666 森の精霊王(の杖)は難敵
<<<ヌアラアアアーーーーーーッ!!!>>>
エミーの一言に激昂した森の精霊王ココリリオンは、獣のような雄たけびを放ちつつ、その手に持った杖を構えながら風のようにエミーへと駆け寄った!
その瞳に燃える殺意の炎はあまりにも激しく、エミーは自身の意識の中に少しだけ残していた“和睦”という可能性を、自らの殺意で塗りつぶし迎撃の構えをとる!
<<<アアッ!!>>>
「らッ!」
そしてココリリオンが放ったのは、エミーの横腹目がけた横薙ぎの一撃である!
エミーはそれに下からの打撃をあわせる。
パキンと小気味よい音を立てながら精霊王の杖はまたして二つに割れ、その上半分はどこかに吹き飛んでいく。
<<<アアアッ!!>>>
「らッ!」
さらにココリリオンは、横薙ぎの一撃を放った勢いを使用してもう一回転し、さらなる横薙ぎの一撃を放った!
その軌道も勢いも、先程と全く同じだ!
故に先ほどと同じようにエミーはその杖を下から叩き、真っ二つに折った。
「!!!」
と、その時だ!
何者かの気配を感じ、エミーは腕を掲げて頭部を守り......その直後、腕に重い衝撃を感じた。
その一撃を放ったのは......杖だ。
一撃目でエミーがへし折り吹き飛ばされた上半分が、修復された状態で自律して浮き上がり、エミーに殴りかかって来たのだ!
ということは......二回目に折った杖の上半分も、同じく自律行動できると見て差し支えあるまい!
そう確信し、ちらりと周囲を見回せば......やはりもう一本、高速縦回転しながらエミーに向かって飛んでくる!
「らあッ!!」
エミーは既に腕で受け止めた一本目の杖を勢いよく腕を振ることで遠くに吹き飛ばしてから、高速縦回転する二本目の杖の動きを驚異的な動体視力で完全に見切り、タイミングよくそれを掴み取った!
すると、ミシミシバキバキと音を立てながら杖から枝や根が伸び......エミーに絡みつこうとするではないか!
その目的は、エミーの体の拘束......あるいは魔力の吸収?
どちらにせよ、多分体に良くないものだ!
「らああッ!!!」
エミーは杖に絡みつかれる前に、それをココリリオンに向かって思いきり投げつけた!
<<<ハッ!!>>>
その杖が直撃するその直前に、両手に持った杖の下半分を地面に突き刺してから、ココリリオンは無数の落ち葉へと変じてその場から姿を消した。
そして、次の瞬間には......エミーの背後に出現!
エミーの体を拘束しようと両腕を広げ、勢いよくエミーに抱き着......。
「らあああああッ!!!」
......こうとしたが、失敗!
瞬時に振り返ったエミーにみぞおちを殴り抜かれ、悲鳴をあげながら吹き飛んでいった。
「らッ......」
ココリリオンを追撃しようとエミーは足を一歩踏み出すも......高速縦回転しながら自律飛行する精霊王の杖が、それを阻む!
「らッ!!」
まずは一本、エミーは正面から飛んできた杖を弾き飛ばし。
「らあッ!!」
次いで二本目、背後から飛んできた杖も、同様に弾き飛ばした。
これで、邪魔な杖はなし!
ようやく追撃の一歩を踏み出そうとするエミーだが......その判断は、甘かった。
「らッ!?」
エミーの脳天目がけ、三本目の杖が襲いかかってきたのだ!
これはつまり......エミーが先ほど真っ二つに折った杖の......下半分!
辛うじてこの奇襲に対応し、弾き飛ばしたエミーだが......。
「らあッ!!」
今度は四本目の杖が、エミーの心臓目がけてまっすぐに突っこんで来た!
タ、タタ、と軽く後ろに跳ねながら移動し軌道から逃れようとするも、杖はエミーを追って来る。
追尾機能搭載型の杖!
「らああッ!!!」
すんでのところで、エミーはその杖を蹴り上げ、遠くへと吹き飛ばした!
蹴り上げ動作をそのまま利用して、くるりと縦に一回転したエミーに......今度は初めに吹き飛ばした一本目の杖が再度襲いかかった!
「ああああああッ!!!」
エミーは苛立ち、怒声をあげた!
この精霊王の杖、とても面倒臭い!
厭らしく絶妙な時間差をつけてエミーに攻撃をしかけ、彼女の足をその場に縫い付けている!
その上、妙な脆さがあるので、反撃にも気をつかうのだ!
下手を打ってまた折ってしまえば、きっと杖は増殖して、エミーはさらに激しい攻撃に見舞われることになる!
間違いなく、精霊王の杖は難敵と言って差し支えない相手だ!
多分、精霊王本体よりも強い!
「なめるなあああああーーーーーーッ!!!」
しかし、対処法がないわけではない!
エミーは、不用意に襲いかかって来た精霊王本体を適当に殴り飛ばすと、あるかもしれない交渉、そして格闘戦の邪魔になるという判断からそれまで格納していた【黒触手】を、一斉に展開する!
絶世の美貌を持つ少女の全身から、どす黒く悍ましい触手が飛び出し、ゆらめく!
「食らい尽くすッ!!!」
そしてその言葉に応じて......【黒触手】の先端が、一斉に割けた。
現れるは......エミーの才覚が練り上げた、外付けの捕食用器官!
硬質な牙をガチガチと鳴らす、【黒伸顎】だ!
「らああーーーッ!!」
エミーの【黒伸顎】はそして、水中を縦横無尽に泳ぐ鮫のように宙を切り、次々と精霊王の杖へと食らいついた!
バキンッ!!
バキバキッ!!
硬質な咀嚼音を鳴らしながら、精霊王の杖は瞬く間に食い散らかされ、魔力となってエミーの魂に注ぎこまれた!
<<<よ、よくもーーーーーーッ!!!>>>
その様を見たココリリオンは顔を真っ青にして、己の住処たる巨木へと走った!
そしてその幹に手を当てて......バキバキと音を鳴らしながら、新たな杖を作り始める!
枝が伸び、葉が生え、手ごろな太さの杖が数秒の内に形成されていく......!
その数は、一本、二本......数えきれない!?
「させるかッ!!」
当然エミーは、あの厄介な杖を量産させる気などさらさらない!
巨木に向かって駆けだしたエミーは、四方八方に伸びる【黒触手】を自らの右腕に巻きつけた。
すると形成されるは、巨大な腕!
【黒腕】の、アレンジだ!
「らあああああああああああーーーーーーッ!!!」
エミーは駆けながらも上半身を大きくひねり......自らの膂力に助走の勢いを乗せ、さらにはダメ押しとばかりに巨腕後方に展開したノズルから魔力のジェット噴射すら加え!
森の精霊王ココリリオンを......これ以上ない程の全力で......転移で逃げられない程の速度で、ぶん殴った!
<<<ウギョボーーーーーーッ!?>>>
エミーの全力の一撃を受け......驚くべきことに、精霊王の住処たる巨木は、折れなかった。
大きく揺れ、光り輝く葉を盛大にまき散らしただけだった。
しかしその頑強さこそが、森の精霊王ココリリオンの仇となった。
巨木とエミーの拳に挟まれる形となったココリリオンは、エミーの殴打の衝撃を、その一身で全て引き受けることになった。
具体的に被害状況を描写すると、ココリリオンが巨大な拳で殴られたのは、腹部から下半身にかけてであるが......その部位は、殴られた衝撃ですっかり消し飛んでしまった!
<<<グ、ギ、ギ......おのれ、おのれ......!!>>>
胸部から上だけが残ったココリリオンは、一旦どしゃりと地面に落ちて......しかし未だ消え去ることなく、怨嗟の声を漏らしながら、その状態でゆらりと浮かびあがった。




