63 ポイズントポポロッククイーン
ズシン!!
殺したトポポロックたちの死骸を貪り、魔力回復を行っている私の前に地響きを上げながら現れたのは、見上げるほどの、あまりにも巨大なトポポロックだった。
雨に濡れて輝く深緑色の肌には紫のまだら模様が浮かび、背中に生えるトゲは一本一本がまるで剣のように太く、大きい。
大地を踏みしめる2本の脚は筋骨隆々でたくましい。
トカゲに似た顔からのぞくキバも、前腕に伸びるツメも、どれもが鋭く致命的なダメージを連想させる。
<あのまだら模様!あれはポイズントポポロックの特徴です!しかも、この巨体......間違いなくクイーン!長い年数を経て経験を積み重ねた、ポイズントポポロッククイーンです!>
頭に響くオマケ様の解説に焦りの色がにじむ。
私は食べていた死骸から背骨の一部を引きちぎり、【凝固】をかけて強化、それを巨大なクイーンの三つ目に向け、超高速で投げつける。
しかし。
クイーンは素早く頭を動かし、目に向けて飛来する私の骨礫を額......第三の目の少し上の部分で受けた。
カッ!という乾いた音を響かせ、砕け散る骨礫。
クイーンは煩わしそうに、憎々し気に、殺気をたぎらせ私を睨みつける。
......効いていない。
<相手の強靭な肉体に【身体強化】が加わり、エミーの攻撃を防ぎ切ったと思われます......!>
え、やばいじゃん。
じゃあ【無限礫】効かないじゃん。
「ミギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
体がビリビリと震えるほどの大絶叫を発したクイーンは、続いて私に向けて突進を始めた。
ダンプカーが突っ込んでくる。そんな威圧感がある。
<ま、まだ距離があります!避けましょう!>
それはダメ。
私が避けたら、誰がお屋敷を守る?
ちらりと後ろを見る。
お屋敷にはまだ結界ははられていない。
復旧にはまだまだ時間がかかるらしい。
男爵様の増援も、期待薄かな、こりゃ。
突進してくるクイーンに視線を戻す。
そして......私もクイーンに向け、走り出す!
<ちょ、ちょ、ちょ、エミー!一体何を......>
何を?
決まっているでしょ、オマケ様!
避けられない、なら、迎えうつ!!
礫を投げる。私にできること、それだけじゃないから!
クイーンと私の間合いはあっという間に近づく。
クイーンは勢いのままに、私をはね飛ばしてしまう構えだ。
対する私は。
貪り食ったトポポロックたちのおかげで多少は回復した魔力を体中に漲らせ、常時発動している【身体強化】をさらに強める。
そして握った右こぶし。
そこに重点的に魔力を込めに、込めに、込めて。
「......はぁッ!!」
クイーンとの距離が数メートルにまで近づいたその時、私は急加速。
一瞬でクイーンの胸元に潜り込み、そこを......魔力を込めた一撃、【魔撃】で思い切り殴りつける!!
ドゴオッ!!
凄まじい音が鳴り響き、のけぞりながらクイーンが宙を舞う。
小さな女児が、小屋ほどある巨大な魔物を殴り飛ばす。
質量差どこ吹く風のファンタジー光景だ。
<ひ、ひぇぇ......エミー、あなた相変わらず、どういう度胸しているんですかぁ......!>
オマケ様がほめてくれるけど、それに返事をする余裕はない。
ズドン!!と轟音を立てながら地面に叩きつけられたクイーンは、首と両腕を器用に使ってすぐに立ち上がった。
骨礫とは違い、確かにダメージは与えられた、とは思う。
だけどあの程度では、まだまだ致命傷には程遠いらしい。
「ミギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
そしてクイーンは絶叫を放つ。
その叫びには......【威圧】も込められているようだ。
師匠の【威圧】に慣れていなければ、それだけで足がすくみ動けなくなるほどのプレッシャー。
同胞たちを屠り続けた私に対する怒り、憎しみ。
全ての憤りを【威圧】に込め、クイーンは私を睨みつける。
......ふざけるな。
お前の事情なぞ、知ったことか。
私は、私の守りたいものを守る!
殺したいものは、殺す!!
「............」
私は怯むことなく、無言で【威圧】を放ち返す。
お前の体を斬り飛ばし、叩き潰し、食らい殺してくれる。
純然たる殺意をぶつける。
当然、クイーンも怯まない。怯むわけがない。
他のトポポロックたちはもはや森に逃げ帰り、この草原にいるのは私とクイーン、ただふたり。
雨はまだ、しとしとと降り続いている。
互いの【威圧】をぶつけあう睨み合いが続く中、先に動いたのは、私だ。
【飛蝗】の技術を応用した走法を使い、一瞬でクイーンとの間合いをつめる。
足元がぬかるみいつもの速さは出せないが、小回りのきかない巨体を持つクイーン相手には、十分だ。
太くたくましいクイーンの脚の周囲を動き続けながら、【蟷螂】でそれを斬りつけ続ける。
「ミギャッ!ミギャーーーッ!!」
怒ったクイーンはその巨大な足を持ち上げ、私を踏みつぶそうと地面に叩きつける。
遠目には、地団駄を踏んでいるようにも見えるかもしれない。
当然私はすぐさま回避。距離をとる。
私が斬りつけたクイーンの両足には、うっすらと血がにじんでいるようだが......。
<あまり、効いていませんね。【魔撃】で攻撃を続けるほうが、得策のようです>
効果は薄い。どんだけ丈夫なんだよクイーン。
今の私の【蟷螂】はその辺の岩くらいならスパスパ斬れるんだよ?
これじゃ、【魔力斬糸】なんかも通用しなさそうだね。
「ミギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「ッ!!」
次の瞬間、クイーンが跳んだ!
そして私の【蟷螂】へのお返しとばかり、クイーンはその勢いのまま鋭くとがったツメを思い切り振り下ろす!
風切り音のあと響く、地面を抉る爆発音。
咄嗟に横跳びし回避はできたものの、クイーンが地面に爪を叩きつけたことで発生した衝撃波によって吹き飛ばされる。
ごろごろと何度か転がり、態勢を立て直し起き上がると、先ほど私が立っていた地面は大きくへこみ、クレーターができていた。
<な、なんという威力ですか!さすがにこれはエミーの【身体強化】では防ぎきれません!>
「ミギャッ!ミギャッ!ミギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
当然クイーンの攻撃がたったの一振りで終わるはずもなく、二度、三度と振り下ろされるそのツメが周囲に穴ぼこを増産していく。
その全てが致命的な威力を持つ、必殺のツメだ。
あれに当たったら多分、体を紙きれのように引き裂かれて、一瞬で死ぬ。
......当たれば、だけどね!
私は再び瞬時にクイーンとの間合いをつめ、今度はその背中によじ登る。
「ミ、ミギャッ!?」
驚き困惑する、クイーン。
背中には自慢のツメも、届かないでしょ?
「ミギャッ!ミギャッ!」
私を振り落とそうと体をゆするクイーンだけど、無駄無駄!
なにせ私の両足は、【紙魚】を使ってお前の背中に張り付いているからね!
私はそのまま両こぶしに魔力を込め、クイーンの背中を何度も何度も殴る!
【魔撃】!【魔撃】!【魔撃】!【魔撃】!【魔撃】!
岩をも砕くはずの拳が、何度も何度もクイーンの背中を打つ。
「ミッ!ギャッ!ギャッ......!!」
さすがに【魔撃】の連打は堪えきれないらしく、苦悶するようなうめき声を漏らすクイーン。
よし、いける。
このままいけば、倒せる!
......と、思ったんだけど。
「カカカッ!」
突然クイーンの喉の奥から、聞きなれない音が響く。
そしてクイーンはその長い首を動かし、背中にいる私を赤い三つの瞳で睨みつけ......。
<!!まずいです!急いで背中から離れてください!!>
オマケ様の忠告を受け、私が跳びはね退避したその直後。
「ブシュアァァッ!!」
クイーンの口の中から、何やら紫色の霧のようなものが放たれた。
それはしばらく空気中を漂ったのち、雨に溶け込んで地面へと落ちていった。
......あの体に悪そうな紫色って、もしかしなくても......。
<毒です。あれは、【ポイズンブレス】!ポイズントポポロックの代名詞とも言える攻撃法です!あれを吸ったら、エミーと言えども危ないですよ!>
「ミギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
ブレスを避けられ、苛立ちをあらわに吠える、ポイズントポポロッククイーン。
私の【魔撃】を何度もくらい、相当量のダメージは蓄積しているはずなんだけど、まだまだ戦意は衰えない。殺る気満々だ。
一方、私はせっかく少しは回復した魔力もどんどん減っており、もう少しでスタミナ切れする。このままじゃ、じり貧。
......この状況、ちょっとまずいかも。




