644 思った以上に小精霊の頭が悪い
<<<キャッキャッ!>>>
<<<アハハッ!>>>
楽し気に笑いながら拳大の色とりどりの光の球......オマケ様いわく『小精霊』たちは、森の奥からこちらに向かって......スイスイと飛んできた。
<<<ボクが一番早いんだぞッ!ビューン!>>>
<<<そんなことないもんッ!>>>
<<<オレの方が、速いぞーッ!>>>
どうやら小精霊たちは、競争をして遊んでいるらしい。
木々の間をすり抜け飛びながら、楽しそうに笑っている!
<小精霊とは......本能のまま森の木々から魔力を啜り大きくなった微精霊が、知能を得た存在です。まあ、知能と言ってもご覧の通り、それ程高くありません。端的に言って、アホの集まりです>
いや、オマケ様、アホって......そう悪く言うことないでしょ?
何その、言葉の端から滲みだす嫌悪感は?
確かに、幼児くらいの頭の良さっぽいけど。
でもさ、なんだか無邪気で......見てると癒されるわー......。
<<<あッ、ニンゲンだよーッ?>>>
と、ここで。
無邪気に飛び遊ぶ小精霊の内の一体が、彼らを観察する私の存在に気づいた。
<<<ニンゲンッ!?>>>
<<<ニンゲンって、何?>>>
<<<アレだよ、あそこの、手足が四本ある、あの黒と白の色した生き物!>>>
<<<『ワン』って、鳴くんだよねー?>>>
<<<それは、猫だよー>>>
途端に小精霊たちは私に群がり、周囲を旋回し始めた!
見慣れない人間に、興味津々、といった様子だ。
まったく、可愛らしいじゃないか......。
思えば私のこれまでの人生において、最初からここまで友好的に接してもらったことは、無くは無いけど少ない。
大抵は蔑まれるか、最近だと怯えられるか、だもんね。
だけど、この子たちは、違う!
多少は漏れ出ているはずの私の【威圧】を気にも留めず!
こうして......近寄って来てくれたんだ!
<アホだから警戒心がないんですよね>
だからオマケ様ー!
なんでそんなに辛辣なのさー!
とにかく、小さくて、ピュアで、可愛らしい生き物に囲まれて、私は......私は心が暖かくなるのを、感じた!
暖かくて、ふんわり優しい、そんな気持ち。
これが......愛、なの......?
「こ、こんばんは......小精霊、さん......」
だから!
私はちょっと嬉しくなって、照れながら挨拶をした!
そうしたら......!
<<<うっせー!黙れや、ウスギタナイ、カトーセーブツがよー!>>>
なんか、凄い......罵声を、浴びせられた......!?
<<<キャハハッ!キモイんだよー!>>>
<<<コイツ、なんか臭くなーい?>>>
<<<肉の檻に囚われたゴミめー>>>
<<<早く、『ワン』って鳴けよー>>>
<<<それは、猫だってばー>>>
小精霊たちは相変わらず私の周りを旋回しながら......罵詈雑言の嵐を投げつけてくる!
え、え、え......?
<精霊はアホのくせに、物理的な肉体を持ち寿命に縛られる人間のことを、基本的に見下しています。一部の変わり者を除けば、根本的に人間とは仲良くできないんですよ。これが、『精霊使い』が少ない理由です>
ため息をつきながら、オマケ様は精霊についてのうんちくを語る。
その間も、小精霊たちの聞くに堪えない悪口は続いている。
さっき感じた心の暖かさは一瞬で消え失せ、私は......私は心が冷たくなるのを、感じた!
冷たくて、どろどろ苦しい、そんな気持ち。
これが......憎しみ、なの......?
あ、いつもの心理状態ってことですね。
エミーちゃん、通常運転に戻りました。
<<<それ行くぞ、ニンゲンッ!死ねーッ!>>>
と、ここでだ。
私の周囲を旋回していたゴミみたいな精神性の光の球の内の一体が、突然私の右腕に、まとわりついた!
これは!?
<魔力を吸っているんですよ、エミー!精霊は、普段は周囲の木々の魔力を吸って生きていますが、こうして人間も襲うのです!>
え、ええーーー!?
危険生物じゃん!!
<大魔導だって、そう言っていたでしょう!?>
え、でも......。
全然、吸われている感じしないよ?
私は右腕を持ちあげ、そこにとりついた小精霊の様子を観察する。
その体は、みるみる大きくなっていくけど......。
私の魔力は、全然減った感じがしない。
<それは、エミーの持つ魔力が膨大だからです。常人であれば、小精霊にとりつかれると、魔力を吸いつくされ干からびて死にます>
こわッ......危険生物じゃん!!
<だから、危険生物なんですよ!>
そうこう話している内にも、私の右腕にとりついた小精霊は、風船のように膨らんでいく!
それと共に、緑色だったこの小精霊の色は、どんどんどす黒く変じていき、そして......!
<<<ウギョボーーーーーーッ!?>>>
実に奇妙な叫び声をあげて、弾け飛んで、消えた。
小精霊が消えた空中には、私が噴き出すのと同じどす黒い靄が、漂っている......。
え、何これ?
何が起きたの?
<どうやら吸い始めたのは良いものの、膨大なエミーの魔力が自身の限界以上に流れ込むのを止められず、魔力を吸い過ぎて弾け飛んだのでしょう。アホですね>
自滅したの!?
アホすぎない!?
<<<うわッ!?よくも、トモダチをー!?>>>
<<<ニンゲンごときが、なんてことをー!>>>
<<<許さないぞー!>>>
<<<ボクたちも、突撃だー!>>>
<<<死ねー!>>>
その様を見ていた周囲の小精霊たちは、怒りを感じたらしい。
口々に喚きながら、一斉に私の全身にとりつき、魔力を吸い始めた!
そして......!!
<<<<<<<<<ウギョボーーーーーーッ!?>>>>>>>>>
やはり奇妙な叫び声をあげながら弾け飛び、消えた......!!
アホの集団自滅である......!!
<<<なんてことだ、みんなー!>>>
<<<邪悪!こいつは、邪悪なニンゲンだ!>>>
残った小精霊たちはさすがにこの様子を見て怯み、そんなことを喚いている。
勝手に自滅しておいて、邪悪認定してくるの酷すぎない?
<<<でも、ボクならもしかしたら、いけるかも......ウギョボーーーーーーッ!?>>>
そしてこの状況下でもなお、自滅する小精霊がいるのがアホすぎる!
やめろ!
自分の命を使って見当違いの試行錯誤をするのを、やめろ......!
<<<ピピピピッピーーーーーーッ!!!>>>
「!?」
と、その時だ!
小精霊たちがやって来た森の奥から......突然そんな、甲高くけたたましい音が聞こえたのは!
<<<コラッ、小精霊たちーーーッ!!!森の精霊王様のご命令を無視して、どうして道草を食っているのですかーーーッ!!!ピピーーーーーーッ!!!>>>
そしてヒステリックにそんなことを喚きながら、こちらに新たな何かが飛んできたのだ!
その存在は、小精霊たちと比べると、明らかに大きかった。
その見た目を、具体的に描写するならば。
......白く光る、子どもの頭くらいの大きさの、“ホイッスル”!
<一応、気をつけてください、エミー。あれは、『中精霊』です!>
オマケ様はそいつを見て、警戒感も露わに、そうささやいた!




