616 【冒険者ミトラン】止めろ、黄金の四角錐
「へ、並走だぜ、レディ!お疲れのところ悪いが、あのデカブツと並走してくれッ!」
魔物の大群を追い立てるように移動する、黄金の四角錐!
ボクたちが探し求めた、伝説!
当然ここで見逃すわけにはいかず、ハリシュアラップさんは慌てて手綱を引いてレディを動かし、黄金の四角錐と並走を始めた。
「なんと、言うことだ......!」
かなりの速度で移動する黄金の四角錐。
その様子をまじまじと観察しながら、レーセイダさんは呆然とつぶやいた。
......うん。
思わずそう言っちゃう気持ちは、わかる。
レーセイダさんは黄金の四角錐のことを、超古代魔導文明の遺跡だと思っていたんだ。
技術の発展していた超古代魔導文明ならば、現代でも稼働し続ける“動く遺跡”を、作ることもできたのだろうって考えていたから。
でも、現実はどうかと、言えば。
黄金の四角錐が、何故動けるのかと言えば。
黄金の四角錐には......脚が、ついていたんだ。
ゴツゴツ、ザラザラとした、錆びた鉄のような色をした甲殻に覆われた脚が2対4本。
四角錐下部前方から飛び出したそれが忙しなく動いて、黄金の四角錐の山のような巨体を動かしている。
ちなみに脚の飛び出しているあたりからは巨大で凶悪な形状のハサミが2本、飛び出していて......。
黄金の四角錐はそのハサミを使って時折、自身の前を走る魔物を叩き潰したり、ちょん切ったりして殺している。
その行動の意図は不明だ。
さらには、ハサミとハサミの間からは、つぶらな瞳と長い触覚が飛び出していて......つまりは!
「黄金の四角錐は......超巨大な、ヤドカリだったのか!?」
レーセイダさんが叫んだ通り、つまりはそういうことだったんだよね!
超古代魔導文明の遺跡でも何でもなく......黄金の四角錐の正体はヤドカリ!
そりゃ、動く訳だよね!
脚がついてるんだもん!
「さぁーて、呆然としているところ悪いが、レーセイダの兄ちゃん!作戦会議の時間だ!」
と、ここで。
レディの背中の上から、ハリシュアラップさんがレーセイダさんに声をかけた。
「オレたちは、スタンピードを切り抜け......ちょいと予想とは違うが、目的としていた黄金の四角錐に到達することができた......で?これから、どうする?」
「ど、どうするって?決まってるじゃないのさ!」
ボクは思わず、口を挟んだ。
「『黄金の四角錐は、魔物でした。超古代魔導文明の遺産では、ありませんでした』......それを王都の機関に報告して、おしまいでしょ?それで、今回の旅はおしまい!それ以上に、何があるってのさ?」
「ハッハーーーッ!!そうだな嬢ちゃん!しかしそれは、“王都がこのまま残っていれば”の話だがな!」
「......え?」
え、え?
何その、不吉な物言い?
まるでこのままだと、王都が消滅してしまうような言い方だけど......まさか!?
「もしかして......このスタンピード、大砂漠東の王都まで到達するの!?」
「......その可能性は、高い」
真っ青な顔で頷くレーセイダさんを見て、ボクは頭を抱えた!
「どど、どうしよう!?」
ボクの頭の中に、王都で過ごした数週間の思い出が過る!
明るくたくましい宿屋のおばちゃん、一見胡散臭いけど義理堅い市場のおじちゃんたち、そして仲良くなった孤児院の皆......。
彼ら、彼女らが魔物の群れに蹂躙されるなんてこと、絶対にあってはならない!
「ねえ、レーセイダさん!どうすれば良いの!?どうすれば、このスタンピードを止められるの!?」
ボクはレーセイダさんの腕を掴んで、必死になって問いかけたよ!
「............」
レーセイダさんは帽子のツバをぐいと目深に引き下げ、考えこんだ。
流浪の魔法使いネネザネも、顎に手をあて何やら思案している。
ソリの上は沈黙に満ちて、風の音だけがびゅうびゅうとうるさい。
「......ハッハーーーッ!!」
......そしてその沈黙を破ったのは、ハリシュアラップさんの豪快な笑い声だった!
「どうすれば良いかって!?冷静になれよ、嬢ちゃん!答えは簡単......“スタンピードの元凶を排除する”!これで魔物の群れは、すぐに解散してくれるだろうよ!」
「元凶......つまり!」
ボクははっとして、レディの引くソリと並走する黄金の四角錐に目をやった!
つまり、あの超巨大ヤドカリを倒せば......皆を助けることが、できるんだ!
ボクは目を輝かせた!
「だが、しかし!」
でもここで、厳しい顔でレーセイダさんが口を挟む。
「......あれを倒すとなると......ミトラン君、最大戦力である君にはまたしても、大きな負担をかけることになる。君はスタンピードを切り抜けるために、相当量の魔力を消費しているはずだ。そうだろう?」
「う......確かに」
ボクはさっき、上級魔法の【ストームジャベリン】を撃ちまくった。
いかにチートな魔力量を誇るボクでも、さすがに疲労はたまっている。
【ハイエクスプロージョン】みたいな攻撃力の高い魔法は、もう使えないよ!
度重なる魔物の襲撃を跳ね返すのに、体力も大分使っている。
コンディションは、あまり良くない。
......でも!
「でもだからと言って、何もしないままではいられないよっ!ボクは......ボクは、ボクができること、やりたい!皆を、守るんだ!」
それが、チートをもらった者の......転生者の責務だって!
ボクの心の中で、直感が......【超ひらめき力】が、強くそう主張している気がするんだ!
「............そうか!」
レーセイダさんは、闘志の燃えるボクの瞳を見て何故か顔を真っ赤にして......帽子を少しだけ深くかぶり直し、力強く頷いた!
「あ、でも......」
だけどボクはここで、少しだけ冷静になって、うなだれた。
「今のボクには、あのヤドカリをどうにかするだけの、力がないよ......」
気持ちばっかり強くたって、魔力も体力も、大分消耗しているんだ。
今のボクには、あの黄金の四角錐は、倒せない。
だって見てよ、あの分厚い甲殻の鎧!
ボクの剣じゃ......多分歯が立たないよ!
レーセイダさんは、そう言ってしょんぼりするボクの頭を......優しくなでた。
そして......力強く、言った!
「ミトラン君......大丈夫だ。君には私が......仲間がいるだろう!」
その言葉に、ボクははっとして......顔をあげた!
そしてレーセイダさんのことを、じっと見つめた。
「君一人にばかり、無理はさせないさ。私も戦う!」
レーセイダさんは照れくさいのか、顔を赤く染めながら......力強く、そう宣言した!
「おっと、もちろんオレたちも協力するぜぇッ!一緒になってやろうじゃねぇか、スタンピードを食い止める、英雄様によぉッ!!」
ハリシュアラップさんはレディの上からチラリとこちらを振り返り、親指を立てながらそう言って豪快に笑った!
「キュルルッピーーーッ!!」
レディも、やる気満々だ!
あと流浪の魔法使いネネザネも、顎に手をあて何やら思案しているが......その口元には、小さく笑みが浮かんでいる!
「皆......!」
そんな皆の様子が嬉しくて、嬉しくて......ボクが目を潤ませていると、レーセイダさんはにっこりと微笑んでから、ボクの頭をもう一度なでた。
そして、皆のことをぐるりと見回して。
「さあ......力をあわせるんだ!黄金の四角錐......止めてみせようじゃないか!」
そう言って、拳を力強く振りあげた!
「「おおーーーっ!!!」」
もちろんボクたちも、一斉に拳を高く振りあげた!
さあ......戦いの始まりだよ!




