83 カマッセとの勝負の行方
ヨシャンカはいつも曇り空。
前にサラちゃんと......前のサラちゃんとお喋りしていたとき、教えてもらったことだ。
結構有名な話みたい。
今日も確かに曇り空だった。
海の向こうに目をやれば、雲が赤く色づき、隙間から眩しい光が漏れている。
夕日だ。
今私がいるのは、ヨシャンカの正門。
無事目的の薬草を採取し、予定通りの時間に町まで戻ってきた私は......何故かカマッセのお説教?を受けていた。
「遅い!!」
森から小走りで(とはいっても【飛蝗】走法なので、それなりのスピードは出ている)帰ってきた私を視認するや否や、カマッセが言い放った一言がそれ。
「良いか?冒険者に出される依頼ってのにはな、大抵期限が定められている!優秀な冒険者ってのはな、時間的余裕をもって依頼をこなすもんだ!それが依頼人の為にもなるからな!つまり、こんな待ち合わせ時間ぎりぎりに帰ってきたてめぇは時間管理能力が劣っており、オレの勝ちだ!」
......うん、前半で言いたいことはよくわかるよ。
時間を守れ、期限を守れ......大事なことだよね。
でも、最後の一言が全部台無しにしているよカマッセ。
っていうか、今ここでカマッセに絡まれるまで、彼に勝負を挑まれたこと自体、すっかり忘れていたよ、私。
「カマッセ、薬草とれたの?」
これ以上お説教と言うかマウントとりを聞くのも疲れるので、話題を変える。
「おぉ?てめぇ、オレを誰だと思っている!このカマッセ様にかかればな、薬草採取なんざお茶の子さいさいってもんよ!見やがれッ!!」
そういって口調は勢いよく、しかし手つきは繊細に丁寧に、カマッセは背負っていたリュックからいくつも薬草を採りだし、地面に並べ始めた。
「良いか?この一番右端の小さな草、これがウル草だ!虫下しに使える薬草で、どこでも採れて買い取り価格は安いが、てめぇみたいな駆け出しが軽んじて良い薬草じゃねぇ!ウル草を笑う者はウル草に泣く!覚えときな!次にこの斑点がついた細長い草だが......」
カマッセの薬草解説が始まった。
その解説は口調の乱暴さに反して非常に丁寧であり、冒険者視点で語られる内容は非常に為になる。
「......というわけで、よくわかっただろう?オレは冒険者として活動するのに必要な薬草の知識を、いや、それだけではなく、各種魔物素材の知識に至るまで、幅広く修めているのだ!故にオレがてめぇなんぞより優れていることは自明の理であり、やはりこの勝負、オレの勝ちだ!!」
<......最後の一言さえなければ、良いんですけどねぇ>
オマケ様が脳内でため息をついた。
「というかよ、てめぇはどうなんだ?何を採ってきやがった?どうせ薬草の知識なんざもっていねぇ呪い子のてめぇは、森をうろつくだけで何一つ収穫は得られなかっただろうがな!」
ん?カマッセ、私があの受付からサイーシュ草を採って来いって『課題』出されたの、聞いてなかったのかな?
<この少年はあの時床に縛りつけられてもがいていましたからね。細かい話は覚えていないのでしょう>
オマケ様と会話しながら、私はリュックを下ろして中からサイーシュ草を取り出す。
今回は、少し小ぶりな株を3本採ってきた。
もっと良い株は大量にあったけど、今回はリュックに詰めて傷つけずに運ぶことを優先し、これらを選んだんだ。
私の目的はサイーシュ草でお金を稼ぐことというより、『課題』をクリアして冒険者証を作ってもらうことだからね。
「んなッ!?こ、これはサイーシュ草!?」
私がリュックから取り出したそれを見て、カマッセは目を見開きわなわなと震える。
あれだけ深い知識を持っているカマッセなので、当然サイーシュ草のことも知っているようだ。
「バカな!バカなバカなバカなッ!カイセの森のサイーシュ草の自生地はラブリーバニーの生息地と重なる危険地帯と聞く!てめぇ、怪我とかしてないか!?大丈夫か!?ラブリーバニーはどうした!?」
「倒した」
「たっ倒したッ!?あいつら、きちんと装備を整えた4級以上の冒険者がパーティを組んで討伐するような魔物だぞ!?......いや、確かにてめぇの戦闘力は高い。討伐は可能、かもしれんが......なら、てめぇ、首はどうした!?」
「首?」
「討伐証明だよ!首を集めてギルドに持っていけば、ラブリーバニーの場合は報奨金が出る!くそ、そんなことも知らねぇか!」
「食べた」
「何で首を食べるんだよ!?」
「お腹空いて」
「首以外を食べろよ!」
「首以外も全部食べたよ?」
「完食!?あのでかい魔物を丸ごと完食!?どんだけ大食いだよ!?」
「5匹分全部食べた」
「だから、どんだけ大食いなんだよ!!」
ぐぅぅ......。
「まだ足りないのか!?まだ食う気なのか!?ってか......ふん!嘘を言うのも大概にするんだな、呪い子!」
と、ここでカマッセ、何かに気づき私を嘲るような表情を作った。
「嘘じゃない」
「てめぇの服装、キレイすぎんだよ!血の染み一つついていねぇ!その格好で、ラブリーバニーを討伐?は!オレの目は欺けんぞ!」
「洗った」
「洗うだけで血糊が落ちるかボケ!」
落ちるんだなこれが。
小川にでも浸かって【剥離】を使えば、割と簡単にキレイになる。
【乾燥】を使えば、濡れた服もすぐに乾くし。
......っていうか。
ちらりと夕日の沈む海を見る。
お日様は先程よりも沈んだらしく、雲から漏れ出る夕日の光は大分少なくなってきた。
もうすぐ夜が来る。
「カマッセ、早く冒険者ギルド、私行きたい」
私はサイーシュ草を再びリュックに戻しながら言う。
「勝負?どっち勝ち?」
「うっ」
言葉につまるカマッセ。
今回の勝負は、採った薬草の価値が高い方が勝ち、だっけ?
「オレの、薬草は、種類が様々、様々な需要に対応、できる!量もある!オレは、各種薬草に、造詣も深く、豊富な知識!」
カマッセは地面に並べた自分の薬草を見つめながら、何やらぶつぶつと呟き葛藤している。
「なら、カマッセの勝ち。カマッセの知識、本当に凄い。カマッセは、優秀な冒険者」
「あ、当たり前だッ!だが、だがッ......!」
カマッセの言葉の端々に見て取れる冒険者業に対する態度だとか、深い知識だとか、そういう点は本当に尊敬できる部分なんじゃないかと、私は思うんだ。
だから、素直にほめる。
すぐにマウントとりたがる性格はどうかと思うけどね。
私は正直、勝負とかどうでも良いので、カマッセの勝ちということにして、この場を早く切り上げたい。
だけど、カマッセとしてはそうもいかないみたい。
「価値!価格のことを、言うのであればッ!!」
震えながら。
「サイーシュ草!そんなもん、3本も、採取、されたらッ!!」
絞り出すように声をだす。
「お前のッ!!勝ちだッ!!呪い子ォォーーーーーーッ!!!」
そこまで言うと、カマッセは白目を向いて気絶した。
直立姿勢のまま後ろに倒れ、ぴくぴくと痙攣している。
<負けを認めるのが嫌で気絶するとか、筋金入りの負けず嫌いですね!?>
なのに勝負の判定自体は公正に行うカマッセ。
ほんと、うざいけど嫌いになれない。
あ、門番のおっさんがカマッセを引きずって町の中に放り込み、門を閉め始めた。
待って待って!私も中に入るって!
慌てて町の中に入った私は、カマッセを放置し、冒険者ギルド出張所を目指して駆け出した。
門番のおっさんが様子をみてるし、ほっといても大丈夫でしょ。
◇ ◇ ◇
「このサイーシュ草、あなたが採ったものだと、証明できますか?」
は?
「どうせ、他の冒険者パーティの採取してきたものを、盗んだのでしょう?さすが呪い子は手癖が悪い」
は?
「お引き取りください。このサイーシュ草は本来の採取者にお返しいたしますので、私がお預かりします」
は?
「初犯ですので、衛兵は呼ばずに済ませてあげましょう。さ、はやくお引き取りください」
は?
で、これが意気揚々とギルドに向かい、『課題』を出してきた受付の女にサイーシュ草を提出した時のやりとりである。
流れるようにあしらわれ、受付カウンターの列からはじき出された私は、ただただ呆然としてしまった。
........................。
は?




