表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
28 精霊を食べよう編!
668/716

668 世界樹オドオカト・セ・ココリリオン

<<<ハハハ、ハハッ!!ハハハハハハッ!!>>>


 少しだけ、時を遡ろう。

 エミーの眼前から転移し、森の精霊王ココリリオンが移動した先は......巨木の洞の中にある、自らの居室。

 ココリリオンは人型を模してはいるが精霊なので、その部屋の中にはベッドやタンスといった人間にとって必要な家具は置いておらず......まず目につくのは、壁際に置かれた巨大な水晶である。

 その中には、体調を崩し未だ目を覚まさないココリリオンの愛し子ミシュティレが、治療のために封じられている。

 この水晶はただの鉱石ではなく、かつて精霊神ピーリースユよりココリリオンが賜った、神器なのだ。


<<<ハ、ハハッ!!ハア、ハア......!!>>>


 しかしながらココリリオンは、愛し子の封じられた水晶には目もくれず、荒い息を吐きながら部屋の中央部へと移動した。

 そこにあるのは......ちょうど成人の腰の高さほどに成長した、一本の若木である。

 いや......洞の床から伸びているのだから、枝というべきだろうが......とにかくココリリオンはそれを、左手で強く握りしめた。

 すると、その動作に呼応して......光り輝く琥珀色の樹液が部屋中から染み出し、あっという間に床を覆った。

 そしてそこに、精霊の森の地図と、細かな文字や数字......大地の魔力流の観測地点における総量や、その魔力の森への流入量、精霊の森の区域ごとに表示された魔力の蒸散速度、風向きや風速等が映し出される。


 つまり、この若木と樹液の水面は......言うなればキーボードとディスプレイ......即ちコンソールである。

 実は、ココリリオンが居所としているこの大樹それ自体も、大地の魔力流を管理するためピーリースユよりココリリオンが賜った、神器なのだ。


<<<ヌウン......!>>>


 ココリリオンは若木の幹を握りしめながら、一息唸る。

 すると、樹液ディスプレイ上に表示された数値に、変化が生じた。


 まず、精霊の森への魔力流入量が、最大値に。

 そして、各区域における蒸散速度は、最低値になった。

 つまり、大地より魔力を吸うだけ吸って、ため込んでいるのが現在の状態である。

 魔力を貯蓄する先は......神器たるこの巨木。

 神から賜ったこの神器はさすがに天上のアイテムであり、既にココリリオンの何十倍もの魔力をその身に蓄えているにも関わらず、まだまだ容量に空きがある。




『不適切な操作が実行されている可能性があります。至急、状態を確認してください』




 と、ここで。

 甲高い音と共に、ディスプレイ上にそんなメッセージが表示された。

 この巨木は、大地の魔力流から適量の魔力を吸いあげ、空気中に放出するためのツールである。

 魔力を過剰に吸収し、貯蓄する......それは明らかに目的外の操作なので、是正の必要があるからだ。




『不適切な操作が実行されている可能性があります。至急、状態を確認してください』

『不適切な操作が実行されている可能性があります。至急、状態を確認してください』

『不適切な操作が実行されている可能性があります。至急、状態を確認してください』




 ピコン、ピコン、ピコンッ!


 しつこいぐらいにメッセージは出現し続け樹液ディスプレイを埋め尽くしていくが、ココリリオンはそれを完全に無視した。

 蓄えた魔力量に応じて巨木はさらにその体を大きくし続けているらしく、洞の中にも振動が伝わってくるが、それも無視だ。

 右手の指先から蔓を伸ばし......メッセージの下に表示される『はい』と『いいえ』の内、『いいえ』だけを蔓で叩き続ける。

 そして、蓄えられ続ける魔力量の数値を見てニヤリと笑い......バキバキと、己の胸部の切断面から植物の根を伸ばし、巨木を操作する若木へと絡め始めた!




『システムに、不正な干渉を検知しました。至急、状態を確認してください』




 ヴィーン、ヴィーン、ヴィーン!!


 すると物騒な警告音と共に樹液ディスプレイの色が真っ赤に変化!

 その上で、上記のようなメッセージが表示される!


<<<やかましいッ!!我は、精霊王ぞッ!!>>>


 ココリリオンは一喝し、メッセージ下の『いいえ』を蔓で叩きつけると......若木と絡み融合した自らの根を通して、意識の一部を神器のシステムに高速侵入させた!

 そして警告音を無理やり止めさせ、侵入者への迎撃システムの作動も中止させる。

 さらに......残っている自らの肉体......胸部から頭部にかけての部位を、徐々に木質化させ始めた。


 ココリリオンの目的は何か。

 彼が今行っている、『禁じ手』とは、一体どのような行為なのか。




 それは......神器たる巨木との、一体化である!




 膨大なる大地の魔力流の力を一身に取りこみ、それを振るい、邪悪なる下等生物を叩き潰す!

 それこそがココリリオンの目的であり......彼の頭の中は今、その考えでいっぱいだった。




『システムに、不正な干渉を検知しました。至急、状態を確認してください』

『システムに、不正な干渉を検知しました。至急、状態を確認してください』

『システムに、不正な干渉を検知しました。至急、状態を確認してください』




 警告音こそ消えたものの、鬱陶しいメッセージは未だに出現を続けている。

 当然だ。


『決して、神器の目的外使用をしてはならぬ』


 ココリリオンは今、まさに......森の精霊王に就任したその時、精霊神ピーリースユから厳かに伝えられた禁忌を、犯しているのだから。

 しかし怒りに目をくらませ、思考を狭窄させたココリリオンは、止まらない!

 完全に木質化し固まった右手指先から蔓だけを動かし、『いいえ』を連打し続ける!




『システムに、不正な干渉を検知しました。至急、状態を確認してください』


『いいえ』


『システムに、不正な干渉を検知しました。至急、状態を確認してください』


『いいえ』


『システムに、不正な干渉を検知しました。至急、状態を確認してください』


『いいえ』




 何度、そのやりとりを繰り返しただろう。

 数えきれない拒絶の押しつけの果てに、ココリリオンは。




『まだ、間に合う。止まるのじゃ、ココリリオン』




 そんな、これまでとは異質なメッセージにたどり着いた。


 突然のことに、思わず息をのむ。


 しかし。




 パシン、と音を立てて。


 ココリリオンの蔓が叩いたのは。




『いいえ』




 そして、次の瞬間......ココリリオンの意識は、闇に飲みこまれた。




◇ ◇ ◇




 次に、ココリリオンが意識を覚醒させたその時。

 彼は人間を模したその時から利用している視覚、嗅覚、聴覚......その他にも、様々な感覚を失っていた。

 しかし、彼は精霊。

 今彼が置かれている闇は、もともと彼が慣れ親しんでいた世界だ。

 すぐさま、魔力操作によって周囲の状況を把握し、彼は......。




<<<ハハハ......ハーッハハハハッ!!>>>




 大声で、笑った!

 何故なら、ココリリオンの目論見は成功し、彼は今、神器たる巨木と、完全なる一体化を果たしていたからだ!




<<<素晴らしいッ......素晴らしい力だ......!!>>>




 己の新しい体に満ち満ちるその力は、あまりにも膨大!

 これだけの力があれば、きっとなんだってできてしまう!

 凄まじい万能感だ!


 体内の魔力を操作し、色々と整える。

 しばらく慣れ親しんでいた視覚がないと不便なので、瘤を使って新たに顔を作り出す。

 この体の形状操作も、息を吐くようにできる。

 なんという、力なんだろう!




<<<なんだ、そうか、そうだったのか......ピーリースユ様が......いや、ピーリースユがこれを禁じていたのは、そういう訳か!>>>


 もはや、この時。

 ココリリオンは、それまでずっと抱いていた精霊神ピーリースユへの崇敬や信仰を、すっかり捨て去ってしまった。


 だって、ココリリオンは、神になりたかったのだ。

 それなのに、ピーリースユはそれを認めなかった。

 ところが、ピーリースユが禁じていた禁忌を犯せば、凄まじい力が容易く手に入ったのだ!

 ピーリースユは、こうしてすぐに力を手に入れる手段があるにも関わらず、ココリリオンにそれを禁じていた!


 つまり!


 ピーリースユは、ココリリオンを、神にしたくなかったのだ!


 何故って?


 それだけの力を得たココリリオンは、あらゆる意味でピーリースユを凌駕していて!


 彼女の立場に......とってかわる存在に、成り得るからだ!


 成り得る、というか、現に今、成った!


 つまりピーリースユはココリリオンの素質に嫉妬しており、その頭を無理やり上から押さえつけていただけの、小者に過ぎないのだ!


 そう考えたからこそ、ココリリオンは。

 いつの間にか精霊神ピーリースユとの繋がり......パスのようなものが、彼の魂から消え去っていたことに気づいても......何とも思わなかった。


<<<もはや我は、精霊神に従属する精霊王に非ずッ!!このッ、膨大なッ、力がッ......ハハハッ!!我が力が......もはやそれを認めないのだッ!!>>>


 いや、何とも思わないどころか、むしろそう言って大喜びした。

 くだらない、親のような顔をしてその実己を押さえつけていた元凶との繋がりなど、無い方が好ましいからだ。


 もう己は精霊神の支配下にはない。

 そもそも神器と一体化したココリリオンは今、精霊ですらない。

 もっと上位の、一段どころか二段も三段も上の上位存在に、生まれ変わった!




<<<もはや我は、精霊ではなくッ、一柱の神であると言っても過言ではないッ!!>>>


 そう、神だ!

 ココリリオンは、ついに、神になった!

 己の機転で邪魔くさい先達を出し抜き、この世界における真なる支配者の一角に、成りあがったのだ!


<<<改めて、古式ゆかしく神代の言葉を使って、名乗るとしようッ!!我は、我はッ......!!>>>


 さしあたり、考えるべきは今の己に相応しい名前である。

 神になった以上、多少古めかしくとも、神代の言葉も用いて自らの名づけを行う。

 それが正しいことであると、ココリリオンは考えた。


<<<我は、世界を支え、その力を配する......新たなる樹木の神であるッ!!>>


 まず前提として、己は樹木の神である。

 肉体として樹木の体を持つので、それは当然だろう。


 次に、名前だが。


 現在この世界では使用されていない概念を、取りこもう。

 そう、ココリリオンは考えた。

 彼には、精霊王として学び続けた教養がある。

 その知識を探り見つけ出した、己を唯一無二の存在たらしめる概念。


 それが、“世界樹”。


 この世界には、世界樹と呼ばれるものは、存在していない。

 表向きには、そういうことになっている。

 しかしかつて、世界の境界が今よりもぼんやりと曖昧であった神話の時代に、異世界から飛んできた世界樹の種がこの地に芽吹こうとしたことがあったという。

 それは異世界産の侵略的外来種であり、この世界の生態系を狂わせる危険性が大きいことから、災厄としてどこぞの島に封じられたのだとか。


 とにかく、そういう事件があったため、この世界には世界樹は存在していないが、世界樹という言葉だけは残っている。


 ならばその言葉を......概念を!


 己がいただこうではないか!




<<その名は......世界樹オドオカト・セ・ココリリオンッ!!>>>




 ......そう、名乗った時。

 ココリリオンは、己が精霊王ではない......強大で尊ぶべき超上位存在に生まれ変わったことを、改めて自覚した。


 きっとミシュティレも、嬉しいだろう。

 神の伴侶に、なれるのだから。

 そう思うと自然と、瘤で作った頬が緩む。


 ああ、ミシュティレ、ミシュティレ......我が愛し子よ!

 もはや精霊神の軛より逃れた我は、あなたを思うがままに愛そう!

 これからは、ずっと一緒だ!

 ずっと私の中で、幸せにまどろんでいると良い!

 あなたには、それを許そう!

 あなたは、この神の、愛し子なのだから!




<<<......さて>>>




 心地よい自己陶酔、そして愛の確認を行った後、ココリリオンはギロリと眼前を睨んだ。

 そこにいるのは、どす黒い靄と鎧で身を包んだ、下等生物だ。

 不吉な色合いに反してその実見目は麗しいが、その魂はあまりにも醜悪で、耐えがたい悪臭を放っている。

 そんな、不快で滅ぼすべき邪悪だ。


<<<見ての通り、我は神となった。神となった以上、世界を汚す邪悪は清め祓わねばなるまい>>>


 ココリリオンは厳かにそう宣言し、メキメキと音を鳴らしながら枝を伸ばした。

 そしてその枝をねじり、作りあげたるは超巨大な一本の槍。




<<<疾く、去れ......我が世界よりッ!!>>>




 ココリリオンは、その槍を......拳を構え、戦闘姿勢をとる......滑稽な程矮小な下等生物に向かって、全力で撃ち出した!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ