645 思った以上に中精霊の頭も悪い
中精霊?
<ええ......小精霊が長い年月を生き、さらに魔力を蓄え大きく強く成長した姿......それが中精霊です>
......精霊は中精霊になると、ホイッスルの姿になるの?
<そうではありません。精霊はある程度の力を蓄えると、光の球から自身の好きな姿へと変貌を遂げます。あの中精霊は、たまたまホイッスルが好きだったのでしょう>
それって、どういう嗜好?
<私にも精霊の感性はわかりかねます。配信されてないので>
<<<ピッピピーーーーーーッ!?ニ、ニンゲンッ!?汚らわしいニンゲンが、どうしてここにいるピピーーーーーーッ!!!>>>
私とオマケ様がそんなやりとりをしていると中精霊が私の存在に気づき、けたたましく喚いた。
「散歩」
<<<ああッなんということピピーーーーーーッ!!!森の精霊王様から、『煩わしいから、愚かなニンゲン共を、森に入れるな』と厳命されていたのに、何たる体たらくピピーーーーーーッ!!!>>>
「そうなの?なら、今から森、出るね?」
<<<悔しいッ......悔しいピピーーーーーーッ!!!我らが麗しの王に、どう申し開きをして良いかわからないピピーーーーーーッ!!!>>>
「............」
この中精霊、あれだね。
小精霊たちより小難しい言葉を使うから、知能は高いのかもしれないけど。
全然話を聞いてくれないね。
<言ったでしょう?精霊は人間を見下しているんです。条件が整わなければ、会話しようという発想すら生まれないんですよ>
<<<笛の中精霊様ッ!>>>
<<<あのニンゲン、酷いんだー!邪悪なんだー!>>>
<<<皆、消えちゃった!あいつのせいで、消えちゃった!>>>
そんな『笛の中精霊』に、未だ形を持たぬ生き残り小精霊たちが集まり、口々に私の非道を訴える。
って、ちょっと待て!
『私のせいで、消えた』って、それは違うでしょ!
あれは自滅でしょ!?
<<<一斉に喋るなッ!!!黙れッ!!!ピピーーーーーーッ!!!>>>
しかしそんな小精霊たちが煩わしかったのか、笛の中精霊は彼らの訴えを聞き流し、怒った。
<<<もうこれ以上、喋れないようにしてやるッ......!!!【精霊音波】、ピピピピーーーーーーッ!!!>>>
そして、次の瞬間だ!
笛の中精霊は、これまでとは比べ物にならない程の大音量で、甲高い叫び声をあげた!
「うるさい」
私にとっては軽く耳を塞ぐだけで済んだそれは......しかしながら小精霊たちにとっては、そうではなかった。
<<<<<<<<<ウギョボーーーーーーッ!?>>>>>>>>>
小精霊たちの脆弱な体は、魔力を含んだ音波の圧に耐えきれず......皆、弾け飛んで、消えた......!
辺りには、静寂が戻る。
獣の声も、虫の声も聞こえない。
そんな静かな森を、淡く発光する足元の草花が、照らしている......。
酷ぇーーーーーーッ!?
笛の中精霊、酷ぇーーーーーーッ!?
<精霊の生死観や倫理観は、人間のそれとはかけ離れています。奴らは同胞であろうと、容易く手にかけるのです>
え、ええーーー?
あの笛の中精霊の価値観が、デフォルトなの?
絶対に精霊とは、仲良くできない自信があるわ!
そしてちょっとひいてる私のことなど気にせず、笛の中精霊は笑った。
<<<ピッピッピッ!!!断末魔こそ、その存在が奏でる最高の“警笛”!!!たまらないピピーーーーーーッ!!!>>>
やべーーーーーーッ!?
笛の中精霊、感性がやべーーーーーーッ!?
<あっ!だからホイッスルの姿をしているんですね?>
えっ、ホラーじゃん。
そんな背景、気づきたくなかったよ......。
<<<あッ、良いことを思いついたピピーーーーーーッ!!!>>>
と、ここで。
笛の精霊は、ようやく私に目を向けた。
この精霊、見た目は完全にホイッスルだけど、その前面につぶらで可愛らしい瞳がついているのだ。
<<<ニンゲンッ!!!今からピーが言うことを、ありがたく、良く聞くピピーーーーーーッ!!!>>>
こいつ、一人称が“ピー”なのか。
<“ミー”みたいなことですかね>
<<<今、我らが森の精霊王様は、目を覚まさない愛し子の看病に、大忙しピピーーーーーーッ!!!>>>
「ふーん?ところで精霊王?愛し子?誰?」
<<<だから我らが麗しの王は、仰ったピピッ!!!『煩わしいから、愚かなニンゲン共を、森に入れるな』とッピピーーーーーーッ!!!>>>
「............」
やっぱりこいつ、会話できないな。
<それが、精霊です>
だんだん、イライラしてきた。
<<<だから、お前みたいなニンゲンが既にここに侵入しているなんてばれたら、ピーは怒られちゃうピピッ!!!なんでお前、ここにいるピピーーーーーーッ!!!このゴミクズがッ!!!>>>
「あ?殺すぞ」
<<<だけどゴミクズと違ってピーは天才だから、良いことを思いついたピピーーーーーーッ!!!>>>
「誰がゴミクズだって?笛、聞いてる?殺すぞ」
<<<ピーがお前を排除すれば、きっとピーのこと、森の精霊王様は褒めてくれるピピーーーーーーッ!!!>>>
<『良いこと』っていうか、誰でも思いつきますよねそれ>
<<<だから、ゴミクズッ!!!お前はゴミクズらしく......無様に死ねピピーーーーーーッ!!!>>>
「お前が死ね」
そんなことを、言いながら。
笛の中精霊はふわりと高度をあげ......全身にまとう白い光を、点滅し始めた!
力を、溜めているんだ!
<<<ピーの超必殺技......【精霊音波】を、食らうと良いピピーーーーーーッ......!!!>>>
<さっき、使っていた技ですね>
私は指をつっこみ、耳を塞いだ。
<<<ピピピピーーーーーーッ!!!>>>
次の瞬間!
笛の中精霊から、魔力を含んだ強力な音波が放たれた!
それをくらって、私は......!
特に、何ともなかった。
だって、耳を塞いでいるから!
<<<おいッ!!!姑息で卑怯なニンゲンッ!!!耳を塞ぐなんて、ずるいピピッ!!!これだから手のある生物は、嫌いピピーーーーーーッ!!!>>>
空中で笛の中精霊が、多分そんな感じのことを喚いているけど、ぼんやりとしか聞こえない。
だって、耳を塞いでいるから。
とりあえず、私は肩から一本、【黒触手】を展開して、それを伸ばし。
......その触手でもって思いきり、笛の中精霊を地面に叩き落とした。
<<<ピピピーーーーーーッ!?>>>
笛の中精霊は、情けない音を鳴らしながら、地面にめりこんだ。
その衝撃で発光していた草花が死にたえ、笛の中精霊の落下地点に暗闇が生まれる。
「............」
私は無言のまま、地面から逃れようともがく笛の中精霊に近づいて、それを勢いよく踏みつけた。
パキンッ。
そんな軽い音を鳴らしながら、笛の中精霊は砕けた。




