68 決着
ガシャァァンッ!!
突然の衝撃に執務室が揺れ、室内にいた者たちは衝撃でよろめき、倒れる。
中でも、窓際にいたモーブはクイーンの頭突きを直に受け、サラを抱えながら大きく吹き飛ばされた。
「......サラッ!!」
サラは彼女を捉えていたモーブの体によって散乱する破片などからその身を守られたらしく外見上は傷一つない。
一方のモーブは特に直接衝撃を受けた背中などは大きく傷を負い、血まみれの酷い状況だ。
どちらも意識を失っており、ぴくりとも動かない。
これを機と見たマーツはサラの救出に動こうとするが......先程の衝撃によって吹き飛ばされた瓦礫に下半身を挟まれ、うまく動くことができない!
室内を見回す。
妻のイーマはおそらく衝撃を受け、気を失ったのだろう。
床に倒れている。
「あぁぁ!イーマ様!イーマ様ぁ!!」
家令のスネイゲンは無事だ......が、倒れたイーマに動揺し、混乱している。
こうなってしまうとスネイゲンはマーツの言うことなど耳に届かない。
「ギ、ギ、ギ......カカカッ!」
執務室に頭を突っ込んだ巨大なクイーンの喉から、妙な音が響いた。
「!!!」
マーツはかつて冒険者として活動していた時期に得た知識から、その危険性に瞬時に気づく。
あれは、【ポイズンブレス】の予備動作だ!
「く、くそっ!動け!動けぇぇッ!!」
マーツは下半身を拘束する瓦礫をどけようともがくも、抜け出すことができない!
クイーンの目線はまっすぐにサラを向いている。
最悪なことに、ブレスの標的は彼の愛娘だ。
「おい!化け物!こっちだ!こっちを向けぇぇっ!!」
長い首をサラに向けてさらに伸ばすクイーンの注意を引こうと大声をだすが、全く見向きもされない。
目線の一つもこちらによこさないのだ。
赤く輝くはずのその三つの瞳は白く濁り......そこには、まるで意志を感じられない。
「ギ......ギギ、ギギァ」
クイーンはその口をサラに向け大きく開く。
もはや、万事窮す。
こうなってしまうと、ブレスの放射は秒読みだ。
「くそ!くそくそ!くそーーーーーーーーーッ!!」
無力!
あまりにも、無力!
目の前に、すぐ目の前に娘がいるのに、それを助けられない絶望!
マーツは叫んだ!
助けてくれ!誰か!
誰か娘を助けてくれ!
お願いだ!!
......神様!!
その時だった。
クイーンの首筋を駆け上がり、壁に空いた穴から室内に小さな黒い影が飛び込んできた。
メイド見習いのエミーだ!
跳躍し、くるくると回転しながら着地したエミーは、クイーンの前に立ちふさがる。
その様は、血まみれ、着ている服はぼろぼろ、疲労婚倍の満身創痍といったところ。
それでもその深く黒い瞳に闘志を宿し、その少女はやってきた。
友達を、守るために!!
「ブシュアァァッ!!」
その直後、クイーンから【ポイズンブレス】が放たれる。
エミーはその小さな体をめいいっぱい広げて仁王立ちし、サラをブレスから守る。
サラの代わりに、毒をその身に受けながら。
「ギ、ギ......」
「......ゲホッ」
【ポイズンブレス】を受け切ってなお、エミーは立っていた。
無事ではない。
一つせき込むと、口から血があふれ出した。
「あ......ああア......」
しかし、エミーは拳を握る。
その身に毒を受け、激痛に苛まれながらも。
いつ意識を失ってもおかしくない、そんな状態でありながら。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
なけなしの魔力を全て握った拳に込めて、エミーはクイーンの顔面を全力で殴りつけた。
全く強化がされていないクイーンの顔面はそれに耐えきれず、爆散。
血肉、骨片、もろもろをまき散らしながら吹き飛び、ついにクイーンの肉体はその活動を停止する。
ズ、ズゥン......。
お屋敷の外で地響きを上げながら、クイーンの巨体は倒れた。
その振動によって屋敷はギシギシと音を立てながら震える。
それと同時にエミーも、べちゃりと。
小さな音を立てながら、瓦礫とほこりまみれになった執務室の床に、倒れ込んだ。
そして、ピクリとも動かなくなった。




