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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
25 監獄!災厄!大魔導編!
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601 汚泥 breath

 ゆらり、ゆらりと。

 “幸福なる汚泥”コルマリャは自らの汚泥で包みこんだデレネーゾ大監獄を体に見立て、そこから伸ばした巨大な腕を揺らし、私のことを手招きした。

 なにせ、巨大な腕だ。

 それだけの動きで強い風が生まれ、私に吹きつけられる。


 灼熱の砂漠の砂の上で散々に温められた空気が、風となるわけだから。

 ものすごく、熱い。

 そのうえ、途轍もなく臭い。


 たまらず、顔をそむける。




<早く逃げましょう、エミー!>


 その不快さに、オマケ様は私の頭の中で、悲鳴をあげるようにそう叫んだ。

 私も、同じ気持ちだ。

 一刻も早く、逃げ出したい。


 でも。




「ぐ......」




 ダメだ。

 足が、動かない。

 思わず、膝をつく。


<エミー!?大丈夫ですか!?>


 大丈夫じゃ......ないかも。

 要は、魔力不足だ。


 現在の私の肉体は、飢餓状態で力がでない。

 そんな体を魔力で無理やり動かして、なんとか大監獄から逃げ出してはみたものの......。

 ここに来て、魔力が切れた。

 思うように、体が動かせない。




 汚泥が手招きし、バフウと、またしても不快な風が送られて、私の髪を揺らす。


 なんだか、頭がぼんやりする。

 そして......あれ?

 良い香りが......する?


<良い香りは、していません!相変わらず汚泥の、酷い臭いしかしません!気をしっかりともって!>


 オマケ様に注意されて、頬を叩いて目を覚ます。

 途端に、それまで感じていた良い香りは酷い悪臭に変わった。


 まさか、これは......もしかしなくても、汚泥が何か、してるな?


<きっと、コルマリャは魅了系の能力を持っているのでしょうね>


 あの悪臭を嗅ぐうちに頭がおかしくなって、汚泥に飛びこみたくなってきちゃうわけだ。

 三大獄卒の人みたいに。

 それが、『幸福』だと、思いこんじゃうんだ。


<おそらく>


 ......ってか、オマケ様。

 私の肉体は魔力抵抗が高いから、精神干渉は効きにくいって話じゃなかったっけ!?


<今、弱ってますので。あと、相手が分体と言えど災厄クラスですので>


 役に立たないな、魔力抵抗......!




「............」


 話を戻そう。

 とにかく、魔力が足りないんだ。

 私は四つん這いになり、砂をかき集めては口に運ぶ。

 私の体内に収められた砂という存在が世界からほどけて消え去り、魔力へと変じて私の魂の一部になるのを感じる。


 でも、足りない。

 とてもじゃないけど、こんなものでは足りない。

 おいしくもない。

 つらい。




 そしてまた、風が吹く。




 凄く......良い香りだ。

 甘くて、香ばしくて......凄く、おいしそう......。


<エミーッ!!しっかりしてッ!!早く砂を食べてッ!!>


 「......はッ!!」


 オマケ様に叱られて意識を取り戻し、慌てて砂を飲みこむ作業に戻る。

 灼熱の砂が体内を焦がす苦痛が、皮肉にも私の自我を保ってくれる。

 どんな地獄だ!




 そんな抵抗を続けること、数分。

 その間コルマリャは、デレネーゾ大監獄内でやったような......汚泥の津波を起こして私を飲みこむような真似は、しなかった。

 ずっとずっと、私を手招きし続けていた。


<もしかすると、灼熱の砂漠というフィールドと、相性が悪いのかもしれません。泥だから水気を奪う砂には、あまり触れたくないのかもしれません>


 おっと、それは希望を持てる仮説。

 それならこのまま砂を食べ続けて、動けるようにさえなれば......私は逃走を成功させる目が出てくると、そういうわけね!

 良し、早く砂を食べよう!


<ええ、早く砂を食べましょう!>




 でも。

 ことは、そう私に都合よくは運ばなかった。

 一向に私が魅了されない様子を見て、業を煮やしたのか。


 コルマリャは、手招きをやめた。


 そして、首を伸ばし......その巨大な顔を、私に向かって近づけて来た!




 その表情は、優しい微笑み。

 その顔面は、素晴らしい美女。


 だけど、凄まじい悪臭!


「うううーーーーーーッ......!!」


 私は、耐える!

 頬をつねり、歯を食いしばって、必死になって意識を保つ!


 でも。


 ぐうううううッ!!


 ここで、腹が鳴った。

 生理現象だもん、しかたがない。

 でも、そのせいで一瞬、集中が途切れた。




 すると途端に、悪臭が極上の芳香へと、変じた。




「............?」


 私は何を、必死になっていたんだっけ?

 頬をつまむのをやめ、へたりこんで、両腕をだらりとおろす。


<エミーッ!?>


 ここで、ふう、と一吹き。

 コルマリャが、私に向かって吐息を吐いた。


 甘く、爽やか。




 ......天上の、吐息だ!




<エミーッ!!エミーッ!!しっかりしてくださいッ!!>


 オマケ様、そう慌てることはないよ。

 私はしっかりしているから。

 お喋り、できているでしょ?


<いいえ、いいえッ!!正気に戻ってッ!!あなたは......!!>




<<<私は、『幸福』>>>




 と、ここで。

 オマケ様の絶叫すらかき消す程の大きな声が、聞こえた。


 声?


 声じゃ、ないかもしれない。

 意思?

 あるいは、感情?


 なんというか......単純で、子どもみたいな。


 だけど、確かに『幸福』な。




 “心”が。


 私に、届けられた。




 私は、まっすぐに前を見る。

 そこにあるのは、コルマリャの顔。

 優しく微笑む、美女の顔。




<<<私は、『幸福』>>>




 再度、“心”が、届けられる。


 それは、嘘偽りがなくて。

 満ち足りていて。

 善意に、あふれていた。


 ......そう、善意だ。




<<<私は、『幸福』>>>




 コルマリャは、いつだって善意で動いていたんだ。

 だって、コルマリャはいつだって、『幸福』だ。

 誰よりも『幸福』なんだ。


 そんな『幸福』なコルマリャと、一つになること。


 それは、自分が『幸福』になるための、間違いのない道筋なんだ。




 『幸福』。




 『幸福』に、なりたい。




 私も!




 『幸福』に、なりたい!




<<<私は、『幸福』>>>




 その時、さらに顔を近づけてきたコルマリャが、私に再び良い香りの吐息を吹きかけた。


<エミーッ!!嗅いではいけま>


 すると、オマケ様の絶叫が、途中でぶつりと聞こえなくなり。




 私の視界は、真っ白に染まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  出たら終わりと思ってたのにエミーさん連載中最大のピーンチ!!ここから如何なる逆転劇が起こるのか高まる期待に読者のボルテージもMAX☆( ᐛ )و [気になる点]  ──早く砂を食べてッ…
[一言] 今まで大変だったね。。。幸福になってね(´;ω;`)
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