86 焼き鳥をおごってもらう
「とりあえず、そこ座れ」
カマッセにそう言われ腰かけたのは、ヨシャンカの大通り脇にある石造りのベンチ。
ヨシャンカにはベンチが多い。
そこかしこにベンチがある。
ベンチと言うか、余った建築資材をそのまま放置しているだけのような気もするけど、長い間人々に座られ続けた結果、これらの石からは角がとれ、名実ともにベンチとなっている。
だから本来的な話は置いといて、これらはベンチだ。
ベンチで間違いない。
閑話休題。
「なに?用?」
カマッセを見つめながら、小首をかしげる。
勝負は昨日のうちに終わったんだし、もうカマッセに絡まれる理由はないはずなんだけど?
カマッセはそんな私の様子にため息をつく。
「あのなぁ......てめぇ、屋台に迷惑かけてんじゃ、ねぇよ。あの屋台のおっちゃん、泣いてたぞ?てめぇ、おっちゃんに何したんだよ......」
「反復横跳び......」
「何故!?」
「焼き鳥、売ってほしくて......」
「焼き鳥買いてぇ奴が何で反復横跳びして店主を泣かせんだよ!?」
それは、その場の流れでとしか言うほかないな!
ぐぎゅるるるるるるる......!
おっと。
お腹が盛大に鳴る。
その様子をみて、カマッセは眉間に皺寄せ、少し困ったような顔をした。
「......焼き鳥、売ってもらえなかったんだな」
こくりと頷く。
びゅおお......。
強い海風にかき消されたけど、カマッセがまたしても大きなため息をついたのがわかった。
そして。
「......ほれ」
「ッ!!?」
そしてカマッセは、両手に持ったでかい焼き鳥の“片方を”、私に向けて差し出した!
え!?これって......!?
くれるの......!!?
私の視線は、何度も焼き鳥とカマッセの顔を行ったり来たり。
「やめろ。超高速でオレと焼き鳥を何度も見比べるのはやめろ。速すぎて怖い。......こほん、腹減ってんだろ?やるよ」
う......うわあああああああああああああああああああああああッ!!!
カマッセ!カマッセええええええええええええええええええええッ!!!
お前ッ......!
お前本ッ当に良い奴だなああああああああああああああああああッ!!!
許したッ!!
もう、出会った時のクソ生意気な態度とか、剣を向けてきたこととか、全部許したッ!!!
「あ......ありが、とう」
号泣。
私、またしても号泣している。
無表情のまま、どばどばと涙を流しながら、カマッセの“両手から”焼き鳥の串をいただく。
「あ、ちょ、てめッ......!!」
カマッセが何か言っているけど、耳に入らない。
おいしい......焼き鳥、おいしいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!
「おい!てめぇふざけんな!片方はそれ、オレのだから!両方食ってんじゃねぇ!ってか、おい、やめろ、串ごと食うな!串は出せ!ペッしなさい、ペッ!!」
パリパリに焼かれた皮、ジューシーな肉汁......!
ベーコンのような、鶏もも肉の焼き鳥のような、不思議な味わい......!
おいしいよ......おいしいよおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!
ありがとう!本当にありがとうカマッセ......!
何か私の肩をゆすりながら耳元で叫んでるけど、ちょっとごめんね、私、今話を聞いている余裕ないから。
でも、感謝は本当にしているから!
ありがとう、カマッセ!!!
◇ ◇ ◇
「......おいしかった」
「ならせめて、もっとうまそうな顔して食えや、ボケが。ってか、ちくしょう、両方食いやがって......」
食後。
味に満足し、肉の余韻に浸っている私に、カマッセが何故かうなだれながら文句を言ってくる。
でも、無表情なのは仕方がないね。
私、表情筋死んでるからね。
「......まぁ、いい。トーゴード串くらい、また買えばいい。おい、呪い子」
「なに?」
「てめぇ、名前は何ていうんだ?」
「エミー」
「そうか。エミー」
カマッセは私の顔をじっと見つめたと思うと、突然頭を下げた。
「......すまなかった。エミー、迷惑をかけた」
......え?
カマッセ、突然の謝罪。
呆ける私に、カマッセは言葉を続ける。
「オレはさ、『天才』なんだよ」
そして流れるようにオレ様自慢。
なに言ってんだ、こいつ?
「昔から剣も魔法も、誰にも負けなかった。天才だから、強いから、何をしたって良いと思っていた。『未来の特級冒険者』だなんだと言われて、調子にのっていた。だけど、お前に負けてよ......薬草採取ですら負けて......少し、冷静になれた」
そう言いながら顔をあげたカマッセは、恥ずかしいのか真っ赤になっていた。
「だから......すまなかった。そして、ありがとう。オレ、あのままだったら、もっと増長して、もっと嫌な奴になってたと思う。だから、その、ええと......ええい!」
考えがまとまらないのか、しどろもどろになりながらも、カマッセは。
「とにかく、オレはもっと凄くなって、てめぇよりも強くなってやるから!見とけよ!いつまでも、てめぇよりも弱いままのオレじゃねぇからな!それじゃあな!!」
そう宣言してから、あっという間にどこかへと走り去っていってしまった。
<......言いたいことだけ言って、行ってしまいましたね>
うん。
これはもう、あれだね。
カマッセの癖だね。
昨日の薬草採取勝負の下りとかも、こんな感じだったし。
こっちが反応する前に、話を打ち切っちゃうんだもん。困ったもんだよ。
......でも。
<嫌な感じのする人では、ないですよね>
うん。
カマッセは良い奴だよ。
焼き鳥おごってくれたし。
<............>
............。
<時に、エミー>
なに?オマケ様。
<あなた、薬草採取に同行してくれる人を、探していましたよね?>
うん。
<......カマッセに頼めば、良かったのでは?>
........................。
あ。
気づいた時には、後の祭り。
既にカマッセは何かの依頼をこなすためか、町を飛び出しており、つかまりませんでしたとさ。
<もー、どうするんですか?エミー。カマッセが帰ってくるのを待ちます?>
うーん、まぁ、それでも良いんだけど......。
<......?他にも案が、あるのですか?>
うん......まぁ、もう一つ、思いついたことはあるよ。
カマッセもいつ帰ってくるかわかんないし......ちょっと、先にそっちを試してみようかなぁ。
<試せることは、なんでもやってみるべきだと思います>
うん。
よし、じゃあ、今日もカイセの森に行きますかね。
焼き鳥だけじゃ、お腹も膨れないわけだし。
ついでに蛇も食べてこよう。
私は森に向かって駆けだした。
正門を抜けるのはやっぱり面倒くさいので、外壁は【紙魚】で登って乗り越えた。




