8 オマケ様と幸せな夢の中へ
「【着火】」
かざした手のひらの先、何もないはずの空間に小さな火の玉が発生する。
火の玉は事前に【乾燥】をかけておいた枯葉や木の枝に燃え移り、ぱちぱちと音をたて始める。
私は焚火に先ほど狩ったハダカマズイネズミの肉をお気に入りの鋭くて長めの石に刺し、あぶりながらじっと焼けるのを待つ。
空を見上げると、雲一つないそこはすでに紫色。
どんどん薄暗くなり始めており、前世では考えられないほど美しい星々が瞬き始めている。
空気がきれいなんだよね。
周りの草むらからチー、チーとかすかに聞こえる虫の声を楽しみながら、揺らめく焚火の炎を静かに眺める。
大変なことが多い今世の生活だけど、こういう時間は悪くない。
今日も生き延びることができた。
明日への不安を覆い隠してくれる満足感に浸りながら、肉が焼けるのを待つ。
......ここはナソの森における私の拠点、カリヴァの大木前の広場。
カリヴァの大木は、秋にはどんぐりみたいな木の実をつけてくれる、ものすごく大きな木なんだ。
大人が10人手をつないでも1周できないほど太いその幹にはいくつもの洞があり、私はその内の一つに寝泊まりしている。
ある程度幹を登ったところに空いている洞なので、地を這う獣を避けられるし、景色も良いし、そこそこ広くて暖かい、お気に入りの物件なんだ。
......私がこの洞を見つけたとき、なんかでかいフクロウみたいな先客がいたけど、そいつはもう殺したのでここは私のおうちだ。
あいつ、おいしかったなぁ......。
ちなみに、さっきやった【着火】は私が使える数少ない魔法のうちの一つだ。
魔力を使って、化学反応を起こし、小さな火の玉を発生させる......生活魔法と呼ばれる魔法のうちの一つ。
【着火】以外に私が使える魔法は、枯葉などの水分を操作して飛ばす【乾燥】と、空気中の水分を集めて飲み水を作り出す【集水】だ。
【身体強化】や【気配遮断】も魔法なんじゃないかと思うんだけど......。
この世界の人間的には、それらは魔法とは分類されていないみたい。
まぁ、あくまで人間の決めた分類であって、これらの技術の根底は魔力を操作することなんだから、結局は同じものと考えてしまっても問題ないと思う。
<エミー、そろそろ良いのでは?>
......うん、そうだねオマケ様。
しっかり火が通り、臭気も多少は薄くなったネズミ肉をかじる。
硬い。
顎と歯に【身体強化】を重点的にかけ、無理やり噛み千切る。
ちなみに口内も【身体強化】で保護しているので、この程度の熱さでは火傷することもない。
噛むほどに臭みと苦みが口中に広がるが、コーディがくれた(くれた......?)塩をかけているので、そこそこましな味に感じられる。
あくまで、普段と比べて、そこそこ、ね。
<はぁぁぁぁ......おいしいですねエミー!やはり食事というのは最高の娯楽です!>
私とオマケ様は感覚を共有しているが、感じた刺激をどう評価するかはそれぞれで違う。
......『神の器』として長年の間「物を食べる」ことすらしたことが無かったオマケ様は、基本的に何を食ってもうまいと言う、幸せな味覚の持ち主だ。
<......なんか、少し馬鹿にしました?>
してません、してませんってば!
<私のこと、味オンチだと思われているようでしたら、それは心外です!ちょっと許容範囲が広いだけで、私だってちゃんと味はわかるんですから!>
頭の中で、オマケ様がぷりぷり怒っている。
<でも、どんな食べ物であっても、エミーと一緒に食べることができれば、最高においしく感じます!>
ちょ、ちょっと!急にそういうこと言うなし!......照れるじゃん!
なんだか恥ずかしくなった私は、さっさと食事を切り上げ、木を登って寝床にもぐりこんだ。
いろいろ考えて今日は少し落ち込んじゃったけど、最後に少しだけ前向きになれた。
明日もきっと大丈夫。明日はきっと今日よりも素晴らしい一日だ。
いつもありがとう、オマケ様。
えへへ、あなたがいてくれるから、私は頑張れるんだ。
これからも......よろしくね......。
<うふふ、こちらこそ。よろしくお願いしますね、エミー......>
私は暖かな気持ちで夢の世界へと旅立った。
......その夜、私はオマケ様といっしょに、温かいおうちでごちそうを食べている夢を見た。
せっかく転生したんだもの、オマケ様にも、もっとおいしいご飯を食べさせてあげたいな。
きっと、それはとても素晴らしいこと。
そんな未来を目指して、とりあえずは生き延びねば。
明日も一緒に頑張ろうね、オマケ様......。
そんな幸せなまどろみは。
翌朝お日様が登るや否や。
凄まじい轟音と振動によって、ぶち壊されるわけなんだけども。




