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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
5 エミー、メイド見習いになる!初めてのお友達編!
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67 これまでほとんどフォーカスをあてられてこなかったおっさんの恨みつらみ

マーツ・サラー男爵はもともとテーニディース南部の町ナーメダケの鍛冶屋の三男坊、平民の生まれである。

彼は幼いころより剣を打つよりも振ることの方に興味を示し、15歳の春には家を飛び出し冒険者となった。

その時からずっと一緒にパーティを組み苦楽を共にしてきたのが、幼馴染であるモーブだ。


剣の才能があり、めきめきと頭角を表していったマーツとは異なり、モーブには戦いの才はなかった。

しかしモーブは体力自慢の男であり、マーツのパーティではポーター、つまり荷物持ちとして影からマーツを支え続けてきたのだ。


いくらマーツが強く、強大な魔物を討伐することができても、その素材を持ち帰らなければ冒険者としての収入は激減する。

しかし、素材を持ち運んでいる状態では、満足に戦闘を行うことができない。

その問題を解決するのが、ポーターである。

地味ではあるが、冒険者のパーティにとっては欠かすことのできない、必要な人材なのだ。


冒険者の中には、直接戦闘に参加することのないポーターを悪し様に罵る心ない者もいる。

しかし、マーツはそうではなかった。

彼はポーターの重要性、そしてモーブのポーターとしての才能、その実力をよくわかっていた。

高く評価していたのだ。

マーツは剣士として一流の冒険者だったが、モーブはポーターとして一流の冒険者だった。


二人は互いに足りない部分を補い合い、共に冒険し、戦い、成長してきた。

今の自分があるのは、モーブのおかげ。

マーツはそう思っていたのだ。

だから叙爵し冒険者を引退する際も、モーブに「これからも一緒に働かないか」、と誘いをかけたのだ。

そのころには二人とも、体力的には全盛期を過ぎており、衰えを感じ始めていた。

モーブだって、この先もずっと、不安定な冒険者という職業を続けることはできない。

それなら、雇用主と使用人という形にはなるが、彼を雇い安定した生活を提供することが、モーブへの恩返しになる。

マーツは心の底から、モーブのためを思って、この提案をしたのだ。

モーブは笑顔でその提案を受けてくれた。


そんな自分とモーブの間には、硬い友情が結ばれている。

マーツはそう信じて疑わなかった。

だから、彼はモーブのことを信頼していたし、この緊急事態の中『村民の避難』という重要度の高い仕事を彼にまかせた。


それが、どうだ。


一体全体、どうしたことだ。


彼が全幅の信頼を置いていたモーブは。


硬い友情で結ばれていると思っていた、彼の友達は。


最愛の娘の首筋に刃をあて、歪んだ、暗い笑みをこぼしている。




......なぜだ。









「なぜだ。とか、そんなこと、思ってるだろ、お前」


かつての、冒険者であったころと同じような、気やすい口調。

しかし、低く、暗い声色で、モーブは語り始めた。


「図星だろ?わかるよ、オレはさ。お前の考えていること。ずっと......ずっと一緒にいたんだから、さ」


その手に握りしめたナイフは、震えている。


「だけどさぁ!お前、わかんねぇだろッ!今、オレが考えていることォッ!!」


突然モーブは絶叫する。

人質にとられているサラは青い顔をしながら、びくりと肩を震わせる。


「ど、どうしたんだモーブ!落ち着いてくれ!正気に戻るんだ!」


「正気!?ははは、正気に戻れ?ははははは!はははははははは!オレは正気さ!間違いない!」


口ではそう言いつつも、唾を飛ばしながら大笑いするモーブの姿は、まともではない。


「ねぇ、モーブ!約束通り、サラと一緒に執務室まで来たでしょう!?お願い、サラを離してあげて......!」


イーマが懇願する。

サラ、イーマ、メイードの三人は、地下室に避難する途中でモーブに不意を突かれ、襲われた。

その際メイードは頭を殴られ気絶し、今は廊下でのびている。


「だめだ!ははは、まだだめ!......おい、マーツ!陰険家令!結界石から手を離しな!」


「い、陰険ッ......!?」


「スネイゲン、抑えろ......仕方ない、修復は......中断だ」


マーツとスネイゲンはゆっくりと結界石から手を離す。

少しずつ行われていた結界石の修復が......止まった。


「よし、そうだ。それで良い」


モーブはサラの首筋に刃をあてたままじりじりと移動し、窓を背にする形で立ち、マーツたちを睨みつける。


「なぁ、モーブ、落ち着いてくれよ......なんだってこんなことするんだ!」


「は、は、は。わかんねぇだろ、マーツ。お前にはわかんねぇさ、オレの気持ちなんてな」


マーツを睨みつけるモーブの暗いまなざし。

モーブのこんな表情、マーツはこれまで見たことがない。


「いつだって、いつだって!お前はいつだって、成功者だ!たとえ何か失敗しても、必ずや努力で挽回し、困難を乗り越える!凄いよなぁ!いつだって、みんながお前のことを認めてくれる!」


モーブは大声で叫ぶ。


「それに比べて、オレはどうだ!?何をしても、目立たない!認められない!いつだって、何かを手に入れるのはお前だ!名誉、称号、爵位、妻、娘ッ!!お前ばっかり手に入れる!幸せになるッ!!オレは......オレのことは、誰も見向きもしない!!」


「私はッ!私はモーブ、君のことを認めていた!今の私があるのは君のおかげだ!だからこそ......」


「だからこそ?地味で目立たない、役立たずのポーターを使用人として雇ってあげた?その結果、オレはどうなった?慣れない、向かない仕事を、陰険家令に罵られながら鬱々とこなす毎日だ!お情けで雇われている無能、そんな風に呼ばれながら!」


モーブのナイフを持つ手に力が入る。


「んっ......!」


少しだけ、サラの首筋に傷がつき、血が一筋流れる。

サラは小さくうめき声をあげる。


「あぁっ!サラ!サラぁ!!」


イーマ夫人はもはや気が動転してしまっている。

いつもの冷静沈着な彼女の姿は、ここにはない。


「オレはなぁ、マーツ。ずっと我慢してきた。そう、ずっと我慢してきたんだ。自分の気持ちを殺してきた。でもそれは間違いだったんだ!」


「間違い......!?」


「そう!だって、あの時!たまたま下を通りかかったお前の妻子に、屋根板を落としてやったあの時!あの時感じた爽快感!最高だった!!オレはようやく、オレの本当の気持ちに気づいたんだ!オレはな、マーツ、お前から奪ってやりたいんだよ!お前の大切なものを!オレが得られなかった幸せをッ!!」


「あ、あれはお前の仕業だった、のか!?」


「あぁ!?何をいまさら驚いてやがる!まぁ、あの時は失敗したがな。あの呪い子め、忌々しい」


舌打ちし、唾をはくモーブ。

彼がこんな悪態をつく様を、マーツは冒険者時代から今に至るまで、目にしたことが無い。

彼はいつだって穏やかで控えめで、静かに微笑んでいる、そんな男だったはずだ。


「なぁ、モーブ、私が恨めしいなら、私を狙えば良いだろう?頼む、サラを離してくれ!娘を、巻き込まないでくれ!」


「はぁ?お前、オレの話聞いてたか?オレはな、奪ってやりたいんだよ。お前から、お前の大切なものをな」


「そんな、そんなことをして、どうなる!?頼むから、落ち着いてくれよモーブ。そんなことをしても、誰も幸せにならない」


「いやッ!!なるッ!!これで、オレの運命は変わるッ!!そう聞いたんだッ!!」


「き、聞いた、だと?」


「おいッ!おいまだかッ!!オレは、言われた通りにしたぞッ!!これからどうしたら良いッ!?」


モーブは天井や壁など、せわしなく視線をうごかしながら喚き散らす。


今のモーブの発言から明らかになったのは、今回のモーブの凶行は、何者かに唆されて行われたということだ。

そしてそれは、指示を仰いでいるモーブの目線から判断して、この部屋には姿を現していない第三者である。

マーツはモーブが目を向けた箇所に何者か潜んでいないか気配を探るが、その様子はない。




「モーブ、おじさん......」


次に声を発したのは、人質としてとらえられているサラだった。

乱暴に掴まれて体が痛むのか、その声にいつもの元気はない。

しかし、かといって怯え震える様子もない。

生来の芯の強さ故である。


「おじさんは、お父様と友達だったんじゃないの?」


「あ?」


「お父様、よく言ってるの。モーブは最高の仲間だって。自分にはもったいないくらいの、友達だって」


「......」


「おじさん、冷静になってほしいの。いつもの優しいおじさんに戻ってほしいの」


「......」


「ねぇ、おじさん。二人はお友達、なのでしょ?」


あまりにも、純粋な言葉だった。

まっすぐな言葉だった。


サラは悲しかったのだ。

父とモーブはお友達であるはずだ。

それなのにモーブは、父の心を傷つけようとしている。

そんなの、良くない。

お友達どうしがそんな関係になるなんて、つらい。

自らの命が危険にさらされていることよりも、目の前で友情が音を立てて壊れていく様を見るのがつらかった。

父とモーブに仲直りしてほしいと、それだけを考えていた。



「友達、なんかじゃなかったのさ。とっくに」


しかしモーブの口から出てきたのは、サラにとっては悲しい事実。


「......かつては」


絞り出すように、紡がれる言葉。


「いつも感謝していた。尊敬していた。誇らしかった。マーツは最高の友人だと、そう思っていた。しかし今となっては、ただただ妬ましい!憎らしい!」


「おじさん......」


「オレにはわかるぞ、サラ!お前もきっと、マーツと同じだ!みんなから好かれて、どんな困難にもくじけずに立ち向かう!きっと、そんな成功者になる!きれいごとの世界で生きていける!羨ましいなぁ!妬ましいなぁ!憎らしいなぁ!」


唾を飛ばし、再びモーブは絶叫を始める。

サラはぽたぽたと、涙を流した。

悲しくて悲しくて、もうモーブにかける言葉が見つからなかった。




「だけどな、今日で全ての運命が変わるんだ。お前たちは成功者ではなくなり、オレは、日陰者の人生に終止符を打つ」


モーブは笑い始めた。

血走った眼をぎらつかせながら哄笑をあげるその様は、どう見ても尋常ではない。

マーツはモーブのそんな様子に、ずっと違和感を抱いていた。

もし先ほどまでの彼の主張が、本心から発せられているのだとしても。

だとしても、魔物の群れが屋敷に向かっている最中にこんな事件を起こして、一体何になるというのか。

どうしてこんなことで、運命が変わるというのか。

娘を人質にとって部屋にたてこもり、そこからどうなるというのか。

そこには、犯罪者としての未来しか待っていないではないか。



「......『娘を人質にとって、ここからどうするつもりだ。そこには、犯罪者としての未来しか待っていないぞ』とか、今考えているのはそんなところかな?マーツ」


「......!」


にやにや笑いながら、モーブはそう言った。

またしても自分の思考をモーブに読み取られ、唇を噛むマーツ。

やはり本当に、モーブには自分の考えていることがわかるらしい。

自分には、モーブの考えていることは、全くわからないのに......。



「まぁ、普通なら、そう思うよな!ははは、でもな、オレには味方がついている」


「味方......誰なんだ、それは」


「ははは!知りたいか?知りたいよな!別に良いぞ、教えてやっても!びびるぜ?きっとな!!」


モーブの協力者。

先程のモーブの行動から、それが存在していることは確実であったが、モーブはそれを自ら明かすという。

もしかすると、あの馬車襲撃も、その者が仕組んだことかもしれない。

室内に緊張が走る。





「良いか?よく聞けよ?オレの味方っていうのはな......」










次の瞬間だった。


轟音をたてながら、巨大なポイズントポポロッククイーンの頭部が、窓と壁を突き破り執務室に突っ込んできたのは。

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― 新着の感想 ―
[一言] モーブ、こいつはダハチエのハゲと同じだ。間違いなく神を名乗る邪悪の根源にささやかれてやがる……ん?すると最初の馬車襲撃は別の奴が仕組んだのか?まあとりあえず、頑張れエミーさん!守ってオマケさ…
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