52 メイード先輩から学ぼう!
そんなわけで、メイド見習いとしての新たな第一歩を踏み出した私は、現在メイード先輩と一緒にお屋敷の廊下のふき掃除をしておりますのよ。
「............」
「ひ......ひぃぃ......」
メイード先輩は......汗を流し、小刻みに体を震わせながら、一心不乱に床の汚れをこそぎ落としていますわ。
とは言ってもこの作業、震えるほどの重労働であるとは、ワタクシ思いませんことよ?
<......なんだか彼女、エミーのことを怖がってませんか?>
あ、やっぱりオマケ様もそう思う?
......昨日、晩御飯を給仕してもらった時もそうだったんだけど、なんかこの人、私が近づくと震えて不安そうな顔するんだよね?
怯えている?私に?
......私が呪い子、だからかなぁ......。
<うーん、黒髪黒目差別は本当に根が深いですね。なのに、これまで私が視聴してきたこの世界の異世界転生配信では一切触れられてこなかった。いや......よく考えると、そういえばアーディスト産の配信では、黒髪黒目の登場人物は存在しなかったような......?となると、つまり......?>
ちょっと、オマケ様!そんな考察は後回しで良いでしょ!
今はお仕事を一生懸命頑張って、黒髪黒目ハンデキャップを乗り越えて、メイード先輩に認めてもらう!
それが大事だよ!
というわけで、私もふき掃除を開始する。
この世界......というか少なくともこのあたりの地域では、家の中でも外靴を履いたまま歩くのが普通らしく、けっこう泥汚れとかが目立ってたりするんだよね。
師匠との修行で鍛えに鍛えた体力があるおかげで、普通はけっこう疲れるふき掃除もなんなくこなせる。
ありがとう師匠。
「あ......あのっ......!」
ん?なに?
顔をあげるとメイード先輩、廊下の向こう側にいらっしゃる。
私と先輩の間にある床は......え、既にピッカピカなんですけど!?
窓から差し込むお日様の光跳ね返しまくって、まるで間接照明なんですけど!?
え?え?なに?もしかして、メイード先輩、この短時間でこの辺りの床掃除、全部終わらせたの!?
「エ、エミー、あなたは、その周りの、床を磨いててください。私は、1階のお掃除も、終わらせてきますから」
あっ!先輩、そうやって理由つけて私から離れようとしてない!?
まってまって!
【飛蝗】で横方向に移動し、魔力変換で着地の勢いを殺す。
音もなく瞬時に先輩との距離を詰める。
「ひっ!?ひぃぃっ!!?」
「............」
「や、やややめてっ!殺さないでっ!!」
いや、なんで殺すとか殺さないとかいう話になるのさ。
雑巾をもったまま慌てている先輩の手を、優しくにぎる。
「......教えて、ください」
「......え?」
「先輩、お掃除すごい。はやい。きれい。やり方、教えてください」
手を握ったまま、先輩をみつめる。
誠意を伝えるには、相手の目を見て話すことが大事だよって、前世で聞いた覚えがある。
実践したら「睨むんじゃねぇ!」って殴られたけど。
でも一般的には、大事なことらしい。
私は、一月の間とはいえ、メイド見習いなんです!
少しでも役に立ちたいんだ!
勉強させてください!
そんな思いをまなざしに込める。
「わっわわわかった!わかりましたから!手を離してぇ!」
ようやく私の要望を呑んでくれた先輩。
何故か半泣き状態です。
きっと私の熱い思いに触れて、感極まってしまったのね!
<いや、エミーに怯えているだけなのでは?>
オマケ様の至極もっともなつっこみは無視。
先輩は雑巾を床にあて、私が磨き残した床をふきはじめる。
さっきは自分が床をふくのに夢中でよく見てなかったけど、先輩の掃除スピードは異常だ。
何かしら、からくりがあるはず。
「こう、こんな感じで、キレイになれって思いながらふくんですよ......うっ......うぅぅ......」
ぐすんぐすんと何故か泣きながら床を掃除する先輩。
すっと雑巾が床の汚れをなでる、ただそれだけで......おいおい、床ピッカピカじゃん!?
ちょ、これってもしかして......!?
【魔力視】発動!!
<おぉ!?なるほど、これは......>
【魔力視】を介して視た先輩の手元には、確かに魔力の流れが確認できた。
見覚えのある流れである。
これは【紙魚】の反対。
くっつける、ではなく、ひきはがす。
【飛蝗】の跳躍段階で使っている技術の、応用!
<つまり、このメイドは魔力で汚れをひきはがし、それをふき取っていたというわけですね。【剥離】とでも名付けましょうか>
私も試しにやってみる。
この魔力操作自体は似たようなことを何度もやっているので、割とすんなり習得できた。
雑巾ですっとなでるだけで、頑固な汚れが落ちる落ちる!あっという間に超キレイ!
うわぁ、なにこれ楽しい。
<あっ!だめですよ、エミー!調子にのっていると......>
え?
......あっ!やべっ!
汚れどころか床を薄く削り取ってしまった!?
<やりすぎには注意ですね。練習が必要です>
メ、メイード先輩は......よし、こっち見てないぞ。
まぁ、少し床を削ってしまっただけですの。
黙っておけば多分ばれないですわ!おほほ!
困っちゃうのは、床から削り出してしまった木くずの処理。
かんながけした後に出てくる、鰹節みたいなこの木くず。
床に雑巾をかけて木くずを出してしまう日が来るとは。
どうしよう。
どうやってごまかそう。
......よし、食べちゃえ。もぐもぐ。
「とまぁ、こんな感じでふけば......エミー?何か食べてます?」
やべっ!
い、いえ、何も食べてないですよ~!
すぐに木くずを飲み込んで何度も首を横に振る。
「先輩、やっぱりすごい。お掃除の魔法使える」
そしてごまかすわけじゃないんだけど、そうやって先輩をほめる。
魔力操作を掃除に活用するなんて、私は師匠の修行である程度鍛えられていたから真似できたけど、そう易々と一般人が習得できるものでもないと思うんだよね。
「ま、魔法?何を言っているんですか、そんなもの使えませんよ」
先輩はきょとんとしている。
<これはアレですね。無意識のうちに魔力操作を発動させているんですね。職人などによく見られるパターンです>
「......先輩のお掃除は、魔法」
「え、え~と、たとえ話、ってことですかね。魔法みたいにきれいになる、と?」
う~ん、言いたいことが正しく伝わらない......。
「まぁ......ほめてくれたのなら、ありがとう」
......まぁ、いっか。
先輩もぎこちないながらも、ようやくにっこり笑ってくれたし!
なんとなく距離が縮まった先輩と私は、その後一緒にお屋敷一階のお掃除をした。
私も【剥離】を習得したとはいえ、やはりまだまだ先輩のほうが素早くお部屋をお掃除することができる。
同じ場所を掃除していても非効率だと感じた私は、【紙魚】を使って壁を登り、天井や壁の高いところをキレイにすることにした。
普段は手の届かないところだから、けっこう汚れている。
磨けば磨くほどキレイになって、楽しい。
天井にはりつき、上下逆さまになってふき掃除をしている私を見て、先輩の顔はひきつっていた。
そして先輩と私の心の距離は、またちょっとだけ遠くなった。
メイード先輩のお掃除能力は“異能”と呼ぶにふさわしい性能を誇りますが、地味すぎてエミーとオマケ様以外は誰もその存在に気づいていません。




