609 【冒険者ミトラン】疾走、灼熱の大砂漠
ここから、第26章!
お楽しみいただければ、幸いです。
「あーん、もうっ!あいつら、しつこすぎだよーーーっ!」
灼熱のラサナスキロス大砂漠を数人乗りのソリに乗って疾走しながら、ボクはチラリと後ろを振り返って思わず悪態をついた!
「スイーーーッ!!ホッホホーーーッ!!」
「「「ホッホホーーーッ!!」」」
『あいつら』っていうのはつまり......変な雄たけびをあげながら巨大ムカデに乗ってボクらを追いかけてくる......三角錐ですっぽりと頭部を覆った、狂人集団“暁の三角錐”のことだ!
暁の三角錐の構成員たちは、赤茶けたローブを風になびかせながら巨大ムカデの上で立ちあがり、次々とボクらに向かって矢を射かけてくる!
時々バランスを崩してムカデから落っこちる間抜けな三角錐もいるけど......奴らはそんなこと、お構いなしだ。
とにかく狂ったように哄笑をあげながら、執拗にボクらに迫って来る!
正直に言って、凄く怖い!
「ハッハーーーッ!ミトラン嬢ちゃんとの仕事は、マジで退屈しねぇなーーーッ!」
しかし奴らの矢は、決してボクらには当たらない。
ボクたち“三人”の乗るソリをひく、高速で砂漠をひた走る超巨大ワラジムシ......サバクワラジの御者であるハリシュアラップさんの操ワラジ術が、凄まじく巧みであるからだ。
砂煙や砂山の影をうまく利用して姿を隠し、三角錐たちに正確な狙いをつけさせない!
ハリシュアラップさんは褐色の肌を持つ、筋肉質な大男だ。
丸いグラスのサングラスをして、その灰色の髪をコーンロウにしてきめている、一見するといかつくておっかない人なんだけど......その実人当たりは良くて、性格は陽気だ。
でも......!
「わ、わわわ、笑い事じゃないよぉーーーっ!」
「ハッハーーーッ!!」
ちょっと、度胸ありすぎませんかね!?
なんでこんな切羽詰まった状況で、大笑いできるの!?
ボクなんて、神様からいくつもチートをもらってなお、こういう修羅場は未だに滅茶苦茶怖いってのに!
それに!
「ってかボクは、『嬢ちゃん』じゃないって、何度も言って......!」
と、そうボクが抗議しようとした、その瞬間だった!
「スイーーーッ!!ホッホホーーーッ!!」
三角錐の放った矢が、ボクの髪をかすめたんだ!
「ひにゃーーーっ!?」
思わず情けない悲鳴をあげて、ボクはソリの上に這いつくばった!
「大丈夫かい、ミトラン君!」
そんなボクに慌てて近づき、ぎゅっと抱きしめてきたのはソリに乗る二人目のメンバー、レーセイダさんだ。
レーセイダさんはとある遺跡調査でボクと知りあった考古学者で、見た目はイケメンだけど、実は女性!
心配性なのか、最近こういうスキンシップが多くて......砂漠は暑いから、ちょっと困ってるんだ!
「スゥーーー......奴らとの距離が、徐々に近づいている......」
レーセイダさんは何故かボクの頭頂部に顔を押し当てて深く息を吸った後、背後を振り返り、そうつぶやいた。
「まったく、このオレ、“大砂漠最速の運び屋”ハリシュアラップ様に追いすがるたぁ、やっこさん大した野郎じゃねぇの!」
ハリシュアラップさんも楽しそうに笑いながら、ちらりと後ろを振り返った。
その視線の先にいるのは、三角錐たちを大勢乗せた巨大ムカデの頭部に胡坐を組んで座る御者さんだ。
その人は他の連中とは異なり、頭に三角錐をかぶってはいないけど......全身にマフラーのような布を巻きつけ顔も隠しており、その正体は全くの謎なんだ!
ソリに乗る三人目のメンバー、流浪の魔法使いネネザネも、顎に手をあて何やら思案している。
「......ふむ。ここらで切り札の、出番かもしれないね」
と、ここで。
そう言いながらレーセイダさんは、腰に巻きつけたカバンから、ソフトボール大の球体を取り出した。
黒色の表面に、赤色で超古代魔導文字が記された、球体だ。
それは......!
「ま、魔導爆弾!?」
そう、それは魔導爆弾!
魔力を注いでから衝撃を与えると小規模な爆発を巻き起こすアイテムだ!
でもボクは、それを見て困惑した!
「それ、使って良いの!?超古代魔導文明の、遺物でしょ!?」
......この魔導爆弾、以前幻想大陸東部の遺跡にボクとレーセイダさんが潜った時に発見した、遺物なんだ。
レーセイダさんは、超古代魔導文明についてを研究する、考古学者。
この爆弾も、ボクはてっきり研究用の資料だと思っていたのに......!
「ははは!本当に取っておきたいなら、金庫の中にでも放りこんでおくさ!こんなこともあろうかと、密かに持ち歩いていたんだ......今がこの遺物の、使い時さ!」
「レーセイダさん......ごめんなさい。ボクが、人を、斬る覚悟があれば......」
「良いんだよ、ミトラン君。私はキミの、そういう部分も含めて、大好きなんだから」
役に立てなくて申し訳なくて......思わず瞳に涙がたまる。
そんなボクの頭を、レーセイダさんは笑いながら優しくなでて、慰めてくれた。
見あげると、レーセイダさんの顔が赤い。
砂漠は、暑いからね。
旅慣れたレーセイダさんにとっても、この環境は過酷なんだろう......。
「ハリシュアラップ殿!これから大きな音が鳴るが、貴殿のワラジムシは大丈夫か!?」
そしてレーセイダさんは、ソリをひく超巨大ワラジムシの背に乗った御者のハリシュアラップさんに、そう声をかけた!
「ハッハーーーッ!オレのレディは鋼の女よ!何をやんのか知らねぇが......レーセイダの兄ちゃん、存分にやっちまえ!」
ハリシュアラップさんは背中を向けたまま親指を立てて、叫ぶ!
「キュルルッピーーーッ!!」
ワラジムシの“レディ”も、相棒の言葉に同意するかの如く、かわいらしく鳴いた!
......鳴くの!
この世界のワラジムシは、鳴くの!
「それでは、遠慮なく!3、2、1......それッ!!」
ハリシュアラップさんの許可を得たレーセイダさんは、すぐにカウントダウンを始めて......その手に持った魔導爆弾を、放り投げた!
レーセイダさんによって魔力をこめられた魔導爆弾は、表面に書きこまれた超古代魔導文字をピカピカと光らせながら宙を舞い......超巨大ムカデ前方の砂の上に、ポスッと落っこちた。
そして、次の瞬間!
ドドーーーンッ!!
そんな大きな音を立てて、爆発した!
「ギギギギギギッ!?」
魔導爆弾は直接超巨大ムカデに命中したわけではないけど......突然目の前で起きた大爆発の光、音、そして熱風は、超巨大ムカデを驚かせるには、十分な威力を持っていた。
超巨大ムカデはのけぞるようにしてひっくり返り、ボクたちの追跡を中断したんだ!
「スイーーーッ!?」
「ホッホホーーーッ!?」
ムカデの背中の上に乗っていた三角錐たちが、次々と砂漠に投げ出されている。
落ちたのが柔らかな砂の上だから、ケガはしていないようだけど......あの状況から体勢を立て直すのには、なかなか時間がかかるだろう。
その間にもレディは砂の上を風のように走り続け......あっという間に暁の三角錐の連中の姿は、見えなくなったんだ!
「ふ、ふええ......助かったよぉ......」
ボクは頭のおかしな連中を振り切ったことで思わず力が抜けて、ソリのへりにだらりとよしかかった。
ああ、ボク、生きてる......。
どこまでも続くお空は青くて、砂漠は白い。
きれいだなぁ......。
「おぉーい、嬢ちゃん!安心するのは、まだ早いぜぇッ!」
だけど、そうやって油断していられたのもほんの一瞬だ。
だらけたボクの耳に、ハリシュアラップさんの緊張を含んだ声が届く!
「ふぇっ!?何々!?」
「ハッハーーーッ!どうやらさっきの爆発が......呼び寄せちまったみてぇだッ!」
そう叫びながら、前方を指さすハリシュアラップさん。
その方向をじっと見つめると......なにやらもぞもぞと砂が動き、その下から......!
超巨大な、黄色いミミズのような魔物が、勢いよく飛び出してきたんだ!
鎌首をもたげるようにして屹立するその魔物の体はものすごく長くて、その口はレディを含めたボクたちを容易く丸のみできてしまうくらいには大きい!
とにかく、でかい!
「ふむ......あれは、サンドユムシッ!!」
帽子を押さえ、三つ編みにした銀髪を風になびかせながら、レーセイダさんはすぐさま魔物の種類を特定してその名を叫んだ!
「......ユムシ!?」
「そう!サンドユムシだ!」
なんでユムシなの!?
なんでユムシが、陸上に生息しているの!?
「しかもあれは、特殊個体だな......あれ程巨大なサンドユムシなんて、聞いたことがない」
レーセイダさんはその端正な顔を歪めながら、震える声でそうつぶやいた。
流浪の魔法使いネネザネも、顎に手をあて何やら思案している。
「ユギャアアアアーーーーーーッ!!」
と、ここで。
じっとボクたちのことを見つめていたサンドユムシが、威圧的に吠えた。
凄まじいその声量に、ビリビリと肌が震える。
「ハッハーーーッ!どうやらオレたちゃ、お眼鏡にかなったみてぇだぜ!ランチに招待されちまった!」
「お客さんとして!?」
「嬢ちゃん、バカ言っちゃいけねぇ!もちろん食材として、だな!」
「ひ、ひえーーーーーーっ!?」
ハリシュアラップさんから小粋なジョーク交じりに伝えられる絶体絶命の危機に、ボクは思わず震えあがり飛び跳ねた!
でも!
「こ、ここは......」
いつまでも、恰好悪く怯えているばかりじゃ、だめだ!
だってボク、レーセイダさんの護衛なんだもん!
それに相手は、魔物だ。
魔物相手なら、ボクは遠慮することなく、チートを使用できる!
ボクは、冒険者。
冒険者ミトランだ!
「ここは、ボクの、踏ん張りどころだっ!!」
そう叫んで腰にさげた剣を抜き放つと、ボクは運良く発動してくれた【超戦闘勘】に導かれるまま、ソリから跳躍!
そしてボクたちを丸のみにしようとまっすぐに突っこんでくる超巨大サンドユムシに向かって......。
思いきりその剣を、振り下ろした!!
【ミトラン】
どう見ても美少女にしか見えない、男の子。
冒険神の加護を受けた転生者であり、即ち主人公。
殺伐とした冒険者を続けながらも、未だに現代日本の価値観を捨てきれない優しい少年。
ちょっと臆病だけど、やる時はやるやつだ!
第15章等に登場。
【レーセイダ】
どう見ても美青年にしか見えない、女性。
世界を股にかける考古学者。
それなりに年齢差があるけど、ミトランのことが異性として好き。
エミーとも縁のある、カマッセの姉。
第15章等に登場。
【ハリシュアラップ&レディ】
今回が初登場。
陽気な砂漠の“運び屋”と、その相棒の巨大なワラジムシ。
【流浪の魔法使いネネザネ】
よくわかんない。




