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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
5 エミー、メイド見習いになる!初めてのお友達編!
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74 裏で暗躍し続けた男の話

王都の学園へと向かう馬車に、二人の客が乗っている。


一人は、サラ・サラー男爵令嬢。

これから王立キラリメーク学園の一年生として入学予定の、女の子。

天真爛漫な桃色髪の美少女だ。


そしてもう一人はキスケット・トーヴェール。

旅の治療術師であり、新学期から教員として学園に採用されることが決まっている。

白髪で褐色の肌の、背の高い男。



カタコト揺れる馬車の中で、サラはおしゃべりに疲れたのだろう、静かに寝息を立てている。

その姿を見てキスケットは、ふぅと一息、安堵のため息をついた。


(なんとか......なんとかこの状況まで、こぎつけることができた......)




キスケットは放浪の凄腕治療術師。

彼の生家は、デーメスという国にある伯爵家だ。

高貴な血筋に生まれながらも、その地位を全てかなぐり捨て家を飛び出した変わり者。

自由を愛し、何者にも縛られない気まぐれな男。


世間でのキスケットの評価は概ねそのような物であるので、彼が学園に教員として就職することを聞いた彼の数少ない知人は皆一様に驚いたものだ。



ただ、自由人たるキスケットの心境になにか変化があって、彼がその決定を下したわけではない。

彼の自由なふるまいは、彼の心根に端を発するもの、彼の気質がそうさせるものと世間は思っているが、実際のところは違うのだ。


彼には、主がいる。

敬服し、彼の全てを捧げて仕えるべき、超常の主が。

伯爵家を飛び出して以降の彼の行動は、そのほぼ全てが、主に指示され行ったことなのだ。




その主の名は、運命神アローファ。



彼は、運命神の使徒なのだ。




◇ ◇ ◇




運命神アローファは美しい虹色の髪を持つ女神であると言い伝えられているが、彼の前にはいつも虹色に輝く小鳥の姿で現れる。

運命神曰く、その姿は彼女が地上で活動するための依り代なのだという。

ともかく、キスケットが宿で休んでいたある日、その虹色の小鳥が現れた。


急ぎ窓を開け、主の依り代を室内に招き平伏するキスケットの前で、その小鳥はぴょこぴょこ飛び跳ねながら彼に神命を下した。


即ち、


<テーニディース国東部にある、サラー男爵領。そこにいる、サラ・サラー男爵令嬢を襲いなさい>


と。




キスケットは驚き困惑した。

彼は運命神の使徒であることを誇りに思っており、主に命じられればどんなことでもするつもりだ。

しかし、これまでの神託は、彼の治療術師としての力を使い、誰かを救えというものばかりだった。


今回のように、誰かを傷つけろ、という神託は受けたことが無かった。



そんな彼の困惑を、当然虹色の小鳥は理解しており、より詳細な説明を続けてくれた。


<私は彼女憎しでこのような神託を下しているわけではありません。むしろ逆、これは試練なのです。サラ・サラー男爵令嬢が真の力に目覚めるために必要な、試練なのです>


なるほど、そう言われてしまえば、キスケットにも否はない。


<盗賊にでも金を渡し、襲撃を依頼しなさい。運命を視ると、その結果としてサラ・サラー男爵令嬢は致命的な怪我を負いますが、彼女はそれにより死ぬことはありません。偶然通りかかった、あなたが治療するからです>


つまり、盗賊をけしかけておきながら、それを助けろと。


(マ、マッチポンプもいいところですが......それが、あなた様にとって必要なこと、なのですね?)


<そう......いえ、勘違いしてはいけません。これは彼女にとって必要な試練なのです。我が使徒キスケット、やってくれますね?>


(ははっ......ところで、ご令嬢を救出した後、盗賊たちの処遇はいかに?)


<あなたが依頼をすることになるのはメグザム盗賊団。彼らはろくな運命の流れを作りません。余計なことを喋る前に、処分してしまいなさい。そのための力を、戦う力を、あなたには既に与えています>


(............)


<あなたは冒険者でもあるはずです。盗賊の討伐、あなたも手伝ったことがあるでしょう?それと同じです。殺しなさい>


(............ははっ)




神の命ずることである。

キスケットはその神託を拝命し、粛々と行動を開始した。



◇ ◇ ◇



そして、サラ・サラー男爵令嬢の乗った馬車を、キスケットに依頼された盗賊たちが襲撃した、あの日。

果たして、令嬢は命の危機を迎えた。

盗賊が、手斧を頭上に掲げる。

そしてそれは、もうすぐ令嬢の頭にめがけて振り下ろされる。

きっと、彼女はとっさに身をよじる。だから頭への直撃は避けられ、しかし即死はしないが致命的な怪我を負う。

そうなれば、自分の出番である。


きっと、そのように事態は推移する。

何故わかるか?

運命神がそのようになると仰ったからだ。

完全に気配を消しながら街道沿いの茂みの中に身を隠し様子を伺っていたキスケットは、魔力を体に漲らせ、令嬢を助けるために戦う準備を整えていた。





が、しかし。




ここで彼にとって、そして運命神にとってすらも、予想外の出来事が起こった。







パァンッ!!!



盛大に破裂音を響かせながら、男爵令嬢を狙っていた盗賊の頭が、はじけ飛んだのだ。




(は......!!?)



混乱でキスケットが固まっているうちに、事態はどんどん動き出す。

気づいた時には、もう遅かった。

逃げた数人を除いて、盗賊たちは突然現れた黒髪黒目のみすぼらしい姿をした少女に、皆殺しにされていたのだ。



キスケットはこの日、初めて神命を果たし損なった。




◇ ◇ ◇




キスケットの失敗を受け、運命神は素早く動き出した。

その晩の内には、野宿するキスケットのもとに、虹色の小鳥が舞い降りた。


<今回の失敗は、仕方ありません。運命とは絶えずその形を変える流水のようなもの。神にすらその運命を想定できないイレギュラーの混入は、時折発生するものなのです>


小鳥は寛大にもキスケットの失敗を許してくれた。

というか、キスケットは小鳥の言う通りに動いているので、キスケットの失敗はそのまま小鳥の失敗でもある。

その言は、どこか自らに対する言い訳めいてもいた。


<しかしながら、我が使徒キスケット。サラ・サラー男爵令嬢に試練を与える......この神命を取り下げることはありません。あなたはこれより、気づかれないようにサラー男爵家に張り付き、機を伺いなさい>


キスケットは平伏しながら、新たな神託を拝命し、行動を開始した。


......しかしこの神託、遂行は困難を極めた。

あの時現れたみすぼらしい少女が、メイドとしてサラー男爵家で雇われてしまったようなのだ。

サラ・サラー男爵令嬢が外出するときには、あの少女がそばにはりついている。

屋敷の中には、結界のため侵入できない。


(......くそっ!なんだって、呪い子なんか雇おうと思うんだよ!)


キスケットは森の中で身を隠し、魔法の練習をするサラたちを眺めながら、歯噛みした。

アレの少女とは思えない戦闘能力の高さは、盗賊たちを難なく皆殺しにした場面を目撃していたキスケットにも、よくわかっている。

使徒として力を与えられているため、一対一で戦えば、おそらく勝てるだろうが......そんなことをしたら、自分の存在がサラ・サラー男爵令嬢に気づかれる。

それでは、神託を完遂することができない。

なにより、彼は治療術師だ。

不快な呪い子とは言え、無駄に傷つけることは本意ではない。



ビュオンッ!!



その時、キスケットの頭のすぐ横を、何かがとてつもないスピードで横切り、後ろに生えているいくつかの木々をなぎ倒した。

あの呪い子が何故か男爵令嬢にねだられて、【投石】を行ったらしい。



(退却!退却だっ!!)



キスケットは顔を青くしながら、一旦その場を離れた。

彼の【気配遮断】は完璧である。

気づかれたわけではなく、本当に偶然自分の方向に【投石】されただけなのだが、それでもこの場に留まりたくなかった。

あの礫の軌道が少しでも横にずれていたら、死んでいた。

久しぶりに、キスケットは死の恐怖を感じた。

それは運命神の使徒となってから、初めてのことであった。



◇ ◇ ◇



事態が動いたのは、それから1週間後だ。

野宿を続け、いい加減疲れもたまってきたキスケットのもとに、虹色の小鳥がまたしても舞い降りた。

小鳥はちっとも成果を出せないキスケットを叱責するでもなく、上機嫌に新たな神託を下した。


<我が使徒キスケット。あなたはこれから屋敷裏の森の奥深くに入り、そこにある山に登りなさい。そして、その山の頂上に生えている大きなカリヴァの木を切り倒すのです。その際、根っこもしっかりと掘りおこすことが重要ですよ>


(え?サラ・サラー男爵令嬢への試練の話は、どうなったのですか?)


<あなたが木を切り倒せば、それが試練となります>


いや、なんでだよ!

心の中で突っ込みをいれながらも、キスケットは言われた通りにした。

誰かを襲えという神託をこなすよりは、よっぽど気が楽だったし。


そしてその後は、小鳥に指示されてサラー男爵家の屋敷がある村の隣村に逗留し、村人たちの些細な怪我などを治療しながら時間を潰していたのだ。



◇ ◇ ◇



そしてそれから数日後。

隣村で逗留を続けていたキスケットのもとに、頭に包帯を巻いたサラー男爵家のメイドが、血相を変えて飛び込んできた。

なんでも、男爵家のご令嬢がポイズントポポロックの毒を少量浴び、意識不明の重体なのだという。

どうやら彼が木を切り倒したことで、本当に令嬢への試練とやらが発動したらしい。わけがわからない。


まぁ、細かいことは気にしてもしょうがない。

事ここに至っては、己の仕事はその令嬢を治療することである。

彼が治療するものが、盗賊から与えられた切り傷から毒に変わっただけだ。

サラー男爵家は近隣の村人たちからも大変に好かれており、キスケットを泊めていた村長も快く彼を送り出してくれた。


「......ちなみに、ご令嬢のほかに、毒を浴びた方はいらっしゃいますか?」


男爵家に向かう道中、キスケットは治療術師として状況を確認するため、メイドに聞き取りを行った。


「じ、じじ、実は、メイド見習いがお嬢様をかばい、ポ、【ポイズンブレス】の直撃を受けています」


「それは......ご冥福を、お祈りします」


メイド見習いとは、あの呪い子のことだろう。

ポイズントポポロックの【ポイズンブレス】をもろに浴びてしまえば、さすがに生存は難しい。

神託遂行の最大の障害であった彼女だが、死んでしまったと聞けば、憐れむ気持ちも湧き上がる。


「あ、い、いえ、アレは確かに意識を失ってはいますが、な、なんか血色も良くて元気そうです。今はすやすや寝ています」


なんなんだあいつ。バケモノなのか?



◇ ◇ ◇



男爵家に到着したキスケットは、すぐに令嬢が寝かされている部屋へと案内され、治療を開始した。

とはいえ、令嬢の衰弱は著しい。

とてもじゃないが、キスケットの治療だけでは間に合いそうにない。


しかし、キスケットは慌てない。

このあたりのシナリオは、既に運命神と打ち合わせ済みである。

キスケットの尽力もむなしく、サラ・サラー男爵令嬢の命はつきかける。

だが、そこで神の軌跡が起きる。

令嬢は神に力を賜り、そして蘇る。

あとは、流れで。


それが、運命神から彼に与えられたシナリオである。



途中、例の呪い子が目を覚まし、部屋に飛び込んできた。

これ以上、神命を邪魔されてはたまらない。


「寄るな、呪い子」


思ったよりも、冷たい声が出てしまった。

すると、その呪い子がキスケットに返してきたのは。



強烈な、殺意。



苛烈で、悍ましく、強烈な殺意であった。



(ひっ......!)


思わずキスケットは、情けなくも小さく悲鳴をあげた。


アレはだめだ。

殺意を感じ取るだけでわかる。

アレは人を殺すことを、なんとも思っていない。

心の持ちようが、まるで普通の人間と違う。

神に力を与えられているから、一対一ならおそらく勝てるとか、過去の自分は愚かな分析をしたものだ。

アレとは戦いたくない。

根が治療術師であるキスケットでは、あのバケモノと命のやりとりなんぞ、できようはずもない。


すぐさま呪い子をなだめ、その場を収めてくれた男爵に、キスケットは心の底から感謝した。



◇ ◇ ◇



かくして、サラ・サラー男爵令嬢への試練は終了し、彼女は蘇った。

ご家族の話によれば、どうやら記憶の欠損やちょっとした性格の違いが表れているらしいが、さほど大きな問題ではないだろう。

虹色の小鳥も<気にする必要はありません>と、さらりと流していたし。



さてさて、そんなことよりこれからが大変だ。

キスケットは以前から虹色の小鳥に言われて学園の教員となるべく手続きを進めていたのだが、昨日小鳥に明かされたところによると、それはサラ・サラー男爵令嬢のサポートを行うためらしいのだ。


学園へ向かう馬車の中、よだれをたらしながら居眠りをしてアホ面を晒すこのご令嬢は、黙っていれば美少女だがかなりアホだ。

国中の貴族のご子息・ご令嬢が集まる王立キラリメーク学園では、大層浮いた存在になってしまうのではなかろうか。

多分、田舎の山猿とか、そんな感じでバカにされること請け合いだ。

さらに言うと、彼女はたまに言動も奇妙だ。

彼女が時折つぶやく独り言に耳をすますと、キスケットのことを彼女は『お助けキャラ』であるとみなしているようだ。

『お助けキャラ』って、なんだ?

確かにキスケットは彼女をサポートするよう神託を受けているが、そのことを彼女は知らないはずなのだが......?


(まぁ、いいさ。私がするべきことは、今まで通りだ。神託に従うのみ)


キスケットを頭の中を切り替える。

馬車の窓から見えるのは、もはや長閑な田園地帯ではなく、人通りの多い、賑やかな街の中。

大勢の人の話し声が聞こえ、屋台からうまそうな香りが届く。


少し外に身を乗り出すと、向こうに見えるのは巨大な門。

王立キラリメーク学園の正門だ。


テーニディースいちの学び舎。

この大陸中で数えても、5本の指には入るであろう、巨大な学園。

彼がこれから最低でも12年間は働くことになる、新たな職場。


パン、と頬を叩く。


今回の神託では、キスケットは神命を果たすことができないという失態を犯した。

気性の荒い神であれば、それだけで見放され、使徒から外されても、いや、殺されてもおかしくないほどの失態。

しかし、運命神アローファは寛大にも彼を許し、未だ使徒として重用されている。

そのご恩に報いる。己の失態をそそぐ。


(気合、入れないとな)


キスケットは決意を新たにした。


(見ていてください、運命神アローファ様。私、キスケットは、きっとあなた様の使徒として、恥ずかしくない活躍をお見せいたします)


そして胸に手をあて、神に祈りを捧げる。


(......それと、大変厚かましく申し訳ないのですが、運命神様、お願いがございます)


さらに、神に語りかける。






(願わくばあの呪い子に......二度と会いませんように)





どうやらエミーは、キスケットのトラウマになってしまったようだ。

キスケット先生視点のお話。

最初、メグザムたちに襲撃を依頼したのは彼でした。

最後の方にいきなり登場したように見せかけて、描写されない物陰にずっと潜んでいたみたいですね、この人。

ちなみに、彼はシューラちゃんの実兄です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公にはいつか神々をぶっ飛ばして欲しい() そしてサラの魂(記憶?)が目覚めますように……
[良い点] 人物関係が分かりにくくなってきたので、読み返しています 既にこの時点でシューラちゃんって誰だっけなと検索してしまった私
[一言] おい運命神の使徒、カスケットか?お前なにボケてんの?自分の権能「運命」すらあやふやな神をなぜ受け入れてんの?バカなの?死ぬの?ハゲちまえ!あと、もしも死神とお前の運命神がクロスして妹のシュー…
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