帰還しよう!!
「ロア! 敵、ポーションの効果を観測、よろしく! アーリはロアが落ちないように補助を!」
私は戦場の騒音に負けないように大声を出す。
「ヒポポ、全速離脱! ハーバフルトンに戻るぞ!」
ヒポポが方向転換し、敵歩兵の集団の側から、一気に離脱をはかる。
「ルスト師! 敵騎獣、突撃きますっ!」
アーリの未来視による警告。
その数瞬後、敵歩兵達が隙間を作る。
そこから、牛型錬成獣による騎兵隊の突撃が、私たちの方へと向かってくる。
「くっ。そうは簡単には逃がしてくれないよな。《展開》《研磨》!」
私は後方へスクロールを投げる。敵騎兵隊の眼前に展開するスクロール。そこから、《研磨》による竜巻を発生させる。リミット解除済み、威力は最大で。
ただし金剛石の粉は、無しだ。
吹き荒れる強風。巻き上がる竜巻。
それは表面積の大きな牛型錬成獣にはある程度の効果を見せる。
騎兵隊の隊列が崩れる。足並みが乱れる。
密集集団での騎獣突撃において、隊列の乱れはその速度を大きく損ねてしまう。
「よし! セイルーク! 敵、前方、当たらない位置にデカイの! 頼むっ!」
私は上空へ移動して貰っていたセイルークに向かって叫ぶ。契約のおかげか、この距離でもセイルークに意思が通じた事を感じる。
セイルークがその口を大きく開けると、下に向かって首を振り下ろすのを、感じる。
上空で、強烈な光が発生する。
その輝きはまるで、流れ星のようだ。
セイルークのドラゴンブレスが、天から大地へと降り注ぐ。
それは光の柱となって敵の騎兵隊の眼前にそそり立つ。
次の瞬間、大地が爆発する。吹き荒れる爆風が大量の土砂を巻き上げ、敵の視界を完全に奪う。
倒れ込む敵の錬成獣達。
その上に乗っていた者達も、あるものは投げ出され、あるものは騎獣と共に倒れ伏す。
私たちはここぞとばかりに、巻き上げられた土砂を煙幕がわりにして、その場を離脱することに成功した。
◆◇
「よし、ここまで来れば大丈夫だろう」
私は全速力のヒポポを駆け足まで落とす。
ヒポポの速度が落ちたのを見たのか、セイルークが舞い降りてくる。
そのままヒポポの頭の上という定位置に収まったセイルーク。
「セイルーク、さっきはありがとう。素晴らしいドラゴンブレスだったよ。おかげで無事に離脱できた」
「きゅる。きゅる」とどこか誇らしげなセイルーク。あごを上につき出している。
私はそのあごの下を軽くかいてあげる。
「ロア、離しますね」とアーリがロアに話しかけている。
全速力の、揺れるヒポポの上でずっと不安定な座りかたをしていたロア。そのロアをずっと落ちないよう支えていたアーリ。
私は二人にも改めてお礼を伝える。
「それでロア、ポーションの効果は見えていた?」
「見てた。効果、ある。寄生してたキノコ、溶け落ちてた」
「溶けるのかっ! ふむ……。よし! それならやりようは、ありそうだ。ありがとう、ロア!」
私はセイルークをなでていた流れで、思わずロアまでなでてしまいそうになる。
慌てて手を止め、そのまま、掲げてみる。
──危なかったー。危うくロアの頭までなでるところだった。子供扱いしすぎだと怒られるかと思った。
ロアが不思議そうな顔をしている。
しかしすぐに理解したのか、掲げたままの私の手の平を、自分の手でパーンと叩くロア。
私は内心、ほっとしていた。




