90 この塩のくだり、いる?
絶対にいる(自己解決)。
「むしゃむしゃ......ズッ、ズズズ......」
おはようございます!
私、今日も今日とて魔境で魔物の生肉を貪る7歳児、エミーちゃんです!
今食べているのは、モーチャッキワームと呼ばれる、おおよそ体長が2メートルくらいの、茶色いミミズ状の生物!
<ふむ、なかなかの味ですね。さすがはかの美食家モーチャッキの名を冠された魔物なだけあります>
見た目は最悪だけどね!
私もきっと、幼少期からミミズ(っぽい虫)を食べ慣れていなければ、食べようとも思わなかっただろうなぁ。
<ですが、かつてとある地域では“肉一かけらで爵位が買える”とまで言われたほどの、最高級食材ですよ。美食神の異世界転生配信で視ました>
まさか、そんな食材がカイセの森に生息していたとはねぇ。
<まぁ、品種改良が進み養殖技術が確立した現在では、それほど高値で取引はされないみたいですけどね。そもそもこの辺りではモーチャッキワームを食べる文化がないので、買取も拒否されるでしょう>
ふーん......。
こんなにおいしいのに、もったいない。
肉は火を通さなくてもぷりぷりで、エビみたい。
うまみが凝縮されていて、きっとスープとかに入れても良い出汁がとれるんだろうな。
皮はちょっと弾力があって常人には食べずらいだろうけど、私にとってはホルモン的な良さが感じられる。
とにかくおいしいし、骨もないから食べやすいのだ。
「もぐもぐ......ぶちっ......もぐもぐ......ごくん」
<ふう!おいしかったです!>
......ごちそう様でした。
こうして私の血肉と魔力になってくれたモーチャッキワームに、感謝の合掌。
今日は運よくラブリーバニーの群れにでくわし、そいつらを狩ることができた。
自動で供給される森の恵み(毒蛇)もかなり食べたので、それなりにお腹は満たされている。
<さて、今日はこれからどうしますか?まだ太陽も高くは登っていませんし、また修行ですか?>
あの腐れ受付との約束の時間は、夜だ。
サイーシュ草の群生ポイントは覚えているので、採取はあっという間に終わってしまう。
だから基本的に日中は暇なので、私は余った時間をいつもは修行や狩りにあてているんだ!
今日も予定では、このあとはしばらく修行をするつもりだった。
......でも。
<?どうかしましたか?エミー>
オマケ様......。
さっきモーチャッキワームを食べてて、思わなかった?
<何をですか?>
もし......塩があれば、さ。
もっともっと、この虫......おいしかったんじゃないか......って。
<!!!>
どう?
どう思うよ?オマケ様。
<どう思うも何も!塩がかかっていればおいしい、それはそうでしょう!しかし、私たちでは、私たちでは......!>
塩を売ってもらえない......!
店を訪れれば、容姿を不気味がられ、邪険に扱われ追い出される......!
塩が欲しいのに、接客態度だけが塩対応とはこれいかに......!
こほん。
......だけどね、オマケ様。
私に一つ、心あたりがある!
<......え?どういうことですか?>
ふふふ。
私がたまにふらりと日中ヨシャンカに入る時......ただ目的もなくぶらぶら歩いて、石を投げられていただけと、お思いですかオマケ様!
ちゃんとリサーチ、してあるんですよ!
私たちでも塩を買えそうなお店を!!
<えぇ!?ほ、本当ですか!?そんな店ありましたっけ!?>
オマケ様、観察が甘い!
もちろんあったよ!
もうね、もう我慢できない。
今度行こうとは思っていたけど、モーチャッキワームを食べて我慢できなくなった。
お塩欲しい!
と、いうわけでこれからはショッピングタイムですよオマケ様!
ヨシャンカに行って、お塩ゲットじゃ~~~っ!
そうと決めたら、即行動!
私はヨシャンカの町に向けて、猛スピードで移動を開始した。
町の外壁?
当然【紙魚】で登るよ!
なんか最近正門が凄く混んでるし、この方が早いからね!
◇ ◇ ◇
<......で、あのお店ですか?エミー>
私が今いるのは、ヨシャンカの大通りから細い路地を奥に入ったところにある、小さなお店の前。
周りの家々と同じ石造りの建物で、その屋根には“カンセン屋”と書かれた年季の入った木製看板が設置されている。
店内に並べてある商品はお皿だったり、剣だったり、野菜だったり、木彫りトポポロック人形だったりと節操がないが、良く見ると奥の方に......あった!お塩だ!
<確かにお塩が売られてはいますが......売ってもらえなければ、買えませんよ?そこは大丈夫なのですか?>
ふふふん、ふふん!
店番をしているあのおばあちゃんを見てよ、オマケ様!
<あの、店の奥で毛布にくるまりながら椅子でうつらうつらしている老婆ですか?>
そう!
......優しそうでしょ~?
それに多分、お歳を召していらっしゃるから、視力も落ちているかもしれないしさ!
ちゃんと髪を隠せば、私が呪い子だって、ばれないんじゃないかなって思っているのさ!
<なるほど。つまり狙い目ババアなのですね?>
いや、その“狙い目ババア”なる慣用句は聞いたことないからなんとも言えないけどさ......。
とにかく、このお店ならきっとお塩を買えるはずさ!
早速入店、お塩の袋をとって、おばあちゃんの前へ。
「......こんにちは」
ちゃんと挨拶。
「......んむぅ?ふわぁ、お客さんかい?」
おばあちゃんは大きなあくびを一つしてから目を覚ます。
そしてごしごしと目をこすり、じっと私の顔を見て......。
「......ぎゃ~~~~~~っ!!呪い子~~~~~~っ!!」
と、絶叫した。
........................あれ?
<ちょっとエミー、やっぱりだめじゃないですか!!>
「その背格好!頭に巻いた布!あんた、ここ最近ヨシャンカをうろついてるっていう、呪い子だろう!」
「あ、あの......」
「言い逃れはできないよ!『呪い子出没注意!!』って、町の掲示板に貼られていた情報とあんたの容姿、ぴったり一致しているんだからね!」
なんだその掲示!?
わたしゃ、熊か!!
「出ていけ!出ていきな!呪い子なんかに売る品物はないよ!私を不幸にする気かい!?」
おばあちゃんは私からお塩の入った袋をひったくり、その中から塩を掴んで......私に向かってぶちまけた!
「一昨日来やがれ!」
次々と私に向かってまかれる、塩!
うわぁ、もったいない!もったいないよ~!
もうこんなんなったら、売り物にならないじゃない!
もったいないから床をペロペロ!お塩ペロペロ!
<ちょ、ちょっとエミー、この世界では塩をまかれるのは、最大限の拒否や侮辱を表しています!その塩をなめとるのはさすがにどうかと思いますよ!>
え、この世界でもそうなの?
前世でも、客に塩をまいて追い返すってのは、大体そんなニュアンスの行動だったような気がするな~。
<なら、なおさらやめましょうよ!?良いですか?そもそもこれは数百年前に“アオナー”という巨大なナメクジの魔物を、勇者が塩をまいて追い払ったという伝説に由来しています。つまり、あなたナメクジ扱いされてるんですよ?ちなみにこの伝説からは“アオナーに塩”ということわざも生まれ......>
ちょっと何そのつっこみどころ満載の伝説?
<床をなめている人がつっこみを語らないでください!今つっこんでいるのは、私です!>
「良い加減に......出ていけぇ~~~っ!」
その見た目とは裏腹に非常に俊敏な動きで繰り出された足技によって、体重の軽い私は蹴り飛ばされ、お店の外に転がり出た。
「二度と来るなよ!」
へん!
言われなくとも二度と来るかいこんな店!ぺっ!
ぺっ!ぺっ!ぺっ!
あ~~~......しょっぱい。
<本当にエミーは......たまにもの凄くアホですねぇ......>
オマケ様に言われたかないやい。
◇ ◇ ◇
そんなわけで、私のお塩ショッピング大作戦は失敗に終わった。
本当、社会で生きていくのは難しい。
とぼとぼと路地を抜け、大通りに戻る。
「おいっ!どけろ!どけろーッ!!」
ドンッ!!
すると突然の衝撃。
あたた。
大通りに出るなり、向こうから走ってきた大男に突き飛ばされ、倒れる私。
あ、『あたた』とは言ったけど、全然痛くはないです。
この程度の接触事故では私の体は傷一つつきませんとも。
多分、車にひかれても今なら死なない自信がある。
でもね、いくらこっちがぼーっとしていたとは言え、いきなり突き飛ばすってのはさ、酷いじゃない?って思うわけ。
そんで、謝罪の一つもないわけだし。
最近どんどんと心が荒んできていることもあって、思わず殺気も漏れようというものなんだけど......ん?
私を倒した男の走っていった後を見ると、そこに転々と続いているのは、血痕。
思わず、走り去っていった男を見遣る。
その男の背には、ぐったりとした別の男性が背負われている。
右肩から背中にかけて、大きく抉られたような傷跡。
大けがをしている。
「先生!先生!急患だッ!!」
私を突き飛ばした大男は、そのまま冒険者ギルド出張所に隣接する魔法治療院に駆け込んでいった。
<何やら、事件があったようですね?>
なんとなく気になった私は、他のやじうまに交じって治療院の窓まで駆け寄り、中を覗きながら聞き耳をたてる。
海風の音やら雑踏のざわめきのせいで聞き取りにくいけど、私のスーパー聴覚は、なんとか室内のやりとりを盗み聞くことに成功していた。
「こ、これは酷い!キミ、すぐにポーションを持ってきたまえ!一度容態を安定させてから、魔法治療だ!」
「はい、せんせぇ!」
キスケット先生のような白衣らしき服を着た初老の男性が、大けがをした男をベッドに横たえる。
助手らしき女性が、あわてて戸棚を開け、中から薄い水色の液体の入った瓶を取り出し、白衣の男性のもとに持っていく。
「相棒!しっかりしろ、しっかりしてくれ、相棒!」
私を突き飛ばした大男は、ベッドに横たわる男性の手を握りながら、必死に呼びかけている。
その横で白衣の男性は、ポーションを大きな傷にふりかけた。
「ほら、ポーションだ......!よし......よし、無事に間に合ったようだ」
「あぁ、あぁ、相棒!相棒ぅぅ......!」
すると患部には柔らかな光が発生し、血が止まり、肉体の再生が開始される。
相棒の命が繋ぎ止められ安心したのか、大男はその場にへなへなとへたりこんだ。
「それにしても酷いけがだ。一体、何があったというのかね?」
白衣の男性は患部に手のひらを向け、魔法治療を施しながら、大男に尋ねる。
「卵を、俺たちは北の崖でトーゴードの卵を取っていたんだ。そしたら......奴が現れたんだ......!」
「奴......!?」
奴......?
<奴ってなんでしょう?>
「赤いトーゴードだよ!なぁ、先生、トーゴードってのは群れないはずだろ!?見つかっても少し隠れておけば、すぐに人間から興味を失って、どこかに行っちまうはずだろ!?」
大男は震えながら、両手で額をおさえながら語る。
「それなのに......あいつの周りに飛んでいたトーゴードたちは、違ったんだ......!」
「なんだと?」
「地獄だった......!あの赤いトーゴードが鳴くたびに、まるで指揮されているかのように、しつこくこっちに襲いかかって来やがるんだ!そのせいで、相棒が......相棒が!」
「なるほど......危険な特殊個体が現れたということか......!キミ、すぐに冒険者ギルド出張所に連絡したまえ!トーゴードの卵採取依頼を、一旦差し止めてもらう必要がある!」
「はい、せんせぇ!」
助手の女性はパタパタと足音を立てながら、外出の準備を始めた。
ふむふむ、どうやら北の崖に、危険な魔物が現れたらしい。
あのおっさんは、そいつに相棒をやられて、大慌てで戻ってきたってことか。
無事に助かったようで、良かったねぇ。
白衣の男性は、魔法治療を続けながら会話を続ける。
「安全な卵の採取のためには、その特殊個体の討伐が必要だろうな......何級以上の等級の冒険者が必要か、考えなくてはな。ちなみにキミも卵採取に行っていたということは冒険者だろう?参考までに聞かせてくれ、キミは何等級の冒険者なんだい?」
「54等級だ......」
低ッ!?
ってか、冒険者等級ってそんな下までランクが用意されているの!?
<確か100等級まであったはずです>
細分化されすぎだろッ!!
「......低すぎて、参考にならんな......」
「くっ......」
「そういえば、確かキミは3等級の冒険者証を持っていたよな?」
「はい、せんせぇ!」
『はい、せんせぇ!』の助手さん、つえぇーーーーッ!!?
「......ん?ちょっと待ちたまえよ?キミ、54等級と言ったね?そんなキミが、どうやってしつこく襲ってくるトーゴードたちをまいて、ここまで逃げてくることができたのかね?」
「あ......!そうだ、そのことを忘れていた!」
へたり込んでいた大男は、慌てて立ち上がる。
「お、オレたちは助けてもらったんだ!あいつ、自分一人が囮になって、オレたちを逃がしてくれたんだ!あいつの救助依頼、出さなくちゃいけねぇ!」
「あいつ?いったい誰かね?」
「名前は知らねぇ!偉そうな口調の、銀髪のガキだ!」
........................カマッセじゃん。
<多分、カマッセですね?>
「あのガキは強かった!魔法も剣も、使いこなしていた......だが、相手の数が数なんだ!いくら強くても、あの数相手に、いつまでも戦い続けるなんて、できるわけが......」
......とりあえず、私が盗み聞きした大男の話は、そこまでだ。
何故なら、ここまで聞いた時点で、私は北の崖に向かって走りだしていたから。
<......助けにいくんですね?>
当たり前でしょ、オマケ様。
カマッセは良い奴だよ。
明らかに年下の女児である私に剣を向けたり、口が悪かったり、ちょっと頭おかしいんじゃないかって思う言動も確かにあった。
でも最終的には、呪い子である私にすら、非を認めて謝罪してくれた。
あいつは、凄く良い奴だよ。
根が真面目で、将来有望な冒険者だよ。
こんなところで死んで良い奴じゃ、ないよ。
......焼き鳥も、おごってくれたしね!
私はヨシャンカの大通りを、北に向かって風のように走る。
そのままの勢いで【紙魚】を使い外壁を登り切り、荒野に向かって飛び跳ねる。
目指すは北の崖、海に面した断崖絶壁。
巨鳥トーゴードの生息地。
私は、死なせない。
今度こそ。
好きになった人間を、守る!
その一心だった。
......だから、気づいていなかった。
そうやって、外壁を駆け上がり町の外に出ていった私のことを、じっと見つめるまなざしに。
当然、そこに込められた、悪意にも。




