611 狂人集団、暁の三角錐
ミトランたちが、オアシスの畔で焚火を囲んでいた......それとほぼ、同時刻。
ラサナスキロス大砂漠のどこかにある、岩場に自然発生した洞窟を掘り進め作られた、広い地下空間。
そこでは。
「やはり時代は、三角錐」
「「「「「やはり時代は、三角錐ッ!!!」」」」」
「やはり時代は、三角錐」
「「「「「やはり時代は、三角錐ッ!!!」」」」」
三角錐を頭に被った人々が、揺らめく松明に照らされ、怪しげな緑色のお香の煙にまかれながら......彼らにとっての聖なる言葉を、声を揃えて熱心に唱えていた。
彼らは聖なる言葉を唱える度に、自らの頭に被った三角錐の側辺を、下から上へとつるりと撫でる。
そうすることで彼らの魂は純粋なるあり方......即ち三角錐の形へと矯正される。
そして、来世では、三角錐に、生まれ変わることができる。
彼らはそう、信じているのだ。
さて、もうおわかりだろう。
そう......彼らこそ、ミトランたちに襲撃を行った狂人集団、“暁の三角錐”!
彼らはこの場で毎夜毎夜、このような常人には理解しがたい儀式を、執り行っているのだ......!
「やはり時代は、三角錐......む」
と、ここで。
檀上に立ち、儀式を進行していた大柄な三角錐......他の三角錐とは違い、ふんだんに金糸の刺繍をあしらった純白のローブを身にまとったこの集団の指導者、導師テーメンは、会場の入り口に三角錐を被っていない人間が現れたことに気づいた。
全身に布を巻きつけ、顔を隠したその男は......ミトランたちを襲った巨大ムカデを操っていた、御者である。
「各自、“魂磨き”を継続せよ」
「「「「「スイーーーッ!!ホッホホーーーッ!!」」」」」
暁の三角錐構成員たちにそう指示をすると、テーメンは壇上から降り、御者へと歩み寄った。
そして無言のまま御者の肩を叩き、移動を促す。
連れだって岩盤がむき出しの廊下を歩き、たどり着いたのは導師室。
つまり、テーメンの部屋だ。
「襲撃は、失敗したそうだな」
二人で部屋に入りがちゃりと戸を閉めると、テーメンは苛立つ声で、開口一番そう言った。
「......相手が、良い運び屋だった」
対する御者は、テーメンの苛立ちなどどこ吹く風......全く気にする様子もなく壁によりかかり、ポツリとつぶやいた。
その態度が癪にさわり、テーメンは怒鳴り声をあげる!
「貴様、わかっているのか!?考古学者だか何だか、知らないが......よそ者に出し抜かれるわけには、いかんのだぞ!」
「............」
テーメンは怒りのままに御者の胸倉を掴み、軽々と彼を片手で持ちあげた。
なんという怪力!
しかし御者は、怯える様子を見せない。
無抵抗に持ちあげられたまま......しかし布の奥に隠されたその瞳には、冷たく理性的な光が灯っている。
その様子が、さらにテーメンの怒りを燃えあがらせた!
「黄金の四角錐は、我々が必ず、確保するッ!!そして、その側辺と側面を削りに削り......三角錐にするッ!!我らが信仰を、神へと示すのだッ!!」
怒りにのまれたテーメンは自身の恐れを知らぬ計画を叫びながら、御者を壁へと、投げつけた!
「ぐ......げほっ」
背中を強く打たれた御者は、さすがに咳きこんだ。
しかし、冷静な態度は変わらない。
すぐに背筋を伸ばし。
「......積まれた金の分の、仕事はする。オレは、運び屋だからな......」
静かに、そう言った。
「ふん......明日は、ワシも出る」
テーメンは怒りを抑えるべく、己が被りし三角錐の側辺を何度もこすりながら、ドサリとソファーに腰かけた。
そして乱暴に手を振り。
「次の失敗は許されんぞ、バーリシュドップ」
御者の名前を呼びながら、彼に退室を促した。
「............」
御者は......バーリシュドップは。
テーメンからのぞんざいな扱いにも、何ら感情を示すことなく。
静かに、部屋の外へと、出て行った。




