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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
28 精霊を食べよう編!
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643 精霊の森ナイトツアー

 サクッ、サクッ、サクッ......。


 森の地面で光る草を踏みしめると、そんな軽快な音が鳴る。

 そして踏みつけられた草は折れ、光るのをやめる。


 少し歩いてから振り返ると、私が歩いたあとだけが暗くなり、わかりやすく道となっている。

 おもしろい!


<これなら、道に迷う心配もありませんね!>


 私とオマケ様はなんだか楽しい気分になりながら、草を踏みしめ小川を跳び越え......精霊の森を奥に向かって、進んでいた。


 すると突然眼前が開け、現れたのは大きな泉だ。

 満点の星空を映しながら、静かな水面がきらきら輝いている。


<迂回しますか>


 いや......ちょっとまって。


「うー......らああッ!!」


 私は少しだけ助走をつけてから一声吠えて、泉に向かって跳躍した!

 これぞ、私が小さい頃、師匠から教わった技術......【飛蝗】だ!

 ぐんぐんと、私の体が高く高く、舞い上がる。

 眼窩に広がる、美しく光り輝く精霊の森は、見事の一言。


<キレイですねー......>


 オマケ様とその光景をうっとりと眺めながら、重力に従って地面へと落ちる。


「らっ......」


 危なげなく着地したその場所は、ちょうど泉の反対側。

 わざわざ迂回しなくても、跳び越えた方が早い。

 なら、誰だってそうするよね。


<あなた以外、できる人は少ないですけどね。一跳びで、50メートルは移動しましたけど>


 師匠の教育の賜物だね。

 ありがたいことだね。




◇ ◇ ◇




<見てください、エミー!あれは、コハクカエデです!>


 さて、泉を跳び越えてからしばらく歩いた後、オマケ様がそう言って私に注意を向けさせたのは、樹皮が黄色い宝石のように輝いている樹木だ。

 コハクカエデというからには、楓の仲間なんだろう。

 ギザギザしたあの葉っぱの形状には、なんだか見覚えがあるぞ!


<コハクカエデの樹液は非常に糖度が高く、その味はまるで極上のジュースである......と、言われています>


 ヘー、そう言われると試さずにはいられない!

 大きなコハクカエデの幹に手刀を振るい、小さな切りこみを入れると......おっと、凄い勢いで、樹液が飛び出して来た!

 慌ててその傷口に口を当てる。


 ......甘い!

 だけど、サラリとしていて飲みやすく......おいしい!

 しかも......炭酸入りだと!?

 ゴクゴク飲める!


 ゴクゴク、ゴクゴク、ゴクゴク、ゴクゴク!


 私は夢中になって、コハクカエデの樹液を飲み続けた!

 時間にして、1分程!

 気づけばいつの間にかコハクカエデの樹皮の黄色い輝きは黒ずみ、葉っぱは全て落ちて丸裸になっていた。


 え......枯れた......?


<ちなみに樹液の魔力濃度が高すぎるため、そのまま飲むと常人はしばらく後に酩酊状態になってから、死にます>


「ゲホッ!?」


 思わずむせた。

 飲み始める前に言ってよ!?


<エミーなら大丈夫です!>


 いや、そうかもしれないけどさぁ......。


<なおコハクカエデに限らず、精霊の森の樹木はどれも魔力を多量に含んでいます。夜に光るのは、その魔力の効果という訳ですね。天然の、魔灯なのです!>


 はー、なるほど。

 私はおもむろに【黒触手】を数本肩から伸ばすと、それらを周囲の木々の幹に突き刺した。

 そしてチューチュー、魔力を吸い取る。

 大監獄で先生に教えてもらった、魔力吸収だ。


<大量の魔力を保有する土地、そしてそれを吸収する植物、さらにはその植物から魔力を摂取する精霊......それがこの森で形成されてきた、特異な生態系、というわけですね>


 オマケ様が森についての解説を続けてくれているけど、私はそれを話半分で聞いていた。

 魔力吸収は、難しいんだ。

 勢いよく吸ってしまうと、文字通り血反吐を吐くことになる。

 だんだん上手になってきているし、吸収スピードも上がりつつあるけど......まだまだ魔力吸収をするには、集中が必要だ。

 片手間にできることでは、ない。


 宝石のように輝いていた木々が見る見るうちに干からびねじくれ、黒ずんでいく......。

 私に魔力を、吸われているからだ。

 だけどその代わり、私の魂は少し、満たされる。


<おいしいですか?エミー>


 オマケ様は、なんだか嬉しそう。


 おいしいかと言われると、食べているわけではないから、おいしくはない。

 味がしないのは、善し悪しだよね。

 この方法だと、まずいもの食べなくても、魔力は吸収できる。

 だけどおいしいものを相手にしても、味がしない......。


<いえ、この場合の『おいしい』は、比喩的な表現と言いますか>


 うん、言いたいことはわかる。

 味はしなくても、魔力吸収には快楽が伴うからね。

 つまり、『満足しましたか』とか、『気持ち良いですか』とか、そういう意味だよね。


 でもその快楽に、溺れてしまえば......その後に肉体的な苦痛やら、暴走状態が待っている。

 自制の心が、大事なんだ。


 魔力吸収って、難しいよね。


 そんなことをつらつら考えながら、私は無意識の内に、次々精霊の森の木々や草花から魔力を吸っていた。

 気づけば私の周囲の木々は枯れ果て、真っ暗闇だ。




「ふーーー......」




 私は大きく、息を吐いた。

 そしてお腹をなでる。


 ......まだまだ、満たされはしない。


<もっと吸いますか?>


 いや、やめとく。

 だって、この森の木々は、精霊たちのご飯なんでしょ?


<あ、聞いてましたか>


 積極的に、現地の住民と揉め事を起こしたいわけではないからね。

 このくらいで、我慢しておこうかと。


<精霊の森は、広大です。もっともっと木々が枯れても、精霊には影響ありませんよ>


 だとしてもさ。




 わたしはここでオマケ様との会話を打ち切って、改めて周囲を見回した。

 この世の物とは思えない程美しく、宝石のようにきらめいていた精霊の森の一角が。

 今ではすっかり枯れ果てて、真っ暗闇の死の世界だ。


 私が、ここに来たせいで。




「はーーー......」




 なんかもう、悲しくなってくるよね。


<生きることは、奪うことです。誰しもが>




「............戻るかな」




 さっきまで感じていた探検気分は、すっかり萎えてしまっていた。

 やる気のなくなった私は踵を返し、元来た道を戻り始めた。


 焚火したあの崖際で、今晩はもう寝てしまおう。

 そんなことを考えながら。


 だけど、その時だ。




<<<キャハハッ!>>>

<<<ビューン!ビューン!>>>

<<<待て待てーーーッ!>>>




 そんな。


 無邪気に遊ぶ子どもの声のような音が、私の背中の方から聞こえて来たんだ。


 何かと思って、森の奥を振り向いた私が見たもの。


 それは。




 光る木々の間をすり抜けてこちらへ向かって飛んでくる、色とりどりの光の球だった。




<......小精霊ですね>


 それを見たオマケ様が、ポツリとそう、つぶやいた。

(令和6年9月27日追記)

 序盤にエミーが「らああ」と吠える描写を追加しました。

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