82 名が体を表していないんだけど?
「おぉ......」
私は、思わず目の前に広がる光景に目を奪われていた。
【飛蝗】を使い跳躍して、良さげな森の中の空き地を探し、そこを訪れることこれで13か所目。
ついに私は、お目当てのサイーシュ草を見つけ出すことに成功していた。
......しかも、大量に。
<美しい......>
オマケ様も思わずそう呟く。
その空き地には、一面にサイーシュ草が広がっていた。
私の背丈ほどもある大きな株がそこら中に生えている。
その水色の葉っぱは、曇り空から漏れるように降り注ぐお日様の光を浴びてきらきらと輝く。
カイセの木々が黒っぽいだけに、その輝きは余計に眩しく見える。
<これであの受付嬢の『課題』はクリアですね!エミー>
そうだね、オマケ様。
時間もないことだし、とっとと数株採取して、ヨシャンカに戻ろうか!
背負っていたリュックをその場に降ろし、手近なサイーシュ草に近づく。
でも、その時だった。
「ピィッ!!」
甲高い鳴き声が聞こえたと思った次の瞬間、私は腹部に衝撃を受け、吹き飛ばされていた。
その勢いたるや凄まじく、吹き飛ばされたその先で私のぶつかったカイセの木が何本もへし折れる。
<だ、大丈夫ですか!?エミー!!>
うん、特に問題、ないかな?
常時【身体強化】は発動しているし、魔力変質とやらで強度が増している私の肉体は、この程度では傷一つつかない。
私はすぐに身を起こし、私を吹き飛ばした敵を睨みつける。
そこに立っていたのは......ウサギだった。
いや、ウサギなのかな......?
少なくとも、顔はウサギだ。
ウサギの小さな顔が、身の丈2メートルを超すマッシブな肉体に乗っかった、白い毛並みの生物。
それが私を攻撃した犯人だ。
サイーシュ草の草むらに隠れ、近づいた私をあの太い足で蹴り飛ばしてくれたらしい。
いや、ていうか、そんな状況確認よりも何よりも、えっと......その......。
何?あの生物、何?
<アレは......ラブリーバニー!強靭な肉体を持つ、危険な魔物です!冒険神の異世界転生配信で視ました!>
バニー......いや、バニー?そうか、バニー......やっぱあれ、ウサギなんだ......っていうか、ラブリー?どこがラブリー?
<額の部分をよく見てください、エミー!赤いお花模様が見えるでしょう?それがかわいらしいと貴族の間で話題になり、ラブリーバニーと名付けられたのです!>
いや、違くない?注目すべきポイント、そこじゃなくない?
もっとあの逞しい肉体に注目すべきじゃない?
<確かに、ラブリーバニーというかわいらしい名前に騙され、討伐依頼を請け負った冒険者が返り討ちにされる事例が、後を絶たないそうです!>
もう名前変えろよ!デンジャーバニーでもマッシブバニーでも良いからさ!
<ちなみに額のお花模様、あれは先天的な模様ではありません!自らが血祭りにあげた獲物の血液を使って描く、戦化粧なのです!>
唯一のラブリー要素ですら、真相がラブリーじゃない!!
「ピィーーーーーーーッ!!」
再びラブリーバニーが甲高く鳴く。
するとむくりと体を起こし、サイーシュ草の草むらから現れる別のラブリーバニーが、あわせて4体。
<気を付けてください、エミー!ラブリーバニーは集団で狩りをする肉食のウサギ!当然人間も狩りの対象です......ただのウサギと、侮ってはなりませんよ!>
いや、アレをただのウサギと侮れる人間がいたら、私はそいつの感性を疑うね!
というか、“肉食のウサギ”にあまり違和感を覚えなかった自分にびっくりだよ!
完全にこの異世界に染まってきたな、私!
「ピィッ!!」
最初に姿を現した個体、そいつがおそらくリーダーなのだろう。
ラブリーバニーリーダーが鋭く一声鳴くと、他の4体は私を取り囲むようにフォーメーションを展開する。
威圧感あふれる肉体で行く手を遮るその姿は、まるで筋肉の壁!
「ピッ!!」
「ぐ!?」
突如、背中に感じる衝撃!
私の背後に回った個体が、私を殴り飛ばしたらしい。
私の軽い体は、抗えず宙に浮く。
【接着】で足元を固定したり、魔力変換で衝撃を殺したりと、後から対処の仕方は思いつくけど、意識外からの攻撃には、とっさに対応できない!
「ピッ!!」
「が!!」
私が殴り飛ばされた先には、別のラブリーバニー!
そいつも遠慮なく私を殴りつけ、別方向に吹き飛ばす。
そして、その先にも更に別のラブリーバニーがいて......!
気づけば私、円形にフォーメーションを組んだラブリーバニーたちに、まるでボールのようにラリーされ続けていた。
こ、これは!?
<これは!“死の筋肉五芒星”!!星を描くように獲物を殴り飛ばし続けることで、相手に反撃の暇を与えずに殺す!ラブリーバニーの集団必殺技です!!>
誰だよ!誰だよその技の名前考えたやつ!
絶対ふざけて考えたでしょ!
くるくると宙を舞いながら、ラブリーバニーどもの様子を伺う。
どいつもこいつも、にやにやと厭らしく嗤っている。
獲物を嬲る快感に身を震わせながら、これからありつける食事に思いを馳せて。
かちんときた。
......ふざけんなって話だよ。
こいつらは何にもわかっちゃいない。
なんだか少しは知能があるっぽいけど、お前ら野生生物でしょ?
お前らは、私を食べるために私を殺すんでしょ?
なのに、なんだよ、そのにやけ顔は。むかつくな。
これは命のやりとりなんだよ。遊びじゃないんだ。
お前らはもっと必死になって、私を殺すべきなんだよ。生きるために。
それなのに、なんだその体たらくは。
むかつくな。むかつくよ。
イライラしてきた。
そんなんだから気づけないんだよ。
お前らの攻撃、最初の不意打ちから今に至るまで。
私には、全く効いていないんだよ。
次に私の飛ばされる方向に立つ、ラブリーバニーを睨みつける。
【威圧】を発動する。
「ピッ!?」
為す術もなく嬲られていたはずの獲物から発せられる強烈な殺意に、思わず身をすくませ硬直するラブリーバニー。
お話にならない。
私は殴り飛ばされながら体勢を整え右手をまっすぐに伸ばし、魔力を纏わせる。
これで私の右手は、岩すら切り裂く必殺の刃だ。
【蟷螂】を発動。
そのまま、刃と化した右手をずぶりと、進行方向にいたラブリバニーの胸に突き刺す。深々と。
「ピィィーーーーーーッ!!?」
口から血をふきながら、断末魔の叫びをあげるラブリーバニー。
他の4体は、突然の出来事に驚き、呆けている模様。
その隙が、命とり。
私はたった今殺したラブリーバニーの体を蹴って、次の個体のもとへ向かう。
やはりそいつも、反応できない。
今度は喉を貫いて殺した。
そうやって順々に、これまでとは逆に星形を描くようにラブリーバニーどもを殺す。
5秒もかかってないかな。
最後の1体は私から逃げ出そうと背中を向けていたけど、間に合わなかったね。
背中から心臓を貫いて、はい、おしまい。
「......よわい」
思わずこぼしてしまう。
<そりゃあ、魔境と言えどもまだまだここは端の方ですから。エミーが敵わない魔物は、出てこないと思いますよ>
まぁ、とりあえず。
私は勝った。
私は生き残って、ラブリーバニー共はお肉になった。
ぐぅぅ。
お腹が鳴る。
......いただきます。
手足を引きちぎって食べやすい大きさにしてから、その血肉にむしゃぶりつく。
この森に入ってから私が食べた物は、1メートルくらいの蛇がたかだか6匹。
まだまだ食べたりない。
私は無我夢中でお肉を食べ進めた。
なんかエミーが強くなりすぎな気がしないでもない(またか)けど、魔境とはいえ周辺部の魔物相手なら余裕で勝てるというだけです。
まだ先の話ですけど、次章では苦戦してもらいます。




