97 カマッセの論戦
冒険者たちであふれかえる冒険者ギルドヨシャンカ出張所ロビーに、さらなる乱入者あり!
それはヨシャンカで働く商売人の皆さん!
彼らは私を取り囲むように腕を組んで仁王立ちし、威圧的な視線を送る!
荒事に慣れているはずの冒険者たちも、その迫力に負け思わず後ろに下がった。
現在このロビー内は、中心に立っているわたくしエミーちゃん(と、巻き込まれたカマッセ)。
それを取り囲む商売人連中。
さらにそれを遠巻きに眺める冒険者たちという構図が出来上がった。
大変に人口密度が高いです。はい。
「お、おいまてまてまて......屋台のおっちゃんに、女将さん?突然現れて、なんの用だ?」
気持ちよく口上を述べていたのを遮られ、カマッセが困惑している。
こちらに『お前なんかやったのか!?』と目線で訴えてくるが、残念ながら心当たりありませんな!?
小首を傾げて返答とする。
「ふ、我々が用があるのは、君ではない。隣にいる、その呪い子だ」
そういって前に進み出たのは......あ、いつぞや私が反復横跳びして泣かせた屋台のおっちゃん!
「あ、あれは屋台“トーゴード串”大将のバッカローさん!」
「なに!?ヨシャンカの商工会長じゃねぇか!」
「え!?『伝説のトーゴード串職人』と呼ばれる、あの!?」
周りで冒険者たちがなにやらごそごそ言ってる。
え、あのおっちゃん、実はそんな凄い焼き鳥職人だったの?
「酒癖が悪いんだってよ」
「バツ3らしいな」
「この前、道端で吐いてた」
<なんか、どうでも良い情報もどんどん入ってきますね......>
耳が良いのも困りもんだね?
「ゴホン!」
屋台のおっちゃんが一つ咳をして、冒険者たちを黙らせる。
「あー......突然邪魔してすまんな、冒険者諸君!」
そしておっちゃんは、大声をあげて語り始めた。
「現在、ヨシャンカの町は史上空前の好景気に沸いている!ワシは小さいころからこの町で生まれ育っているが、これほどまでに活気にあふれるヨシャンカの町を見たことが無い!冒険者諸君がこの町を拠点の一つとして活動し始めてくれた、このこともこの好景気の理由の一つだろう!町民を代表して、ここで一つ、ワシから礼を言わせてもらいたい!」
「ほう」
「いやぁ、そんなそんな」
「コーケーキってなんだ?食えんのか?」
突如始まったおっちゃんの演説に、周囲の冒険者たちが思い思いの返答を返す。
ってか一人バカがいるな?
「ワシらはこの好景気を、過疎により寂れつつあったこのヨシャンカの町を再興する、一つのきっかけとしたいと考えている。それぞれの店が様々に趣向を凝らし、店舗改築、新分野の開拓など、新たな事業展開を模索している最中だ!これにより、ヨシャンカの町はより便利になる!そして冒険者諸君にとっても、住みよい町になる!そうすればさらに新たな人口がこの町に流入し、ヨシャンカはどんどん発展していく!素晴らしい未来が待っているのだ!」
「ほう」
「そういえば、そこかしこで増築工事とかしていたっけ」
「ヨシャンカってなんだ?食えんのか?」
屋台のおっちゃんは思いのほか演説がうまく、冒険者たちは思わずその話に引き込まれている!
ってか一人いるバカは底抜けのバカだな?
「しかし!」
ざわつき始めた周囲を、大声を出すことで一瞬にして静めるおっちゃん。
そして。
「このヨシャンカの好景気を邪魔する存在がいる!それがお前だ、呪い子!!」
そういっておっちゃんは、勢いよく私を指さした。
室内の視線が一斉に私へと注がれる。
え?
ここで私?
なに?私、責められてんの?
なんで私、責められてんの?
「『呪い子は周囲に不幸をまき散らす』!良く知られたことさね!」
「お前はこの町を貶めるためやってきた、悪魔じゃ!悪魔は去れ!」
おっちゃんの横から真ん丸な宿の女将と私に塩かけてきた婆さんが進み出て、さらに私を責め立てる。
そのほかの人たちも口々に、思い思いに、私のことを罵り始めた。
.........................。
あぁ、そっか。
これは、いつもの、アレね。
黒髪黒目の呪い子差別ね。
彼らは罵る。
とにかく口汚く、罵る。
私は呪い子だ。
呪い子には何を言っても良いので、とにかく罵る。
まぁ、彼らの言いたいことを要約すると。
「呪い子は町からさっさと出ていけ」
この一言に尽きる。
........................。
はぁ。
いやね?こういう経験、ないわけではないのさ。
私の生まれたゴミクズ村でも私は村八分(村十分?)されてたし。
師匠に出会う前の放浪期間では、村や町に入れてもらえたことすらなかった。
だけど、久しぶりだから。
こういうの。
はは。
ちょっとショック。
うん。
懐かしいね。
悲しい、懐かしさだね......。
私が黙っているのを良いことに、商売人の連中はとにかく好き勝手に私のことを酷く言うのだ。
曰く、常識を持たず、盗みをして生活しているに違いないだの。
不潔な病原菌の温床であるだの。
いるだけで景観を損ねるだの。
運気が下がるだの。
なんなのかな。
毎回、思うんだけどさ。
なんなんだろう、この世界。
黒髪黒目に生まれたことが、そんなに悪いの?
なんでこんなに、私が責められなきゃいけないの?
なんで?
なんで?
なんで?
さすがにさ。
思わず、漏れそう。
殺気。
あぁ、だめだめ。
我慢しなきゃ......。
<我慢、すること、ありますか?>
............オマケ様?
<こいつら、殺してしまいましょうよ、エミー。全員八つ裂きにしましょう。いや、八つでは足りませんね。関節ごとに引きちぎって、バラバラにして、海に投げ捨てましょう。どうやらここにいる冒険者は、戦闘力の低いものばかりです。エミーのことを止められる者はいません。殺りましょう。思うがままに。ぐちゃぐちゃにしましょう>
......キレてる。
オマケ様が静かに、ぶちギレていらっしゃる。
そしてもう一人。
この空間にはもう一人、私のために怒ってくれる人がいた。
「お前ら!さっきから聞いてりゃなんだよ、好き勝手なことばかり言いやがって!」
そいつは私をかばうように前に出て、顔を真っ赤にして周囲に反論している。
カマッセだ。
「こいつはな、このヨシャンカの町を救ったんだぞ!?トーゴードコマンドを倒したのはこいつなんだ!それを、黒髪黒目だから出ていけだぁ!?ヨシャンカの連中は、恩知らずの恥知らずか!」
「なんだと!?」
「突然何を言い出すんだこのガキは!」
カマッセは彼を取り囲む大人たちから一歩も引かず、私のために言い合いをしている。
「ってかなぁ!こいつが呪い子だなんだは置いといて、お前らは人間一人を町から追い出そうとしてんだ!根拠はあんのか、根拠は!呪い子は町にいてはならないなんて法律、あんのかぁ!?おい、どうなんだ衛兵!」
「......そんな法は、ない」
「なら、お前らの主張は不法で不当なものだ!大人のくせに、お前らのやっていることは、その辺のクソガキ共がやっているいじめと一緒だ!!違うか?えぇ!?」
「......ぐ!」
......カマッセは、本当に凄い。
頭が良くて、弁が立つ。
突然の事態にも関わらず、あっという間に周りの連中を言い負かしてしまった。
「しかし、オレはさっき見たぞ!その呪い子が正門を通らず、壁を登って町を出ていったところをな!」
年若い衛兵が反論する。
......あいつ、公園で寝ていた私を、真夜中なのに町の外に放り投げたやつだ。
さっき見たってことは、あれか。
カマッセを助けに行くため町を飛び出したところ、見られていたってことか。
「......だからなんだよ?壁を登っちゃいけないなんて決まりでも、あんのか?」
カマッセが一瞬口ごもる。
......うん、正門を使わず壁を登って町に出入りしているのは、事実だ。
さっきもカマッセをおぶってそうやって町に入ったから、カマッセもその事実を知っている。
「決まりはない!しかしそれは、そもそも壁を登って町に出入りする存在など、想定していないからだ!」
「決まりがないなら......」
「決まりがなくても、だめなものはだめだ!そもそも正門で我々衛兵は何をしていると思う?犯罪者が入ってこないよう、調査をしているのだ!そこの呪い子は、その調査を受けていない!いや、意図的に避けている!何故か?それはそいつが犯罪者だからだ!」
まずい。
雲行きが怪しくなってきた。
<なんだ、アレは。手足を、端の方から、順に潰して、水槽にためた、己の血で、溺死させて>
まって。
まってオマケ様、落ち着いて。
「確かに、正門を避けるなんて、怪しいよな」
「後ろめたいことがなければ、わざわざ苦労して町の外壁を登ったりはしないはず」
「違法な薬物の密売でもしてたってことか?」
野次馬冒険者共がざわつきだし、好き勝手な推論を話し出す。
「とにかく、その呪い子は連行する!詰め所にて取り調べの後、投獄か、追放だ!そこをどけ、少年冒険者よ!」
若い衛兵はそう言って、カマッセを押しのけようとする。
『投獄か、追放』って。
無罪放免って結末は、アレの中には存在していないらしい。
きっと私が何もしていなくても、何かしたことにして町を追い出せば良いとか考えているんだろう。
カマッセは......。
押されても、どけない。
【身体強化】まで使って、その場で踏ん張っている。
「貴様......!」
カマッセにはねのけられ、彼にも敵意を向け始める衛兵。
もはや、商売人の連中どころか、まわりの冒険者共も私のことを追放すべき悪であるとみなしている。
そんな空気になってしまっている。
なのに。
なのにカマッセは、まだ粘る。
「......法に基づく行為でない以上、お前のやっていることは、不法行為だぞ、衛兵」
「何を言う、このガキ......」
「そして、冒険者ギルドには、『冒険者規則』がある!」
......ん?
「この規則は冒険者を縛るルールであると同時に、今回のような不当な国家権力から冒険者を守る、盾でもあるはずだ!国際的組織である冒険者ギルドは規則に基づき、冒険者を守る!それはギルドが存在する国家間とも合意のとれた事実!そうだよな?受付さん!」
あ、まずい。
カマッセ、それは、まずい。
「あぁ!?冒険者ギルドは、この呪い子をかばうということか!?どうなんだ、受付!!」
「は、はいぃぃ~~~!?」
遠巻きに傍観していたら突然話を振られ、慌てふためく受付の女。
私から薬草を搾取し続けている、腐れ受付。
「いや、その、え~~っと......」
カウンター越しに、きょろきょろと周囲を見回す腐れ受付。
商売人、衛兵はもともと私の敵。
冒険者共も、呪い子たる私にもともと好意的ではない。
そんな状況で、あの女がどういう結論を出すか。
そんなの、決まりきっている。
というか、だ。
カマッセの主張には、大きな穴があるんだ。
本来であれば、その穴さえなければ、あの腐れ受付は私を守らなきゃいけないんだろう。
迷うことなく。
冒険者ギルドの職員として。
だけど。
「え、え~と、ですね!我々冒険者ギルドヨシャンカ出張所としましては、ですね!この町の発展に寄与していきたい、そんな思いでですね!これまでお仕事をさせていただいてきたわけで、ですね!」
「ギルドが!冒険者を!蔑ろにするのかッ!!」
カマッセが吠える。
『冒険者を蔑ろにする』。
私の話じゃなくて、冒険者全体の話として論点をすり替えた。
でもね、だめなんだよカマッセ。
「あ~、その!しません!我々は、その、『冒険者の皆さん』は、決して蔑ろにはいたしません!」
「なら!!」
「ですが、その呪い子を我々がかばいだてする、そんなことも、いたしません!」
「はぁ!?」
「何故なら!!!」
ここで、一呼吸置く。
大きく息を吸って、腐れ受付は甲高い耳障りな声で、その事実を告げる。
「その呪い子は、冒険者ではないからですッ!!!」
「........................は?」
カマッセは、ぽかんと呆けて、固まった。




