7 森でゲロマズネズミを狩ろう!
「......はぁ」
ため息をつきながらフェノベン村の隣の森、私の根城であるナソの森を進む。
時刻はおそらく前世で言うところの午後2時ころ。
初夏を迎え十分に日も長いけど、あまりうかうかしていられない。
早めに今晩のフレッシュお肉を確保する必要がある。
<ハイテンションで自己紹介始めたり、落ち込んでため息ついたり......今日のエミーは忙しいですね?>
頭の中の同居人、オマケ様がころころ笑いながら話しかける。
あぁ、うん、なんだかたまには現状の整理でもしてみようかと思って......。
で、整理したら整理したでその酷さに精神的ダメージをもらっちゃったよ。
ごめんなさいね、急に。
突然ハイテンションになって、気持ち悪かったでしょ?
<全然大丈夫ですよ!エミーの奇行にはもう慣れました!>
明るくそう返してくるオマケ様。
この方、長く一緒にいてわかってきたけど、かなり能天気でおおらかな方です。
そしてたまに無神経でもある。奇行て。
<そんなことより見てください。前の葉っぱ、けっこう虫食いです。きっとポリー虫がいっぱいですよ。一応注意してください>
大丈夫、【身体強化】は続けているから。
はい、ここで色々説明します。
まず、ナソの森はまばらに大木が生える明るい森で、春先なんかはそれはそれはキレイな場所なんです。
ところが、その明るさが夏にかけて大変なことを引き起こす。
それが、ナソと呼ばれる植物の大繁殖。
こいつらがいっぱい生えるから、この森はナソの森と呼ばれているの。
ナソっていうのは前世で言うところのイタドリに似た太い茎と丸くて大きな葉っぱを持った植物で、明るいところでわんさか繁殖し、初夏には大人の背丈を超えてなお伸び続けるでかい草なの。
まぁ、とにかく背丈が高くなる草で、根元のほうは葉っぱも少ないから、私みたいな低身長5歳児は逆に歩きやすいんだけど......。
困ったことに、このナソ、ポリー虫っていう毒毛虫の大好物なの。
触って死ぬほどじゃないけど、毛が肌に刺さるとすごくかゆくなります。
だから、常に【身体強化】を続けて、皮膚の防御力を高めて毛が刺さらないようにしているのね。
というか、私の着ている服はコーディのお古のシャツとズボンを肘、ひざの長さに切ったもので防御力なんて皆無。
さらに靴なんてないので素足で歩きまわってるから、ケガをしないためにも【身体強化】は切れないんだけどね。
あ、【身体強化】というのは魔力を使って体を丈夫にする技術なんだよね。
この世界、『剣と魔法の世界』だってのは転生前のオマケ様がちらっと言ってたけど、魔法......もっと言えば、魔法のもとになる魔力なるものが存在する世界なんだ。
【身体強化】というのはとてもポピュラーな魔力操作技術であり、たいていの人がほんのちょっぴり無意識で使っている。
私の場合は離乳食が終わった段階で母親とバイバイ(婉曲な表現)したから、育児放棄(直接的な表現)に負けず生き残るためにはとにかく体を丈夫にする必要があった。
そこでオマケ様が<格闘神の異世界転生配信で視た>という【身体強化】の使い方を教えてくれたのだ!
おかげで体は丈夫になり、ケガも治りやすくなり、虫を食べてもお腹を壊さなくなった!
さらにはオマケ様が<魔法神の異世界転生配信で視た>情報によると、この世界の生物には幼少期から魔力を使い続けると魔力総量が上昇しやすいという、オマケ様いわく『テンプレ設定』もあるらしく、【身体強化】で魔力を使い続けている私の魔力総量もオマケ的に上昇中です。
現在の私の能力値が一般5歳児と比べてどれくらい高いのかはよくわからないけど......間違いなく、前世基準の5歳児と比べるなら、私は圧倒的に強いし、丈夫。
それこそ、森で一人暮らしできてしまうくらいには。
ほんと、魔力のおかげなのかどうかしらないけど、今世の体はなかなかスペックが高く、助かってるんだ。
逆に、前世はなんであそこまで勉強も運動もできなかったんだろ?
さてさて、閑話休題。
目の前の葉っぱの裏側には、オマケ様の指摘通りポリー虫がびっしりくっついていた。
こいつらは一匹一匹が大人の親指くらいある、ずんぐりむっくりな黒い毛虫で、見慣れてないと結構な嫌悪感がある。
前にランドおじさんの畑の葉物野菜にコイツがくっついて、奥さんが大騒ぎしていたのを茂みの中から覗いていた記憶がある。
私はそれを無造作につかみ取り、適当に毛をむしりとってから、口に放り込んだ。
食感はむちゃむちゃしてすっぱく、もっとおいしい芋虫は他にもいるんだけど、まぁ小腹が空いたときのおやつとしては及第点かなって感じ。
だけど、こいつらだけでは今晩のメインディッシュにはなり得ない。
やっぱり夜は、がっつり肉を食いたいじゃん?
虫じゃなくて、動物のお肉が、ね。
私は前世から肉食系女子なのよ~!
<!エミー、見てください>
......あぁ、あったねオマケ様。
ころころ丸い、奴らの糞だ。
......まだ、温かい。
近くにいるね。これは。
<気配を消しましょう>
言われなくても。
身動きを止め、集中。
森と一つになる。
そんなイメージで気配を消していく......。
今やっているのは【気配遮断】という技術。
オマケ様が<狩猟神の異世界転生配信で視た>、狩人の必須技術(ってかこの方、本当に異世界転生配信マニアだよね)。
音をたてず、普段はわずかに体から漏れ出している魔力を、完全に止める。
そのまましばらく、待機。
私は石。
人畜無害な石ですよ......っと。
体感にして3分後、私の獲物が木の根本の巣穴から、鼻をひくつかせてのそのそ這い上がってきた。
そいつは、ネズミ。
正式名称をハダカマズイネズミ。
見た目は前世にいたハダカデバネズミの色を緑色にした感じの、毛のないネズミだ。
体長は大きくて20cmほど。
この世界では、強い弱いにかかわらず人に害をなす存在は「魔物」と呼ばれている。
ずいぶん人間本位で大雑把な分類だよね。
こいつらは弱いけど、人里近くに住んでいる奴らは農作物を食い荒らすので、ギリギリ魔物だ。
こいつらは、まずい。
味が。
それこそハダカ『マズイ』ネズミと名付けられるだけあるのだ。
その肉は臭くて、硬くて、苦い。
フェノベン村でも、農作物を守るため定期的に罠を仕掛け駆除しているけど、村人はこいつらを殺しても、食べない。
殺すだけ殺して、穴を掘って埋める。
......でも、どんなにまずかろうと肉は肉でしょう?
ハダカマズイネズミの肉は臭くて硬くて苦いけど、毒はない。
つまり、食用肉ということだな!(まぁ毒があっても毛虫とか食べてるけど)
あぁ、フェノベン村の連中は、なんともったいないことをしているんだろう!
私が呪い子扱いされてなければ、あの駆除されたネズミ肉、全部もらって食べるのに!
<エミー!集中してください......>
おっと、ごめんなさいオマケ様。
私はポケットから小石を取り出し、かまえる。
ハダカマズイネズミは鼻をひくひくさせながら、地面を嗅ぎまわっている。
奴らは雑食である。
多分、地面をはっている虫を探しているんだな。
しかし、残念。
君はご飯を食べられない。
何故なら......君は私のご飯になるからだ!!
「............シュッ!!!」
瞬間的かつ重点的に腕を【身体強化】し、小石を投げる。
私は毎日毎日狩りのため小石を投げている。
私の【投石】技術はかなり高い。
ランドおじさんとかいうド素人とは比べ物にならない。
私の右手を離れた小石は吸い込まれるようにネズミの頭にヒット!
彼(彼女?)は意識を失い、動かなくなった。
素早く近づき、一応首をねじっておく。
愛用している鋭くとがった小石で腹をかっさばき、臭いものを外にだす。
この辺の処理もオマケ様が<狩猟神の異世界転生配信で視た>技術を応用している。
まぁ、その配信では、ネズミは食べてなかったみたいだけど。
とにかく、これで今晩のメインデッシュは確保できた。
あとは道すがらおいしい野菜を採取して、サラダを作ろう!
いくら私が肉食系女子とはいえ、美容のためには野菜も食べなきゃね!
<エミー、あれは野菜ではありません。草です>
もう!オマケ様、細かいことは良いんですよ。
食べられれば野菜なんですよ、私にとっては。
つまり、この世の食べられる植物は、すべて野菜といっても過言ではないのです。
虫とか草とかネズミとか。
この世界は食料にあふれている。
なんと素晴らしい、生存するのがイージーな異世界であることか!
................................................。
アァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
クソガァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
幼少期から親に頼らず森で一人暮らし!?毒毛虫とかネズミとか食って生活!!?
ふざけんなァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
<エミー、ちょっと今日は情緒不安定すぎません?大丈夫ですか?>
......うん、ちょっと疲れているのかもね。
今日は拠点に戻ったら、すぐにご飯食べて寝ちゃおう......。




