93 理不尽バーサーカー系女児エミー
走る、走る。
風を切って走る。
【飛蝗】の技法を利用して、トーゴードの生息地、北の崖までひた走る。
カマッセは、良い奴だ。
少なくとも、私は気に入っている。
私が好きになる人間って、実はあんまり多くない。
私が好きになるのは、私に優しくしてくれた人。
師匠、男爵様、そしてサラちゃん。
みんな、私が呪い子だからってバカにせず、ちゃんと人として付き合ってくれた。
だから好き。
......カマッセも。
始めは嫌なやつだと思ったけど、その心根は意外にまっすぐな、真面目なやつだった。
私にちゃんと謝罪して、焼き鳥もおごってくれた。
だから私はカマッセが好き。
カマッセには絶対に死んでほしくない。
強く強く、そう思った。
だからこそ、あのクソ鳥共に殺されかけているカマッセを見て、すっかり頭に血が上ってしまった。
もう、あいつら、殺す。
許せない。生かしてはおけない。
皆殺しだ。
目の前が真っ赤になって、そんなことしか考えられなくなった。
まずは【投石】で頭を潰して殺した。
でも、クソ鳥共は意外に頭が良いらしく、すぐに魔法で石礫を防ぐようになった。
だからそのあとは【飛蝗】で跳躍、クソ鳥に直接とりついて、【蟷螂】でたくさん首をはねてやった。
ざまあみろ。
だけど。
だけど、本当に腹立たしいことに。
繰り返すけどあいつら、頭が良いんだ。
そして私は頭に血が上り、すっかり冷静ではなかった。
気づいたら私のとりついていた個体は群れから距離をおかれ、孤立。
別の個体に飛び移ろうにも、足場が不安定だし、ちょっと遠すぎる。
......そこに襲い来る、捨て身の特攻。
ぶつかりあったクソ鳥共は、その衝撃で即死。
私もろとも、海に向かって落ちていく。
「ホホホホホッホホホホホッ!」
「「「ホホホッ!ホホホホッ!」」」
クソ鳥共の、嘲り笑うかのような、不快な鳴き声が聞こえる。
ふざけんな、ちくしょう!ムカツク!
馬鹿にするな!殺してやる!殺す!殺す!!
再び頭に血が上るけど、足場がなければどうしようもない。
じたばた暴れても、私は空を飛べないんだ。
クソ鳥共の姿がどんどん小さくなっていき、そして......。
「『風よ、吹き飛ばせ!【ストーム】!』」
そんな詠唱が聞こえたかと思うと、私の背中に向けて急に突風が発生し、私は崖に向けて吹き飛ばされる。
顔面着地する。
魔力変換で衝撃を殺し、そのままの勢いで二度三度転がる。
「おいっ!おい、大丈夫かエミー!?」
そんな声をかけながら、駆け寄ってくる足音が聞こえる。
......カマッセだ!!
むくりと起き上がり、顔をあげる。
そこにいるのは、銀髪の少年冒険者。
服はボロボロで、あのクソ鳥共に大分いいようにやられたのが見て取れるけど、大きなケガはないみたい。
元気そう。生きてる。
カマッセ生きてた。
近づいて、背伸びして抱きしめる。
胸に耳を当てる。
心臓、動いている。
カマッセ生きてる!!
......?
妙に鼓動が早い。不調?
見上げて顔をのぞき込むと、真っ赤だ。
「カマッセ、大丈夫?ケガしてない?」
「あ、あぁ!?ケガ!?そ、それはな、冒険者たるもの、転ばぬ先の回復薬!用意しとくのは基本であり優秀な冒険者たるこのオレはその辺の備えを忘れるなどということはあり得ないことであるからして!心配はいらない!」
慌てて私を振りほどき、わたわたしながらポーションの空瓶を見せつけ、無事をアピールするカマッセ。
でも大丈夫かな?まだまだ顔は赤いし、いつもと様子が違うんだけど?
<こ、この男!まさか、エミーに抱き着かれて、欲情を!?ゆ、許せません!殺しましょう、エミー!>
そして何故だかキレだすオマケ様。
いや、現在の私は7歳の女児ですよ?
カマッセはどうみても中学生くらいだし、こんな女児に抱き着かれて照れるとか、あり得る?
だとしたらどんだけ初心なんだよカマッセ。文化の違いか?
っていうかオマケ様、さっきまでずいぶんと静かでしたね?
<え?あ、あぁ、エミーが大分お怒りのご様子でしたからね。頭に血が上っていて話も聞いてくれそうになかったので、黙っていました>
あ、それはそれは。
なんかご配慮いただきまして、すみません?
「っていうかお前!お前こそ大丈夫なのか?ケガしてないか?こっちに引き寄せるためとはいえ、【ストーム】なんぞ撃っちまって、悪かった!勘弁してくれ!」
今度はカマッセがこちらの心配をしてくれた。
嬉しい。
さっきの詠唱はやはりカマッセが唱えてくれたものらしい。
「あの程度、なんともない」
腕を大きく振って、無事をアピール。
安心してよカマッセ。
「『あの程度』......とっさのことで、結構本気で撃っちまった魔法なんだが......」
あれ?落ち込んでしまった。
どんまいカマッセ!
こいつ感情の起伏乱高下で見てておもしろいな!
まぁ、とにかく、だ。
私は上を見上げる。
曇り空をバックに舞うクソ鳥共は、私の跳躍力を警戒しているらしく、大分高いところを飛んでいる。
さすがにあそこまでいかれちゃうと、今の私では手出しできない。
逆に、遠距離攻撃手段がないらしいあいつらもこちらを攻撃することはできない、とも言える。
つまりは、カマッセは助かったのだ!
私は、カマッセを守れた!
これにて一件落着だね!
......今回は、妙な神様の介入も、ないみたいだし。
私は、守れた。
今度は......守れた!
ぐぅぅぅぅ。
......お腹空いた!
後はその辺に転がってるクソ鳥共のお肉でもつまみ食いしてから、町に帰ることにしましょう。
とことこお肉に近寄って、とりあえず首筋のあたりを掴み、むりやり引きちぎる。
ぶちっ、ぶちちっ......。
あふれ出すどす黒い血液。
羽毛から顔をだす、真っ赤なお肉。
......いただきます。
ごくごく......。
むしゃむしゃ......。
「って、おぉーいッ!!てめぇ何万事解決した顔で肉食ってんだよ!ってか、生肉を食うな!調理しろぉーーーーーーッ!!」
カマッセが四つん這い落ち込みモードから復帰して、私に突っ込みを入れてきた。
やめてよ。食事の邪魔しないでよ。
機嫌悪くなる......。
「やめろ、殺気を漏らすな。お前、沸点低すぎるぞ。......あのな、上を見てみろよ」
カマッセに言われてもう一度空を見上げるも、そこにいるのはさっき見た通りクソ鳥の群れ。
同じ場所を旋回しているけど、こちらに手出しをする様子はない。
小首をかしげる。
カマッセが助かったのだから、これでもう万事解決では?
さっきは『皆殺し』だなんだと考えてたけど、あれは頭に血が上っていたからであって、冷静になった今ではそこまであのクソ鳥共の駆除にこだわる気はないんだけど?
「......大分離れていてわかりにくいが、赤く大きなトーゴードが飛んでいるのがわかるか、エミー。あいつはトーゴードコマンド。知能が高く厄介な相手だ。あいつを放置していたら、トーゴードの群れは縄張りを拡大して、間違いなくヨシャンカの町にも被害が及ぶ!何とかして、あいつを討伐しなくてはいけねぇんだよ!」
......ふーん?
「おい、何故首をかしげる。戦えない人間を守るのは、強い人間の務め!冒険者の務めだぞ?お前だって冒険者になったんだろう?ならば、それを忘れてはいけないぞ!」
あ。
カマッセは私がまだ冒険者じゃないって知らないんだ。
<彼は勘違いしているみたいですが、それもしょうがないことです。大抵の場合、冒険者登録ってすんなりできるものですからね。色んな異世界転生配信で視ました。むしろ登録の時点で躓いている人を見るのは、エミーが初めてです>
まぁ、とにかく。
カマッセは、あの赤いクソ鳥を倒したい、と。
口周りについた血をぬぐいながら考える。
カマッセがそう言うのであれば、手伝うことはやぶさかではない。
だけど、あの赤いクソ鳥ははるか上空。
手出しのできない位置に退避している。
「どうやって、アレ倒す気?」
空を飛べるやつって、ずるいよね!
攻めるにしても逃げるにしても、半端なく有利だよね。
正直、どうにかできる気がしない。
倒す方法がないでしょ。
「......方法は、ある」
あるんかい。
凄いねカマッセ。作戦立案能力高すぎない?
でも、そう言いながらも眉間に皺寄せへの字口、浮かない顔をしているけど?
「ただ......普通なら、こんな方法とれっこないんだ。お前に負担が大きすぎる。狂気の沙汰だ。だが......エミー、さっきの暴れっぷりをみせられるとな、お前ならできるんじゃないかって気がするんだ」
ほうほう?
「作戦、聞かせて?」
........................。
その後、カマッセの口から語られた作戦。
それは、正直言って“作戦”って呼んで良いのかわからなくなるほど単純なものだった。
そして普通なら、実行するのは二の足を踏む内容であることも確か。
だけど、私ならできる。
ある程度魔力変質を重ねた肉体を持ち、【身体強化】もそれなりに熟達し、何より師匠の技術を受け継いだ私ならば、難なくこなせる、はず。
できる。
「本当に、やってくれるのか?」
何を泣きそうな顔をしてるの、カマッセ。
あんたが立てた作戦でしょうが。
「大丈夫」
まったく、何をびびっているのやら。
カマッセは危険だ危険だっていうけど、私、相当丈夫だから。
滅多なことではケガとかしないから。
今回だって、全然大丈夫だから。
「......オレは、悔しいよ」
あん?
「お前に助けてもらって......さらには頼ってばかりだ。自分が情けない。弱い自分が悔しい」
おいおい、こんな時に泣き言かよ。
しょうがないなぁ。
ここは(多分精神年齢は)大人な私が、フォローを入れてあげることにしましょう。
「......今回は、私のほうが強かった。それだけ」
「............」
「カマッセも、強くなれば良い。カマッセは、強くなれる」
多分ね。真面目なやつだし。
「今度、私がピンチになったら、その時、強くなったカマッセが助けて」
「............」
「......約束」
「......あぁ、約束だ」
拳と拳を、こつんとぶつけあう。
おぉ、なんかカマッセの顔つきがきりりとした。
気合が入ったらしい。
手首をまわし、足首をまわし、首をまわし、肩をまわし、腰をまわし。
よし、オッケー。
地面に【凝固】。
足場を固める。
両足に【身体強化】。
力を込める。
最後に天高く舞う赤クソ鳥を睨みつけ、準備は万端。
いつでも行ける!
「準備は良いか!?」
もちろん!
カマッセには頷いて返答。
「オレも準備は完了だ。あとは、お前のタイミングで行ってくれ。完璧に合わせてみせるぜ」
これから始まるのは、私とカマッセが協力して行う、赤クソ鳥狩り。
そういえば、誰かと協力して魔物を狩るなんて経験、初めてだな。
師匠は協力というか、お手本を見せてやらせる、って感じの、あくまで指導っぽかったし。
なんかそう考えると、仲間ができたような気がして嬉しい。
......よし、行くか。
いつまでも心の中でにやけていても、仕方がない(顔面は無表情)。
赤クソ鳥に狙いをつけ。
軽く屈伸をしてから、【飛蝗】を発動して思い切り跳躍する。
風をきり、あっという間に空高く跳びあがる私の体。
さぁ......覚悟しろよ赤クソ鳥!!




