってはいる勢いで声をかけてくるシェルルール。
「ルスト師、凄いですっ。感動しました! ポーションラビット達の魔導具作りのお手伝いが出来て、ボク、本当に光栄です! あんな凄い物を作るのに関われたなんて」
いつにもなく、まくし立てるように話すシェルルール。
「ああ、シェルルールの助力には助かったよ。コトもありがとう。二人とも良い仕事ぶりだ」
私は二人を労る。
「さて、もう一仕事だ。コトはカゲロ機関の皆を呼んできてくれ」
「何をするんですか?」
「魔素抜き」
ポーションラビットから飛び散ったポーションで、魔素に汚染された大地。その魔素抜きという、大切なお仕事に私たちは取り掛かった。




