71 その後のサラ・サラー男爵令嬢(オマケ様の解説①)
サラー男爵令嬢が目を覚ましてから、数日後。
「『水弾よ、現れ出でて、敵を穿て!【ウォーターバレット】!』」
サラー男爵令嬢が呪文の詠唱をする。
すると彼女の指先には小さな水球が発生し、それが......以前のように地面に落ちることなく、的に向かって真っすぐに飛んでいく。
ただし、その勢いが尋常じゃない。
ヒィィンッ!!とかいう聞いたこともない音を立てながら、【ウォーターバレット】は圧倒的速度で的に到達。的は爆散。
その勢いは的を破壊しても落ちることはなく、そのままお屋敷裏手の森の木々を何十本もなぎ倒していく。
圧巻。
ただその一言。
簡単に、私の【投石】の威力、追い越されちゃいました。
「サ......サラが......あんなにも魔法が下手だったサラが......こんなにも高威力の魔法を......」
驚きすぎて、奥様なんか腰が抜けて倒れそうだ。
転んだらお召し物が汚れちゃうので、支えてあげる。
私は......私もオマケ様も、『まぁ、そうなるだろうな』と予想はしていたので、驚きは少ないけど......結構複雑な心境だ。
正直に言うと、なんも修行してないあれに戦闘能力を追い抜かされて、非常に悔しい。
<腐ってはいけませんよ、エミー。彼女は神から加護を授けられているのですから。むしろ、加護なしの状態でアレに近いことができるあなたの方がよっぽど凄いですよ>
神々の加護......それは、神の寵愛授けられしものへの、贈り物。
オマケ様が言うには、大抵は特殊な能力や大量の魔力を貸し与えられるのだという。
つまり、さっきのサラー男爵令嬢の魔法は、自分の魔力ではなく神様の魔力を使って発動したものなのだということ。
そりゃ、強力なものが撃てるに決まってるよね。
その後も彼女は水だけではなく風、土、火、さらには奥様が教えていないはずの雷の魔法まで発動させ、奥様の度肝を抜いた。
何故、こんなにも急成長を遂げたのか?
奥様が思わず問いかけると。
「イーマさ......お母さんの教え方が、上手だったからなの、です!」
とか、ふざけた答えをぬかしやがった。
それなら、もっと以前から魔法、使えるようになっているはずだろうが。
考えなしのその場しのぎの嘘がむかつく。
微妙に、立ち振る舞い、言葉遣いとか、以前のサラちゃんに似てるようで似てない部分があったりするのも、非常に私の気に障る。
殺してやりたくなる。
<抑えてください、エミー。加護持ちの転生者にケンカを売っても、勝てる見込みは非常に少ないですよ。例え追い詰めることができたとしても、神に新たな力を与えられ、覚醒され、逆転されておしまいです>
......冗談、冗談だよ、オマケ様。
私があの子のこと、傷つけられるわけ、ないじゃん。
あの子はさ、たとえその魂が入れ替わってしまったのだとしてもさ。
かつての私のお友達、サラ・サラー男爵令嬢であることには、違いないのだから。
◇ ◇ ◇
ほとんど死んでしまったかに見えたサラちゃんの体に、突然現れた光球が入り込み、その結果として彼女は復活した。
その時、何が起こったのか?
男爵様はじめ、お屋敷の面々には見当もつかない。
故に、神の奇跡が起こった。
そういうことになった。
男爵令嬢の性格や口調が、以前と比べて若干変化している。
私のことを、きれいさっぱり忘れている。
時々変なことを口走ることも含めて、これは毒などのダメージによる後遺症だと結論付けられた。
ただ、私の中にはこの手の事象に大変お詳しい、オマケ様がいらっしゃる。
あの時、サラちゃんに一体何が起こったのか?
オマケ様は詳しく私に解説してくれた。
<あの時起きたのは、神の奇跡です>
って、おーい!
お屋敷のみんなの結論と、なんも変わってないよ、それ!!
<これから詳しく説明しますよ。まず、あの時部屋に現れた光球の正体ですが、あれは魂です>
魂!?
あれ、でも私、魂の状態でオークションに売り出されていたクラスメイトたちを色々眺めているけど、あんなに光り輝いていなかったよ?
<光っていたのは、神の魔力を大量に付与されていたからです。即ち、あの魂は神の加護を与えられた状態だったということがわかります>
......え、オマケ様、神の加護持ちの魂って、まさか......。
<おそらくは、あなたのクラスメイトの魂......でしょうね。どこの神かはわかりませんが、魂を入手してから今まで、加護の調整を続けていたんでしょう。あの魂、能力的にはなかなかハイスペックな仕上がりになっていますね>
じゃあさ、今のサラちゃんの体はさ......サラちゃんじゃなくて、その転生者の魂に乗っ取られた状態ってこと?
サラちゃんは......本物のサラちゃんの魂は、どうなったの......?
<現在、サラ・サラー男爵令嬢の肉体は、確かにほぼ転生者が動かしています。また、従来の魂は消えてしまったわけではありません。毒などの肉体的ダメージを受けた結果弱り、休眠状態にある、といったところでしょう。もっとも、今後その魂が目覚めることがあるのかどうかは、不明ですが>
そ、そんな......!
ねぇ、オマケ様!
サラちゃんの体から転生者の魂を追い出すことって、できないの?
あの体は本物のサラちゃんの魂のものでしょ!?
<そもそも今のエミーにはそんなことは不可能ですし、本来の魂が休眠し活動していない以上、そんなことをしたら、サラ・サラー男爵令嬢の肉体は死んでしまいます>
............。
めまいがした。
今、サラ・サラー男爵令嬢は、私の目の前で奥様からテーニディース国の歴史の講習を受けている。
数日前に、毒で死にかけていたとは思えないほどぴんぴんしている。
だけど、その中身は私の知っているサラちゃんじゃない。
サラちゃんのふりをした、転生者だ。
アホで、やかましくて、元気いっぱいで、明るくて優しい、私のお友達のサラちゃんじゃないんだ。
............。
......この転生も、異世界転生配信の撮影のために、行われたこと、なのかなぁ。
<おそらくは。今思うと、これまでサラ・サラー男爵令嬢に訪れた危機は、全て神の仕込みであったのかもしれません。肉体に新たな魂を詰め込もうと考えたら、その肉体を仮死状態に、そしてその魂を休眠状態にする必要がありますから>
......さすが、神様だよね。良いご身分だよね。そんなお遊びのために、サラちゃんのこと、弄んでさ。何様だよ。......神様か。
......そんなわけで。
私の初めて友達は、失われてしまった。
友達と楽しく過ごすという夢のような日々は、消えてしまった。
幻のように、まるで初めから、そんなものはなかった、そう言わんばかりに。
私が、弱かったから。
私がサラちゃんを、守り切れなかったから。




