85 ヨシャンカは昼間の風も冷たい
びゅおお......。
相変わらずの海風吹きすさぶヨシャンカ郊外の荒野から、おはようございます。エミーです。
<エミー、おはようございます。しっかり眠れたようで、何よりです>
今私がいるのは、荒野に生える地を這うように広がる灌木の根元に掘った、穴。
昨晩作った、私のねぐら。
隙間なく生い茂る硬質な葉はしっかりと風を防いでくれて、雨が降ったらどうなるかわからないけど、割と快適で過ごしやすい。
もぞもぞと灌木の茂みから這い出て、伸びをする。
天気は相変わらずの曇り。
風は冷たい。
まだ慣れない潮の臭いが鼻につく。
<さて......どうします?エミー>
......どうしようかね、オマケ様。
昨日、冒険者になるために挑んだ『課題』。
無事に達成できたにも関わらず、あの受付は私の薬草を盗んだものだと決めつけ、ろくに話を聞いてくれなかった。
<まさか、あそこまでぞんざいな対応をされるとは、私も考えていませんでした>
だよねー......。
私が冒険者になるためには、サイーシュ草を採るだけではなく......それを本当に自分が採取したのだと、証明する必要があるということだ。
<......エミー、昨日焚きつけた私が言うのもなんですが......まだ、諦めていないのですね?>
............。
うん、まあね!
昨日『理不尽に打ち勝つ!』って決意表明した矢先に、いきなり諦めるってのは恰好がつかないしね!
一度相手にされなかったからって、なんだというのだ。
そう、私はまだ、一度ぞんざいに扱われただけ。
こんなことで諦めるような人生を、私は歩くつもりはないぞッ!
<では、どうしますか?>
簡単なことだよ、オマケ様。
私が一人で薬草を採ってきた結果、それが盗んだものと疑われたわけだ。
つまり、一人で行かなければ良い。
私の薬草採取に同行して、私がサイーシュ草を採取したと証明してくれる人を、探せば良いんだ!
<なるほど。しかし、そううまくいきますかね?>
......わからないけど!
わからないけど、何かやってみないことには始まらないわけだし?
とりあえず、また冒険者ギルドの出張所に行ってみよう!
私は、ヨシャンカの町に向けて駆けだした。
正門まで回り込むのは面倒だったので、外壁は【紙魚】を使うことで乗り越えた。
◇ ◇ ◇
......1時間後!
ヨシャンカ中心部にある公園に設置された、石造りのベンチの上!
そこで私は......頭を抱え、うなだれていた!
<......うまく、いきませんでしたね......>
うん......。
黒髪黒目は呪い子だ。
この世界の常識である。
私は今日も布を巻いて髪を隠していたんだけど、私が呪い子であるという噂は、昨日のうちにすっかり広まってしまっていたらしい。
そんな呪い子に「魔境まで薬草採取に同行してくれ」と言われても、首を縦に振る冒険者はいなかった。
皆不吉がって、そもそも私と喋ることすら嫌がるのだ。
中には武器を抜いて、私を威嚇するおっさんもいた。
ちょっと【威圧】してやるだけで、腰を抜かして失禁していたけど。
女児に【威圧】されるだけで怯えるおっさんとか、冒険者として荒事をこなせるのか逆に不安になってしまった。
じゅー......じゅー......。
私の目の前には、でかい焼き鳥みたいなものを焼いている屋台。
ヨシャンカでは、外で朝ご飯を買って食べるのが普通らしく、町中にはいくつかこういう屋台が散見される。
ぐぅぅ......。
お腹空いた。
そういえば、今日は起きてから何も食べてないや。
<エミー、エミー!ここはひとつ、おいしいものを食べて、気分でもかえませんか!?>
オマケ様が、明るく提案してくれる。
......うん。
うん、そうだね!オマケ様!
おいしいもの!生肉じゃない、調理されたおいしいものを食べよう!
幸い、手元には男爵家でメイド見習いをして稼いだお金、15万エーンがある。
ちょっと焼き鳥を買うくらい、わけないのだ!
あ、エーンは通貨です。
“円”に響きが似ているのは、偶然みたいです。
とことこと、屋台に近づく。
余談だけど、ヨシャンカの屋台は必ず海側に背を向け、その背の部分をしっかりとした板で覆っている。
こうすることで、海風を防いでいるらしい。
本当に余談だけど。
近づくにつれ、良い香りが漂ってくる。
肉の脂の香り。
炭の香り......。
ぐぎゅるるる......。
あー......もう我慢できない!
おっちゃーん!その串、10本頂戴な!
「!?てめぇ、その恰好、昨日町に来たっていう呪い子か!?うちの屋台に近づくんじゃねぇッ!!」
......串を焼いてる白髪のおっちゃんに、アツアツの炭を投げられてしまった。
もちろん、瞬時に避ける。
「あの、串、欲し......」
「商売の邪魔だッ!早くッ!どっかに行きやがれッ!」
「............」
次々に投げられる炭。
私はその全てを、華麗に横跳びで避ける。
体があったまってきたので、サービスで(?)反復横跳びも見せてあげる。
シュシュシュッ!シュシュシュッ!
見よ!この速度!
ゴミクズ村にいた時とは比べ物にならない、この速度!
残像が見えるぜ!!
「な、なんなんだよてめぇはよぉッ!てめぇが寄ってくるだけで、他の客がうちから逃げてくんだよぉッ!勘弁してくれよッ!どっか行ってくれよぉッ!!」
........................。
屋台のおっちゃんが、マジ泣きを始めた。
え、えっと......その......。
ごめんなさい......。
なにこれ?
なんなのこれ?
私が悪いの......?
釈然としないものの、泣かれてしまうとどうも申し訳ない気がしてくる......。
私は屋台に背を向け、とぼとぼと歩き出した。
......とりあえず、カイセの森に行こう。
生蛇でも食べよう。
冷たい石畳の上を、素足でぺたぺたと歩く。
寒い。
ヨシャンカは昼間の風も冷たい。
「......おい!」
そんな時、後ろから私に声をかける存在があった。
年若い、少年の声。
振り返ると、そこにいたのは銀髪の少年冒険者、カマッセだった。
......カマッセはその両手に焼き鳥の串を一本ずつ持って、私を見つめていた。
第85話にして、初めて通貨の単位が登場する作品!
それが、『オマケの転生者』です。
今後とも、よろしくお願いします(なんだこの挨拶)。




