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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
6 冒険者になれない編!
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78 堕落受付嬢ピリッツァ

(はぁ~~~......面倒くさいなぁ)


ピリッツァは緩くウェーブのかかった明るいオレンジ色の髪をかき上げながら、ため息をついた。

先程ひと悶着あったエミーとか言う呪い子は、既にギルド内にはいない。

ピリッツァが彼女に出した、冒険者になるための『課題』をこなしに行ったためだ。


その『課題』とは、薬草の採取。

薬草採取は魔物討伐に並ぶ冒険者業務の基本であり、これができないようでは冒険者として認められない。

そんなことを言って、ピリッツァはエミーをギルドから一旦追い出すことに成功していた。


(なんで私が、あんな汚い呪い子の面倒なんて見る必要があるのよ。面倒くさい)


ピリッツァが頑なにエミーの冒険者登録を拒んだ理由......それは、呪い子に関わりあいたくないから。

そして面倒くさいからだ。

まず、新規冒険者登録に関わる各種書類の作成が面倒くさい。

次に、新人冒険者に対する各種講習の準備も面倒くさい。

なにより、ギルド職員には新人冒険者に対する監督責任がある。

新人が何か問題を起こしたり、すぐに死んでしまったりした場合は、ギルド職員にペナルティが課せられる場合すらあるのだ。

それを考えると、もうとにかく面倒くさい。

なんで自分が呪い子なんかに、そんな手間をかけてやらなくてはならないのか?


(カマッセとか言ったっけ?あのガキンチョ、あの場で呪い子のこと、殺してくれれば良かったのに。使えね~)


ピリッツァはもう一度ため息をつきながら、ようやく立ち上がり、よろよろとエミーを追うように外へと出ていった魔法剣士の少年に、心の中で悪態をつく。

呪い子が死んだところで、どうせ気にする人間など誰もいない。

すぐに片づけてきれいにすれば、衛兵だって文句は言わないだろう。

この世界は、そういう風にできている。


(何が『戦闘力は既に2級相当』だよ、クソ親父が。あんな小さな呪い子に負けてんじゃん。だっさ)


カマッセの戦闘力を『2級相当』と評価していたのは、現在出張中のダッカンテ所長である。

ピリッツァ自身は生え抜きのギルド職員であるため戦闘力はなく、戦いのことはよくわからない。

そのうえ、彼女はエミーとカマッセの先ほどの戦いを、真面目に見ていなかった。

どうせ呪い子がまともに戦えるわけないと思っていたし、手元の書類に気をとられ少し目を離したすきにカマッセは倒されており、エミーがどれほど異常な挙動を行ったのか、全く見ていなかった。

確かに結果を見て驚き唖然としたが、それは強いと評されていたカマッセが倒されたことに対してであって、エミーが強かったことに対してではない。

つまり、ピリッツァの中では『エミーがカマッセを倒せるほどに強かった』ではなく、『カマッセはエミーに倒されるほど弱かった』という結論がくだされていた。

ギルド内にいた他の冒険者に話を聞けば、その結論の危うさに気づけただろうが、ピリッツァがそんな面倒くさいことをするわけがなかった。


(はぁ~~~......ほんと、なに?なんなの?なんでこの私が、こんな田舎臭い出張所で、呪い子の相手をしなくちゃなんないのよ~)


またしてもため息をつき、己の境遇を嘆くピリッツァである。


彼女はもともと、このヨシャンカの出張所で務めていた職員ではない。

彼女の前の職場は、テーニディース国王都に存在する冒険者ギルドの支部である。

華の王都。

王都にはおしゃれなカフェやらレストランやら服飾店やらが立ち並び、毎日が楽しかった。

こんな年がら年中海風の吹きすさぶ崖上の田舎町とは違った。

きらきらと華やいだ生活が、そこにはあった。


かつて、若く、かわいらしい顔立ちをしたピリッツァは、王都でも一二を争う人気受付嬢だった。

言い寄ってくる冒険者はたくさんいた。

貢いでくれる冒険者もたくさんいた。

結婚しようと、愛をささやいてくれる冒険者もたくさんいた。


で、ピリッツァは調子にのった。


勤務態度はだんだんと悪化し、冒険者に対して態度を使い分けるようになった。

高位の等級であったり、貢いでくれたり、顔が良かったりする冒険者には親身になって接し、よりよい依頼を紹介し、素材の買い取り額に色を付けた。

一方で、それ以外の、ピリッツァの気に入らない冒険者はぞんざいに扱った。


さらに問題だったのは、彼女に贈収賄の疑いがかかったことである。

疑い、というか、実際に彼女はやっていた。

貢いでくれる冒険者に対し、等級の昇格に必要な『貢献点』を多く振り分けていた。

......実際のところ、それ以外のことも色々とやっていたのだが、それはさておき。


とにかくこれが、ギルドのお偉いさんにばれた。


金を使い、色目を使い、なんとかクビは免れたものの、彼女に待っていたのはヨシャンカ出張所への配置という懲罰人事だ。左遷である。

ヨシャンカへの配置が懲罰というのはヨシャンカの皆さんに対して大変失礼な話なのだが、王都での生活にこだわっていた彼女には何よりの罰になるだろうとの、ギルド上層部の判断だった。


気づけばピリッツァの年齢は三十の中頃。

かわいらしい顔立ちは未だ健在だが、かつてに比べると肌の張りも落ちてきたと感じる今日この頃であり、ピリッツァは焦っていた。

今頃は稼ぎの良い高位冒険者と結婚して、幸せな家庭を築いているはずだったのに、何がいけなかったのだろう。

選り好み、しすぎたか......。


そんなことばかり反省し、己の勤務態度を全く顧みないピリッツァであった。



◇ ◇ ◇



さてさて、話を戻そう。

ピリッツァはエミーに対し、薬草採取の『課題』を出した。

本来、受付嬢にそんな『課題』を命ずる権限などないし、そもそも冒険者登録に『試験』も『課題』も必要ないのだが、とりあえずそれは置いておいて。

ピリッツァは、エミーがその『課題』をこなせるとは、全く思っていなかった。


『薬草採取は魔物討伐に並ぶ冒険者業務の基本』。


ピリッツァがエミーに語ったこの言葉は、まさしく真実である。

だがしかし、一言に薬草と言っても、色々ある。

低等級の冒険者が小遣い稼ぎ程度に採取できる物もあれば、高等級の冒険者が命をかけて採取に赴く必要のある物もある。

ピリッツァがエミーに『課題』として出したのは、後者の方なのだ。


“サイーシュ草”と呼ばれる薬草の採取。

それがエミーに与えられた『課題』である。


このサイーシュ草、高級ポーションの原料となる薬草であり、このヨシャンカの南にあるカイセの森に自生していることが確認されている。

そして、カイセの森は危険な魔物の徘徊する“魔境”である。

魔境とは即ち、人の手の及ばない、魔物が支配する領域のこと。

カイセの森は霊峰ザハヌと並ぶほどこのあたりでは有名な魔境であり、その広さで言えば小国にも匹敵するほど広大な森だ。

外周部はともかく、中心部は危険な魔物の跋扈する前人未到の土地である。

その危険度は、ザハヌとは比べ物にならない。


そこに薬草を採取しに行けと冒険者志望の子どもに指示するなど、通常であればそれは「死ね」と言っているに等しい暴挙である。

ただ、それを命じられたエミーは呪い子だから問題にする者は誰もいないだろうし、そもそもエミーはまだ冒険者ではないのでピリッツァには何もペナルティは発生しない。



『課題』を与えられたエミーは少しの間黙り込み何やら思案していたが、ピリッツァにサイーシュ草がカイセの森に自生していることだけを聞き出すと、頭に布を巻いて髪を隠し、出張所を出ていった(なお、エミーが出張所内で黒髪をさらけ出していたのは、頭に巻いた布からこぼれた一筋の黒髪を目ざとく見とがめたピリッツァが、無理やり布を取り払ったからである)。

きっと今頃、あの呪い子は途方に暮れていることだろう。

呪い子が教育を受けられる境遇で育つことなど、まずありえない。

故に、あれはサイーシュ草がどういうものか、それすらもわかるはずがないのだ。

きっとカイセの森で手当たり次第に草をとってくれば良いだろうとでも、思っているに決まっている。

何の準備もなく魔境でそんなことをしていれば、間違いなくあれは魔物に殺されるだろう。

これにて、不快な呪い子への対応は終了した。

ピリッツァはそう判断して、手元の書類に再び目を落とし、あくびを一つついた。


びゅうびゅうと、相変わらずの強い海風が、出張所の窓を叩いていた。

採取するからサイーシュ草......というわけでは、ないのです。

たいていこういう固有名詞はその場のノリで、思いついたまま決めます。

するとどうしたことでしょう、後になって見返してみると、ダジャレになっていた。

不思議ですね。


もちろん、カマッセの名前は当然“かませ”からとっています。

そういうタイプの名づけもあります。

極端な例が、イジワール・デスワー公爵令嬢。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんぼ何でもアカンでしょうこのBBA、登録してないから野垂れ死んでも関係ないとか逆でしょ逆!無関係の人間を死地に追い込む方が組織は叩かれるでしょう。 [一言] どうも呪い子のシステムは…
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