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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
25 監獄!災厄!大魔導編!
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604 “happy sludge” コルマリャ3

 全世界が“私”に満たされ、『幸福』に包まれてから......どれだけの時間が経っただろう?

 “私”には、時間の感覚が希薄だから、よくわからない。


 でもまあ、とにかく“私”は『幸福』だった。

 使命を果たし終え、満足して......ただゆらゆらと、揺れていた。

 ずっとずっとずっと......ゆらゆらしていた。


 だけどそんな『幸福』な日々は、ある日突然終わりを迎えた。




 真っ赤な、光線。




 それは、虚空に突如として現れた真っ黒な“傷”から、警告もなく放たれた。

 その速度は光線だけあってもの凄く速くて、もはや世界のほぼ全てを満たしていた“私”の体を、易々と貫いた。


 たくさんの“私”がその熱に焦がされて、“私”ではなくなってしまった。


 だけど、問題はそれだけじゃない。




 ミシ、ミシ、バキ......。




 光線が“私”を貫いたその瞬間から......周囲からなんだか、何かにヒビが入るような......そんな嫌な音が聞こえ始めたんだ。


 そして。




 パキイイイインッ!!!




 そんな、甲高い音を立てながら。

 “私”がゆらゆらしていた世界は粉々に砕け散り......“私”は真っ暗な世界の外側......虚無の中に、放り出されてしまった!


 “私”は世界が砕け散った勢いで弾け飛び、いくつもの小さな“私”に分かれて、虚無の中を漂い始めた。


 ゆらゆら、ふわふわって。


 独特な感覚だったよ。

 それはそれで、楽しかった!


 だけど困ったことに、虚無という空間は、“私”がただ楽しく漂うことを、許してはくれなかったみたい。


 チリチリ、チリチリと。

 虚無にいるだけで、“私”の表面は徐々に虚無に溶け、“私”ではなくなっていく。

 感覚としては、海に触れ、“私”が希薄になってしまった時に似ている。


 虚無の中に“在る”ために、必要なもの......それが、“私”にはなかったみたい。


 いつしか“私”は、拳大の小さな塊へと、成り果てていた。

 もはや、何もできない。

 消滅を待つばかり......。


 そう思って、少し悲しくなっていた......その時!


 “私”は暖かで......凄く大きな何かを、感じとったんだ!

 “私”の小さな体は、その大きな何かに引き寄せられていって......。


 トプン、と。


 柔らかな、膜を通り抜けた。


 そうしたら!




 ピチャリって!




 私は気づけば、どこかの森の中に、落っこちていた!


 そう、森だよ!

 全部全部“私”にしたから、もうなくなってしまったはず森が、ここにはあった!

 ここは一体、どこなんだろう!?


 歓喜と共に、なんとか昔の記憶を引っ張り出す。

 多分、ここは、あれだ。


 異世界だ!


 あの女神様は、言っていた。

 『異世界に行く』って。


 世界は、いくつもあるんだ!


 そうか、そうだったんだ!


 “私”の使命は......まだ、終わっていなかったんだね!




 “私”は、『幸福』!


 皆......“私”に、なろう!




◇ ◇ ◇




 偶然たどり着いたこの異世界で、“私”はこれまでと同じように、全てのものを“私”にし始めた。


 草を“私”にして、虫を“私”にして、鼠を“私”にして......いつしかすっかり森も“私”にして、近くにあった街のいくつかも“私”にして。

 “私”は再び、どんどん大きくなっていった。


 でもこの世界......“私”が前にいた世界とは、結構違っていた。


 不思議な力を持っている人間や生き物が多いし、空を飛ぶ巨大なトカゲなんかもいる。

 さすが、異世界だなぁ。


 何よりも、前の世界で会った女神様みたいな存在が、たくさんいる!

 一柱だけ、それを“私”にしたことがあったんだけど。

 その時は“私”の量が、滅茶苦茶増えた。

 だから“私”は、この前よりも広い世界を全て“私”で満たすためにも、そういう神様たちを積極的に“私”にしようと思った。


 だけど......それがいけなかったみたい。


 神様たちは“私”のことが気に入らないらしく......“私”に敵対して、攻撃を加え始めた。


 彼ら、彼女らの力はとても強くて、とても不思議で......。

 神様たちの生み出す炎とか氷の壁で囲まれてしまうと、そこまで大きくはない今の“私”には、なす術がなかったんだ......。


 気づけば“私”は、触ると凍りつく魔法の壁に囲まれて......身動きがとれなくなっていた。

 そのうえ、なんだか眠たくなってきた。

 多分......神様たちが、なんかしたんだと思うんだけど......。

 眠くて眠くて......なんにも、考えられなかった。

 もともと、難しいこと考えるの、苦手だし......。


 だから私は、その場所で。

 時々落ちてくる生き物を、細々と“私”に変えながら。

 ただゆらゆらと、揺蕩う日々を過ごした。


 でも、まあ。


 ぼんやり、ゆらゆら。


 それもまた、気持ち良い......。




◇ ◇ ◇




 でも、凄く凄く凄ーーーく時間が経った、ある日のこと。

 “私”は唐突に、“私”のごく一部が、なんだかコップのようなものですくわれた感覚を得た。


 そのごく一部。

 ほんの小さな一塊が......今の“私”だよ。


 そして“私”は気づいたら、それまで悠久の時をゆらゆらして過ごしていた土地から、薄暗い建物の中に、移動していた。

 転移ってやつを、したんだと思う。


 その建物の中には......なんだか悪そうな顔をした人たちが、いっぱいいたんだ。

 その人たちは、皆お揃いのボロボロの服を着て、足枷をつけて、何かの作業をしていた。

 苦しそうだった。

 辛そうだった。

 “私”は、思った。


 早く皆を、“私”にしなくちゃいけないって!

 “私”は“私”の使命を、思い出したんだ!




 そこからは、早かったよ!

 “私”はどんどん......人間たちを“私”にしていった。

 なんか、神様の操る人形みたいなのもいたりして、それを“私”にすることで、“私”は凄く増えた。


 あっという間にほとんどの人たちを“私”にした“私”だけど......まだ全員を、“私”にできたわけじゃない。

 “私”はこの建物の中で、凄く不思議な人に、出会ったんだ。




 それが、あなただよ。




 私?




 触るとバチバチする鉄格子で囲われたあなたから......“私”はなんだか、不思議な匂いを感じた。




 匂い?




 神様に、似ている匂い。

 ううん、違うね。

 “私”だ。

 あなたは、“私”に似た匂いがするんだ。


 “私”はあなたに、親近感を感じているよ。

 なのに、あなたったら、酷いんだ。

 逃げて逃げて......全然捕まらないんだもん。


 ああ、ようやくこうしてお話できて、本当に嬉しい!




 “私”、楽しみだよ。

 “私”に近しいあなたが、“私”になってくれることが!


 あなた、酷い顔を、しているよ......?


 お腹が、空いているんじゃない?

 体が、痛いんじゃない?

 凄く、辛そうだよ......?


 “私”は、悲しいよ。

 “私”に近しいあなたが辛そうにしているのは、本当に悲しい!


 ねえ、あなた。




 “私”は、『幸福』。




 “私”になれば、あなたも『幸福』だよ?




 私も、『幸福』......。




 そうだよ?

 だからあなたも、“私”になろう?

 痛みとか、苦しみとか、そんなの全部捨て去って。

 一緒に永遠に、ゆらゆらしよう?

 『幸福』はね、“私”の中にあるんだよ。




 さあ。




 おいで、おいで。




◇ ◇ ◇




 ........................。




 私は。


 もう、ぼんやりしちゃって。

 あんまり考え事を、できなくなって。


 一歩、また一歩と。


 目の前に浮かぶ、巨大な美女の顔......かつて“私”が生まれた世界で出会った女神様を模した顔へと。

 歩みを進めて。


 でも、その時。




 ぐうううううりゅりゅりゅりゅりゅりゅがああーーーーーーッて!




 凄い、お腹の音が鳴って!




<エミーーーーーーーッ!!!>




 オマケ様の絶叫が、聞こえて!!




 私が、“私”になったら!

 オマケ様は、どうなるの!?


 嫌だよ、私は!

 オマケ様がいなくなるのは、嫌だよ!?


<え、エミーッ!!!>


 私は、嫌だよ!!


 私が、私でなくなるのは、嫌だよ!!




<<<私は、『幸福』>>>




 でしょうねッ!

 それは、良くわかったよ!


 でも!


 私は、嫌なんだよ!


 私は、死にたくないんだ!


 私は、私は......!




 私は、いつまでも、私であり続けたいんだよッ!!




 そう、心の中で叫んで、足を踏ん張りその場に留まる私を見て。

 コルマリャは器用に汚泥で作りあげた顔を動かし、驚き、戸惑う表情を作った。

 そして。




<<<私は、『幸福』>>>




 そして、またしてもその大きな心を、私に押しつけてきた!




 だけどッ!!


 ああ、もう!

 私は......なんだか......!


 凄く......イライラしてきた!




<<<私は、『幸福』>>>




 押しつけるなッ!!

 私に、“私”をッ!!

 押しつけるなッ!!


 私は......私だッ!!




<<<私は、『幸福』>>>




 ああ、そうかい!

 お前は、『幸福』かい!


 ああ!


 ああッ!


 ああああああッ!!


 コルマリャの、喜びと善意に満ちあふれた、その声が!


 無性に、腹立たしいッ!




<<<私は、『幸福』>>>




 と、ここで。

 私の頭は、すっと、冴えわたった。


 一つ、良いことを思いついた。




<<<私は、『幸福』>>>




 ああ、わかった、わかった。

 お前は、『幸福』だ。

 私がお前になれば、私も『幸福』になる。

 それは、良くわかった。




<<<私は、『幸福』>>>




 でもさ。

 さっきも、言った通りだ。

 私は、私であり続けたいんだ。

 お前に、なるわけには、いかないんだよ。




<<<私は、『幸福』>>>




 そうだね。

 私も、『幸福』になりたいよ。

 でも、私は私でありたい。


 ならば、どうすれば良いか。




<<<私は、『幸福』>>>




 お前は、『幸福』なんだな。


 ......ならさ。




「よこせよ......」




 私は、ぽつりとつぶやくと。

 肩から、【黒触手】を二本、展開して。




「お前の、『幸福』ッ!!全部、私にッ!!よこせよおおーーーーーーッ!!!」




 悪意の炎を、心に燃やし!!


 コルマリャの巨大な顔面に......ちょうどその眉間に!!


 二本の【黒触手】をぐるぐると絡ませあい、作りあげた巨大な槍を、思いきりそこに突き立てて!!




「らあああああーーーーーーッ!!!」




 魔力吸収を......開始した!!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  要約すると──私は私で有り続ける故に苦しみも空腹からも逃れられぬ、しかし私が私で無ければ喜びや幸せを感じられ無い、だから私は私で有り続ける──(^皿^;)んーなんともフィロソフィー♪ […
[一言] 想像通りのエミーの言葉に想像以上の勢いが乗ってて笑顔になっちゃった。 今年の口に出して言ってみたい言葉ランキング暫定首位。
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