59 お友達
午前のお勉強が終わり、軽食を食べ、いつもなら魔法のお勉強が始まる、そんな時間がやってきました。
でも外は雨がざんざか降っているし、今日のサラちゃんの魔法のお勉強はお休みみたい。
これは雨が降ったらいつもそうみたい。
お外で実践訓練できないなら、お部屋で座学でもすれば?とも思うけど、それではサラちゃんの忍耐が続かないらしい。
うん、前世の記憶がある私と違って、サラちゃんはまだまだお子ちゃまだからね。
それもやむなし、とは思うけど。
でもサラちゃん、あなたもう少ししたら学園とやらに入学するんでしょ?
こんな状態で、学園の授業についていけるのかな?
ちょっぴり心配だよ。
で、魔法のお勉強がないので、サラちゃんは完全に自由時間。
とはいえ、雨のせいでお外にもいけないから、何故か気に入っているメイド見習いの私を自室に連れ込み、お喋りタイムなのです。
あ、一応お部屋の隅にはメイード先輩が控えています。
子ども二人だけにしない、という意味もあるのだろうし、私自身を警戒しての配置でもあるのかもしれない。
「ねぇねぇ、エミー!なんかおもしろいお話してほしいの!」
はい、きました~。ちびっこ特有の無茶ぶり~。
とはいえサラちゃんは私の話なら何でも面白がって聞いてくれる。
喋ること自体が苦手な私だけど、たどたどしい私のお話も、しっかり笑顔で聞いてくれるんだよね。
ついつい私も頑張って話したくなる。
「......なら、雨ふってるし。オカシラスのお話」
「オカシラス!?なんなのそれ?」
「生き物」
「生き物なの?どんな生き物なの?」
「小さいお魚」
「お魚!私はお魚よりお肉が好きなの!」
「オカシラス、お魚だけど、陸に住んでる」
「お魚なのに!?」
「石の裏とかにいっぱいいる」
「お魚なのに!?」
「今日みたいな雨の日は、石の裏から水たまりに出てくる。でも晴れの日、ずっと石の裏」
「へぇ~!でも私、石の裏にお魚なんて、見たことないの!」
「......この辺にはいない。向こう、山の向こうにはいる」
「へぇ~!そういえば、ここからずっと西のほうに行けば、お魚が空を飛んでる森があるらしいの!」
「空を?お魚が飛ぶ?すごい」
「そう、すごいの!お父様が冒険者時代、冒険したことがあるって言ってたの!モーブおじさんと一緒に」
「......モーブさん?」
「そう!お父様は昔、モーブおじさんとずっとパーティを組んでたの!仲良しなの!」
「ふーん」
......とまぁ、こんな感じで。
とにかくサラちゃんと一緒にいると、喋りやすいんだよね。
<エミーの成長を感じます。師匠と半年間ほぼ無言で過ごしていた時と比べたら、大きな進歩ですよね>
いや、あれはあれで良いんですよオマケ様。
私と師匠は心が通じ合っていたからね!
「......ねぇ、エミー!エミーったら!」
「......?なに?」
「なに?じゃないの!エミーは時々、いきなりぼーってするから心配になるの!大丈夫?」
おっとと。サラちゃんごめんごめん。
まさか頭の中にもう一人オマケ様って方がいて、その人と喋ってたなんて説明するわけにはいかないので、適当にごまかす。
多分、本当のことを話しても、信じられないだろうしね。
......もー、そんな心配そうな顔しないでよ、サラちゃん。
ってか普段アホだなーって思いながら見てるから最近は全然そんな印象ないけど、こうしてまじまじと顔見たらマジでかわいいなサラちゃん。
私に負けず劣らずの美少女として認定してあげよう。なでなで。
「わっ......エ、エミー、なにするの、もうっ!」
なでてあげたら、顔を真っ赤にして照れた。かわいい。
......ん?メイード先輩が何やら必死にアイコンタクトを......?
あぁ、はいはい。使用人がご令嬢の頭をなでるのは、不敬だと。
申し訳ない。今すぐやめます。
......やめたらやめたで、今度はサラちゃんが残念そうな顔するし......。
あちらを立てたらこちらが立たず。
「ねぇ、エミー......。私たち、仲良し、だよね?」
んんん?なんだいサラちゃん、急に切なそうな顔して。
まぁ仲良いか悪いかで言ったら、良いんじゃない?
こくりとうなづく。
「私たち、お友達、だよね?」
んんんんんん!?
お友達!?お友達ときたかぁ。
うーん、サラちゃんと私の関係は雇用主の娘と使用人なのであって、お友達とはまた違うような......。
<でも、こうして仲良くお喋りしたりしていますよね?雇用主の娘と使用人......その関係性は前提としてあるにせよ、お友達と言ってしまっても問題ないのでは?>
........................。
え!?
そうなのオマケ様!?
私とサラちゃんって......お、おおお、お友達なの!!?
<と、突然何を興奮しているんですか?エミー>
だ、だって!だってだって!
私、前世にも今世にも、お友達っていたことなかったんだもん!
今世は呪い子って呼ばれて人から避けられて、前世では父親の問題とかあったし、あと、とにかく巡り合わせが悪くて何をどうしても友達ができなくて......。
え、え、え、そんな私が、お友達!?お友達に......なっても良いのサラちゃん!?
<あぁ......そういえばエミー、故郷の村でもお友達、作りたがってましたもんねぇ......ようやく願いが叶いましたね。おめでとうございます、エミー>
涙腺はもはや完全に崩壊。
無表情なのは変わらないけど、涙が滝のようにあふれ出てくる。
「えっ!?ど、どうしたのエミー!?」
サラちゃんは突然号泣を始めた私を気づかって、心配そうに背中をさすってくれる。
優しい。サラちゃん優しい!
「......なんでもない。これは、ただの汗」
「どう見ても目から流れ出してるのに、その言い訳はないと思うの!?」
あぁ、サラちゃん、アホだアホだと思っていたけど、ちゃんとつっこみもできるんだねぇ。
ごめんね、今まで心の中でアホアホ連呼して。
もうしないからね。
だって......。
「......私たち、友達......」
そう、私たちは友達なのだから......!
友達は、相手のことをアホだなんだと蔑んだり、しないものだと思うから......!!
「......!そうなの!私たちは友達なの!!」
私の言葉を聞いて、サラちゃんは嬉しそうに笑う。
そして、次のように言った。
「私ね、エミー。ずっとエミーと一緒にいたいなって思ってるの!お父様とモーブおじさんみたいに!」
にこにこと、輝くような笑顔で、言葉を続ける。
「だからね、もしエミーが良ければなんだけどね?......エミーにもメイドとして、私と一緒に学園に来てほしいの!」
........................。
え?
「学園の寮にはね?何人か使用人を連れて行って、一緒に住めるって前にお母様が言っていたの!だからエミーも、一緒に学園に行けるの!」
........................。
え?
「......?どうしたのエミー?......もしかして、私と一緒に学園に行くのは、嫌?」
眉を下げ、悲しそうな、不安そうな顔をしながら、突然固まった私の無表情をのぞき込む、私のお友達。
首を横に振る。
「なら、一緒に学園に行くの!これからもずっと一緒なの!」
........................。
それは。
「それは、決めるのは、男爵様」
私はそう、答えることしかできなかった。
いや、メイド見習いとしては、正解の回答だったと思うんだけど。
でも、私は。
お友達からのお誘いに、自分の気持ちで、答えることができなかった。
生まれて初めて、私は。
自分で自分の気持ちが、わからなかったのだから。
ズズズズズ......。
どこか遠くで、地滑りでも起きたのかもしれない。
雨にまじって不気味な音が、響いていた。




