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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
28 精霊を食べよう編!
673/716

673 【森の精霊王の愛し子】結

「う......ん......?」


 ミシュティレがまず感じたもの。

 それは、客観的に描写するならば、朝日から届けられる黄金色の光でした。

 ポカポカと暖かくて、瞳を閉じていても、その存在を感じとれる......柔らかで優しい光でした。

 冷たく暗い独房の中では、一度も経験したことのない、未知でした。

 だからこそ彼女は、その心地よさに気を緩めつつも、しかし恐る恐る......ゆっくりと瞼を開きました。




「わあ......!」




 すると、彼女の視界に飛びこんで来たもの!

 それは......どこまでも続く、青色の何かでした!

 たまに白い何かがゆっくりと流れ、そして消えていく......広い広い、独房とは違って限りのない、とにかく美しくて雄大な、何かだったのです!


 ミシュティレは初めて見るその何かに、真ん丸に目を見開いて、じっと見入っていました。

 何故って、こんなに美しいものを、ミシュティレは初めて見たのです。

 感動のあまりミシュティレは、しばらく身動きがとれませんでした。




「あれ......?」


 次いでミシュティレが気づいたのは、自身の肉体の、不調の無さです。

 彼女は独房で一人、病に侵され......死を待っていたはずです。

 それなのに。


 今の彼女は、痛みも、苦しみも、気持ち悪さも感じていません。

 強いて言うなら少し空腹ですが......それも耐えられない程ではありません。

 とにかく、気分が良いのです。


「ああ......つまり」


 だから、ミシュティレは結論付けました。


「ここは、天国、です!」


 自分は、死んだのだと。




「そんなわけ、ないでしょう?」


 するとミシュティレの視界の外から、そんな声が聞こえてきました。

 ミシュティレは途轍もなく驚いて、慌てて上半身を起こし、その声の元へと顔を向けました。

 どうして、驚いたのか?

 だって、【念話】ではない......鼓膜を揺らして感じとる“人の声”を、ミシュティレは初めて聞いたのです!

 一体何事かと、彼女の心臓が激しく打ち鳴らされるのも、無理はないでしょう。


 しかし。


 次の瞬間、ミシュティレはもっともっと、驚きに包まれることになります。

 だって、そこには。


 ミシュティレと同じく、二本の腕と二本の足を持っていて、青色の目と鼻と口が顔についていて、金色の髪が生えている......何かが!

 立っていたのだから!


「あ......ああ!」


 聡明なミシュティレは、かつてハスムームスから学んだ知識を紐解き、その何かの正体を見破って、叫びました!


「あなたは!ニンゲン、です!」


 そして座ったまま、もそもそとそのニンゲンに体を向け、にっこりと笑いました。


「私も!ニンゲン、です!」




「............」


 ミシュティレに笑顔を向けられた、ニンゲンは。

 初めは、何やら眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げていたのですが......。


 ミシュティレの言葉を聞くと目も口も丸く開いて、ポカンとした後。


「そうね......あなたは、人間よね」


 困ったように頭をかきながら。


「なんて斬新な自己紹介かしら」


 苦笑を浮かべ。




「私は......トリアよ」


 そして、ミシュティレの瞳をまっすぐに見ながら、そう言いました。




「トリア?ニンゲン?どっち、です?」


 ミシュティレは混乱し、首を傾げました。


「トリアは、愛称......いえ、名前よ......これからの。私はこれから、トリアという名前の、人間なの。あなたは?」


「私は、ミシュティレという名前のニンゲン、です!」


「そう......そう、よね......」


 他愛のない問答を経て、再びトリアと名乗る金色の髪の少女の表情が、暗くなりました。

 笑顔が消え、自己紹介をする前の......何だか少し怖い顔に、戻ってしまったのです。




 それを見て、ミシュティレは不安を感じました。

 だから“いつものように”両腕を交差するようにして自分を抱きしめ、媚びへつらうように詫びました。


「ごめんなさい、です......」


 その様を見て、トリアはさらに、不機嫌そうな顔になりました。


「い、痛く、しないで、です......」


 ミシュティレは怖くて怖くて、目をぎゅっと閉じて、ポロポロと涙を流しました。


 だって、彼女の世話をしていた、ハスムームスは。

 ミシュティレが何か失敗すると、彼女のことを決まって、折檻していました。

 ハスムームスは小さな鼠でしたが、その実精霊です。

 不思議な力でミシュティレを執拗に痛めつけ、“躾け”を行っていたのです。

 それがミシュティレにとっては、耐えがたい苦痛でした。




「......あなたは、何を言っているの?」


 ですが。

 トリアはいつまで経っても、ミシュティレのことを打ちませんでした。

 ミシュティレが恐る恐る目を開くと......トリアは、困った顔をしていました。

 怖い顔では、ありません。


「私は、間違えた......違う、です?ハスムームスは、こういう時、痛くした、です」


 たどたどしく、事情を説明するミシュティレの言葉を聞いて、トリアはかっと目を見開きました。

 また、怖い顔です!

 目は釣りあがり、眉間に皺が寄っています!


 打たれる!


 ミシュティレは怯えて体を縮こませ、震えました。




 でも。




 ......次の瞬間、ミシュティレが感じたのは、痛みではありませんでした。


 痛みでは、なく。


 柔らかさと、暖かさでした。


 トリアは突然、ミシュティレのことを、抱きしめたのです。




「もう......精霊は、いないッ!!ハスムームスとか言うのだって、もういないんだッ!!」




 怒鳴るように、トリアは叫びました。

 ポタ、ポタと落ちる何か暖かい物がミシュティレの肩を濡らしています。


「ハスムームス、いない、です?こんなに明るいのに、です?」


「そうだよッ!だから......あなたも......私だってッ!!」


 ここで、ミシュティレの肩を掴みながら、トリアは体を離しました。

 そして、やっぱり怒ったような顔で、でも涙でその青色の瞳を潤ませながら。




「自由......なんだよッ!!」




 そう、叫んだのです。




「自由......」


 それを聞いて。

 ミシュティレは、何故だかわからないけど......上を見あげました。

 そこには相変わらず、青色の何かが......空が、広がっていました。

 トリアの瞳と、同じ色です。


「トリアの瞳、キレイ、です」


 だから改めてトリアの瞳を見つめなおして、ミシュティレはそうつぶやきました。


「!?」


 まったく脈略の無いその一言に、思わずトリアは目を大きく見開き、口をへの字にして頬を赤らめましたが。


「あはっ」


 すぐに、照れ隠しのように笑みを浮かべて。


「知らないの?あなただって、同じなのよ!」


 そう言いました。




「同じ、です!?私の瞳も、青色、です!?」


「そうよ!」


「わあ......自由、です!」


「あはは、何よそれ!?」


 なんだか、わからないけど!

 ミシュティレは嬉しくって嬉しくって、たくさん笑いました!

 トリアも、です。

 すっかり怖い顔はやめて、大笑いしています!




「......さて」


 しばらく、笑って、笑って、笑ってから。

 トリアは、ゆっくりと立ちあがりました。


「ねえ、一緒に行こう、ミシュティレ」


 そしてそう言って、まだ座っているミシュティレに、手を伸ばしました。


「行く、です?どこに行く、です?」


 ミシュティレは、首を傾げました。


「知らないよ、自由なんだからさ」


 トリアもまた、首を傾げました。

 首を傾げながら、怖い顔をして笑っています。

 でも気づけば、ミシュティレはそんなトリアの顔も、怖くなくなっていました。


 だけど。

 怖くはないけど、ミシュティレはわからないことだらけです。


「どうして、一緒に行く、です?」


「どうして、かな......」


 そしてどうやら、トリアもまた、すぐには自分の言動の理由に思い当たらないようです。

 トリアは少しの間呆けたような顔をして、考えこみ。


「あはっ」


 怖い顔で笑って。


「きっと、そういう性分なんだ。放っておけないんだ、あなたのこと」


 そう言いました。




 ミシュティレは何が何だか、ちっともわかりませんでした。

 でも、ミシュティレは......差し伸べられた暖かなトリアの手をしっかりと握り返し、立ちあがりました。


「えへへ」


 そして、にっこりと笑いました。

 だって、その時にはもう、ミシュティレは。

 トリアのことが、大好きになっていたからです。




「それじゃあ、行こうか、“ティレ”!」


「ティレ?何、です?」


「あなたの名前よ!私は今日から、トリア。あなたは今日から、ティレよ!」


「なんで、です?」


「だって、呼びやすいじゃない!」


「本当だ、です!呼びやすい、です!」




 ......そう言って、騒ぎながら。

 トリアとティレ......よく似た容姿を持つ、金色と銀色の髪の二人の少女は、荒れ地から歩き始めました。


 暖かい日の光は。


 優しく......そんな二人のことを、ずっと照らしていたのでした。

 以上をもちまして、第28章を終了いたします。

 精霊神の視点でもう1話挿入しようかとも思いましたが、ここで終わった方が、物語的におさまりが良いかと思いましたので。

 『今後の精霊の森の魔力調整はどうするの?』という課題が残ってはいますが、精霊神がいる以上は何とでもなるので、読者の皆様的には特に気にする必要はないです。


 次の第29章ですが、更新までお時間をいただくと思います。

 お待ちいただければ、幸いです。

 今後とも、どうぞよろしくお願い申しあげます。

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― 新着の感想 ―
please keep writing author-san. i love your work!!!
この小説ムチャクチャ面白いのになんで書籍化してないんだろ 勿体ないなあ
二人に幸あれ!
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