674 巨獣の台地の情景描写
第29章、始まります。
果てが見えない程に広大な森が、青空のもとどこまでも広がっている。
ここは、巨獣の台地......数か所を除いて切り立った断崖絶壁により外界と隔絶された、巨大な魔物たちの楽園である。
「「「ブブブブブブッ!!」」」
今、巨木の幹の間を縫うようにして空へと飛び出して来たのは、3匹のデストロイブンブン。
軽自動車程の体躯と5本の角、艶めく漆黒の甲殻を誇る......カブトムシに良く似た、甲虫型の強力な魔物だ。
「「「「「「「ブブブブブブッ!!」」」」」」」
そんなデストロイブンブンがさらに追加で7匹、追加で森から飛び出した!
合計10匹のデストロイブンブンたちは一糸乱れぬ見事な隊列飛行をしながら、まっすぐに巨獣の台地の空を飛んだ。
覇気と殺気を漲らせながら彼らが向かう、その先にあるのは......森からニキビのように突き出し、そびえ立つ......山である。
しかしその山、ただの山ではない。
不自然に黄色くて......その表面にはびっしりと六角形の穴が開いている......そんな山なのだ。
即ち、その山は大きさこそ山であっても山に非ず!
デストロイブンブンの接近に伴い、その“山”の穴から現れたのは......こちらも軽自動車大の超巨大蜜蜂!
その名も、要塞蜜蜂だ!
つまり、デストロイブンブンが求めているのは要塞蜜蜂がためこんだ蜂蜜であり......彼らは要塞蜜蜂にとっては倒すべき略奪者、というわけだ。
「「「「「ビビビビビビッ!!」」」」」
要塞蜜蜂達は突撃してくるデストロイブンブンを、果敢にも迎え撃つ。
しかし、敵の持つ漆黒の甲殻は要塞蜜蜂たちの巨大な針すら通さない、厄介な鎧だ。
「「「「「ブブブブブブッ!!」」」」」
ぶつかって来る要塞蜜蜂の肉体を体当たりでバラバラに弾き飛ばしながら、デストロイブンブンは要塞蜜蜂の巣山へとまっすぐに向かう。
その羽音を、威圧的に鳴らしながら......!
要塞蜜蜂の攻撃を、全く意に介していない!
しかし、その時だ!
「ブブッ!?」
隊列の、一番後方を飛んでいたデストロイブンブンに、隙を突いて一匹の要塞蜜蜂がとりついた。
するとその一匹を起点として、続々と集まって来た要塞蜜蜂たちが、そのデストロイブンブンを覆い隠すように塊となっていく......。
これは、【蜂球】!
我々の世界でも、ニホンミツバチがスズメバチに対抗するため行うとされる、集団攻撃だ!
しかし、ここは異世界アーディスト。
彼ら要塞蜜蜂は、デストロイブンブンを熱で蒸し殺すために【蜂球】を作ったのかと言われると......それは違う。
そもそもデストロイブンブンは、炎で焼かれたとしても死ぬことはない、強靭な肉体を持っているからだ。
「ブ......ブ......」
要塞蜜蜂に集団で群がられ、もはやその姿を見ることすらできないデストロイブンブン。
当然彼は羽を羽ばたくこともできず、要塞蜜蜂の塊ごと、地面へと落下していく。
ヒューン......。
そして、デストロイブンブンと【蜂球】が、地面と接触した。
すると、その時である!
チュドオオーーーーーーンッ!!!
大爆発が、発生した!
そう!
我々の世界の【蜂球】は、敵を熱で蒸し殺す技であるが......。
異世界アーディストの......要塞蜜蜂の繰り出す【蜂球】は、集団で魔力を暴走させ大爆発を巻き起こし敵を殺す......【爆発蜂球】とでも言うべき技なのだ!
爆心地を観察すれば、そこには焼け焦げた木々と、黒焦げになって息絶えたデストロイブンブン、そしてさらには力尽きた数多くの要塞蜜蜂の亡骸が転がっている。
【蜂球】は、ミツバチの命を削る、自爆技......その事実だけは、この世界でも変わらない。
チュドオオーーーーーーンッ!!!
チュドオオーーーーーーンッ!!!
その周囲で、再び、三度と大爆発が起こる。
次々にデストロイブンブンたちは撃ち落とされていき......残るは3匹。
「「「ブブブブブブッ!!」」」
なれども!
残るデストロイブンブン達は、突撃の速度を緩めない!
死んでいった仲間達の亡骸を決して振り返らず......息の合った高速飛行で要塞蜜蜂の迎撃をかわしながら、必死に巣山を目指し、ミサイルのようにすっ飛んでいくのだ!
そのつぶらな瞳から......キラリと光る何かを、零しながら......!
デストロイブンブンは、要塞蜜蜂から見れば憎むべき略奪者ではあるが、“悪”ではない。
彼らも、力を蓄えるための良質な食料......生き残るための蜂蜜を得るために、必死なのだ。
つまり今我々が見ているものは、巨獣の台地における過酷な生存競争の一幕なのである!
「ブブブブブブーーーッ!!」
「ブブブブブブーーーッ!!」
「ブブブブブブーーーッ!!」
そして、ここで。
ついにデストロイブンブン達は、要塞蜜蜂の巣山へと到達した。
ズガン!
ズガン!
ズガン!
連続で聞こえるこの破壊音は、デストロイブンブンが巣山の外壁を壊しながら、その内部へと侵入した証である。
巣山に侵入された以上、もう勝負はついた。
これから始まるのは、三匹のデストロイブンブンによる蹂躙だ。
彼らは思う存分に蜂蜜を啜り、柔らかな蜂の子の肉を食らい、満足するまで英気を養う。
......貪欲に。
「ビビビビビビッ!?」
そして巣山に侵入された以上、要塞蜜蜂に打つ手はない。
彼らの針はデストロイブンブンには通じず、また彼らはその本能に抑制され、巣の中で【爆発蜂球】を使用できない。
詰みである。
巣山の周辺に、悲鳴のような要塞蜜蜂の羽音が響きわたった......。
しかし、その時だ!
「「「「「!?」」」」」
突如として巨大な影が、途方に暮れる要塞蜜蜂達を覆った。
山のように大きい彼女らの巣すらすっぽりと覆い隠す......それ程までに巨大な影だ。
その影を、生み出した者。
それは......。
体中が、苔むした......そしてその背には森すらを背負った、超巨大なクジラだった。
いや、クジラに似ている魔物、と言った方が良いかもしれない。
何せそれは陸生の生き物であり、ヒレではなく丈夫な四つ足を持っているのだから。
しかしその全体的なフォルムはどう見てもクジラであり、本来のクジラと縁もゆかりもない生物とは、到底思えないのも事実である。
ともかく、閑話休題。
その陸クジラは、じっと要塞蜜蜂の巣山を見つめていた。
そして、おもむろに、その巨大な口をあけると。
バクリ、と。
山のように大きいその巣を、大地ごと!
......一口で、食らってしまった。
「ボアアアアアーーーーーーッ!!!」
その味に、満足でもしたのか。
超巨大陸クジラは、巣山を飲みこんだあと大音量で吠え、空気を震わした。
そして、ズシン、ズシンと。
局所的な地震を巻き起こし......周囲の巨木をなぎ倒しながら。
どこかにむかって、歩き去って行ったのだ。
◇ ◇ ◇
そんな、巨大魔物達の過酷な生存競争を......小さな魔物がじっと、木の洞に隠れながら眺めていた。
人の手のひらに乗る程の、小さな魔物だ。
その全身はべっとりと青紫色の粘液で覆われており......さらにそれに砂利やゴミなどが付着し、汚らしい。
とにかくそれは、汚いベトベトの塊であって、一目見ただけではその正体は掴めない。
その小さな魔物は、目の前で行われた大怪獣同士の戦いとでも言うべき戦闘行為を目の当たりにし、しばらく呆然としていたが。
少し遅れて、恐怖を思い出したのだろう。
徐々に、徐々に......その体を震わせ始め。
そして。
(も、もう嫌だよぉーーーッ!!日本に帰りたいよぉーーーッ)
そう、心の中で喚き散らした。
【デストロイブンブン】
軽自動車程の大きさを誇る超巨大甲虫であり、角が5本も生えている。
蜂蜜が大好物。
第17章にて、“魔操”のデオガンダイがアーシュゴー国王都襲撃に投入していた。




