カゲロ機関、本格的に活動開始!!
「こ、これが基礎素材!? こんな高品質の純水が存在したなんて……」「カゲロの樹皮にこんな活用方法がっ」「だ、大丈夫ですかね。どれもこれも門外不出の秘術級──」
ざわざわとカゲロ機関の仮構成員達が口々に話している。
「お前ら! くっちゃべってないで、手を動かせっ! この程度で驚いていたら、やってけんぞ!」
ハルハマー師の怒声が飛ぶ。
ピタリと口を閉じ、皆、必死に手を動かし始める。
会話だけ聞いているとあれだが、私が見る限りでは皆の表情はどこか明るい。
まあ、錬金術師なんて因果な仕事をしている人種は、だいたい新技術とか大好きなので。皆のモチベーションは大丈夫そうだ。
横目で仮構成員達の手際を観察しながら、私は自分のやるべき事の準備を進めている。
──あっちのポーション作成の下準備をしている人は、仕事が特に丁寧だな。集中力があるタイプか。ほう、魔石の処理をしているそっちの彼女は手際がなかなか。あれは、できるな。
下準備として、新作のスクロール作成の設計を思案する。だいたいの勘で、書き込むべき魔導回路の図案の目星をつけていると、声をかけられる。
「あの、ルスト師。出来ました」
それは先程の手際の良かった娘だった。
「ありがとう。君、名前は?」
「シェルルールです」
私はシェルルールの錬成した魔溶液を受けとる。それにペンを浸すと、魔素を流しながら羊皮紙の切れ端に一本の線を引く。
「合格だ、シェルルール。いい腕だ」
「っ! ありがとうございます……」
私はそのままスクロール作成の補助用のスクロールを複数、展開し、頭上でゆっくりと回転させ始める。
早速、スクロール作成に取りかかる。
頭のなかを駆け巡る無数の魔導回路の図案。それを求める形へ至るように脳内で、魔素の動作を想定しひたすらに手を動かしていく。
「ここで、エラーが……。《消去》《消去》。その分、ここで《複製》。なら、こっちのルートから……。よし、これで完成、のはず」
ガチャガチャ、ざわざわとしていた作業音がいつの間にか止んでいる。
私は完成したばかりの新作のスクロールから顔をあげる。
──集中していて周りを見ていなかったな。静かだけど、何かあったか?
ゆっくりと周りを見渡すと、皆がこちらを見つめている。
あるものはポカンと口をあけ。あるものは熱のこもった瞳を輝かせ。
「お前ら……。だから言っただろう。あの程度で驚いていたら、やっていけんと」とハルハマーが静寂を破ってくれる。
「スクロールを複数同時展開ですよ!」「いやそれよりも、あれ、全く新しいスクロールを作られていましたよね」「ああ、しかも設計図どころか下書き無しの直書きだぞ」「流石、ルスト師。噂以上の──」
「いいから、さっさと作業しろ!」と再びハルハマーの怒声。
どうやらスクロールの同時展開、その他もろもろが珍しかったようだ。
今度、時間のあるときにでも希望者にコツを教えてあげようと心の片隅にメモしつつ、私は全体の進捗を確認する。
──皆、しっかりやるじゃないか。そことあそこは作業が少し、遅れているか。
私はそれとなく補佐に入り、全体の進捗を調整していく。
──明日にはいよいよ本番の作業に入れるな。良かった。間に合うぞ。
私は、ほっと胸を撫で下ろすと、今日の作業は終了するよう、皆に伝えた。




