98 さようならカマッセ
「いや~~!したんですよね、犯罪の臭い!だから、私、アレの冒険者登録、絶対にしちゃいけないって思って!だからお断りしたんですよね!あはは、さすが私!うん、王都での勤務経験が人を見る目を養わせていたんですねぇ!危うく犯罪者に冒険者という身分を与えてしまうところでした!いやぁ、危なかった!!」
カマッセが固まってしまい静かになった出張所内のロビーに、腐れ受付の白々しい言葉が響き渡る。
「お、お前、冒険者じゃ、なかったのか?」
ようやく再起動したカマッセが、私の方を振り向いて、問いかける。
頷いて返答。
「まだ違う。あの女、『課題』こなせって言った。一月サイーシュ草を採り続ければ......」
「あーーーッ!!あーーーッ!!衛兵さん!早くあの呪い子を捕まえてくださいよ~!町の治安を守るのは衛兵さんの領分でしょ!?」
「お、おう!まかされよ!」
腐れ受付が、都合の悪い私の話を聞かせまいと大声をあげる。
それに応じて私を捕まえようと近寄る、衛兵。
「くっ!」
カマッセは。
カマッセは衛兵に飛びかかろうとする。
私を守るために。
嬉しいな。
でもね、だめだよカマッセ。
衛兵に向けて一歩、足を踏み出すその刹那。
私はカマッセのベルトを掴んで引っ張り、後ろに放り投げた。
ドン!
音を立てて受付カウンターに背中をぶつけるカマッセ。
ごめんね。
「お、おい、エミー、お前何を......!」
でも、それ以上はだめだよ。
衛兵に手をあげたら、カマッセが犯罪者になっちゃう。
私なんかのために、カマッセが傷を負う必要なんか、ないんだ。
私は、全然平気なんだから。
こんなの、前世から慣れっこなんだから。
もう......これ以上。
これ以上カマッセが、私に付き合う必要なんて、ないんだ。
ゆっくり、ゆっくり。
私は前に進む。
「なんだ?観念して捕まる気になったか?」
衛兵が勝ち誇った顔をする。
......そんなわけないでしょ。
私は、悪いことなんかしてないんだし。
【威圧】する。
殺気を向ける。
「ひっ!?」
それだけで衛兵は小さく悲鳴をあげて、腰を抜かした。
あはは。
ざっこ。
<まずはコレから殺しますか?>
......オマケ様。
私のために、そこまで怒ってくれてありがとう。
でもね、冷静になって。
私はそんなことしないよ。
<何故?>
そんなことしたらね、私は本当に犯罪者だよ?
盗賊を殺すのとは、訳が違うんだ。
......せっかく、カマッセが私のこと、かばってくれたんだ。
私は、呪い子なのに。
皆が私に、町から出ていけって言うのに。
カマッセだけは、私の味方でいてくれたんだ。
その好意を、私は無駄にしたくないな。絶対に。
<エミー......>
「私、悪いことしてない。だから捕まらない」
静まり返った出張所内に、私の声が響く。
「だけど、出てけっていうなら、出てく。じゃあね」
玄関に向けて歩く。
私から漏れ出る魔力、殺気を恐れてか、商売人の連中や野次馬冒険者共は、無意識のうちに後ずさり道を開ける。
「お前......お前!エミー!お前はそれで、良いのかよ!?」
後ろから声が聞こえる。
咳こみながら立ち上がったカマッセだ。
「こんな......不当に蔑まれて!こんな扱いを受けて!それなのに黙って出ていくのかよ!?」
「カマッセ......」
振り向く。
顔を真っ赤にして。
涙をためて。
凄く悔しそうな顔のカマッセ。
「ありがとう」
あぁ、笑顔を作れないのが、本当に残念だ。
「私を守ってくれて、カマッセ、ありがとう。本当に、嬉しかった」
「エミー......!」
「カマッセは、頭が良いし、そこそこ強いし、凄く、優しい。だからきっと、本当に特級冒険者、なれるよ」
再度振り向きカマッセに背を向け、出張所入口の扉に手をかける。
「エミー!待て......」
「頑張って、ね!!」
カマッセの言葉を最後まで聞かずに、外へと飛び出す。
瞬時に、【身体強化】。
【飛蝗】走法。
跳びはねるように、全力で走る。
あっという間に大通りを過ぎ、外壁へ。
【紙魚】で登って、飛び降りて。
町の外。
荒野。
荒野を走る。まだまだ走る。
あっという間に、町は見えなくなる。
さようなら。
さようならカマッセ。
私は、結局冒険者にはなれなかったけど。
町では、ずっといじめられてばかりだったけど。
薬草も、搾取されるだけで終わっちゃったけど。
だけど、君と会えたから。
それだけで、このヨシャンカという町に来て良かった。
本当に、そう思えるよ。
嬉しい。
嬉しいんだよ、私は。
涙が、零れる。
これは、嬉し涙。
嬉し涙だよ。
カマッセ、ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
本当にありがとう。
相変わらず、びゅうびゅう吹き付ける海風。
とっても冷たい向かい風。
だけど、心がぽかぽか温かいのは。
君のおかげだよ。
ありがとう、カマッセ。
......はい。
こうしてエミーは冒険者にはなれず、ヨシャンカの町を飛び出しました。
これにて、6章におけるエミーの物語は終了です。
この先は、6章のエピローグ。
まだもう少し続きます。
お付き合いいただけると、幸いです。




