49 ごちそうを食べよう!
「はぐはぐはぐ、もぐもぐ......」
現在時刻、夜の8時といったところ。
そして私が今いるのは、サラちゃんのおうち、サラー男爵家の食堂。
それほど広くもないお部屋だけど、天井から魔灯でぼんやりと照らされた室内は落ち着いていて趣がある。
机とか椅子とか、どれも特に飾り気のない素朴な出来なんだけど、よくほら、隙間とかにほこりたまってたりするじゃん?あれがない。
しっかり掃除されていて、清潔。
窓際にはお花なんかが活けられていて、なんかこう、おしゃれさを感じる。
師匠との生活にはなかった要素だな。お花を部屋に飾るとか。
男爵って言ったら、貴族でしょ?
だからてっきり、豪華絢爛、お金持ち!って感じのお屋敷に住んでいるのかと思いきや、サラちゃんたちを助けた私が案内されたのは、普通の木造2階建てのおうちだった。
いや、周りの村人たちの家は全部平屋だし、2階建てってだけで、やっぱりすごいのかな?
庶民のおうちに比べると、部屋数なんかも多いような気もするし。
私の中の比較対象がゴミクズ実家と師匠のおうちしかないから、よくわかんないけど。
「ごくごく、もぐもぐもぐ、ずずっ、ずずずー......」
そして私が今食べているのは、私が男爵家の皆さんを助けたご褒美として作ってもらった、ごちそうです!
私の目の前にたくさん並べられたお料理たちはみんな、目にも鮮やか良い香り!
そして、もうね、おいしい。
どれもこれも、とにかくおいしい。
スープに入っている煮込まれた野菜は、トロトロで甘い!
これはニンジンみたいな野菜なのかな?
赤くて甘くて、舌でつぶせちゃうくらい柔らかい。
そしてそれをかみしめるとあふれ出す、色んなお野菜からとられたと思われる風味豊かなお出汁。
普段私が食べている固くて苦くてえぐいその辺の草とはまるで違う。
はぁ、おいしい......!
そしてパン!
私、この世界に転生してから、初めてパンを食べたよ!
ゴミクズ村にてゴミクズ男や村人たちがそれっぽいものを食べているのを見たことはあるけど、自分で食べるのは初めてだなぁ!
ゴミクズ男は食べ物を分けてくれなかったし、師匠が作ってくれたのは麦粥だったしね。
何か少し前世のイメージと比べると固い気もするけど、その辺に生えてる木の幹をかじった時に比べたら、十分に柔らかいし、おいしい。
木の幹はね、まぁ食べごたえはあるしお腹にもたまるんだけど、たいてい味はしないし『食べ物を食べてる!』って感じがしないよね。
このパンは口に含めば麦の良い香りがするし、少しだけ感じる塩味が嫌味にならない程度にその甘さを引き立てる。
はぁ、おいしい......!!
そしてそして、何よりも!お肉!
皮をパリパリに焼かれた鶏肉みたいなお肉は、外側は香ばしく、中はしっとり肉汁ジューシーで超うまい!
ハーブみたいなので、下味をつけてから焼いていると見た。
香草焼きってやつかな?
私が適当に処理した血なまぐさい魔物肉とは、全く違う。文明の味がする。
はぁ、おいしい......!!!
このお肉、何のお肉なんだろう!?
<これはきっと、トポポロックですねぇ>
トポポロック?
<あれ?エミー、前世で見たことありませんか?トポポロックですよ?>
いや、知らないですけど?
<ほら、トゲが生えてて、目が三つあって、鳴き声が『ミギャーッ』って感じの......>
いやいやいや、知らない知らない!そんな珍獣全く心あたりないって!
<まさか!そんなはずはないでしょう!?ほら、ファイアトポポロックとか、アイストポポロックとか、色んな属性の亜種がいる、あのトポポロックですよ!?>
だから知らねぇから!そもそも炎属性だの氷属性だの、そういうファンタジーな特徴を持ってる生物とか、地球にいねぇから!!
◇ ◇ ◇
「はっはっはっ!いやぁ、良い食べっぷりだねぇ!」
オマケ様と会話しつつも、全く休むことなく山とつまれたごちそうを全て平らげた私に話しかけてきたのは、ちょびひげを生やしたイケメン、マーツ・サラー男爵様。
サラちゃんのお父さんだね。
さっきまでは目の前のごちそうに夢中で全く目に入っていなかったけど、今私はこのイケメン男爵様、その娘のサラちゃん、そしてキレイなお姉さんだと思っていたら実はサラちゃんのお母さんだった男爵夫人のイーマさんと一緒にテーブルを囲んでいるの。
「本当はもっと豪勢なディナーを用意したいところなんだが、貧乏男爵家ではこの程度が限界でね。勘弁してくれたまえよ」
そう言ってお茶目にウィンクする男爵様。
なんだこの人、挙動がいちいちイケメンだな!
ってか、『この程度』って、またまたご謙遜を。
「エミーったら、本当に凄い勢いで食べていたの!気に入ってくれたのなら、私も嬉しいの!」
私の隣に座った、桃色髪の美少女サラちゃんがにこにこ笑いながら話しかけてくる。
「無我夢中で食べていたの!私、何度も話しかけたのに、エミーったら何の反応もしてくれないんだもの......」
そう言って少しむくれるサラちゃん。
ご、ごめんよ。あまりにご飯がおいしくて、食べるのに集中しちゃって......。
「お父様も、エミーが反応してくれないものだから、『はっはっはっ!いやぁ、良い食べっぷりだねぇ!』ってセリフを言うの、これで5回目なの」
「サラ、そういうことは言わないでもよろしい」
マジすんませんでした。
「さて、エミーくん。改めて、妻と娘、使用人たちを救ってくれてありがとう。サラともほとんど年齢は変わらないように見えるのに、たった一人で盗賊を退治してしまうとは、大したもんだ!」
テーブル上のお皿をメイドさんが片付ける中、男爵様は笑いながら私に話しかける。
「もしかして......君が今話題の、“黄金のアルクス”のお弟子さんなのかい?」
黄金?アルクス?誰それ?小首をかしげる。
「......違うのか。あぁ、“黄金のアルクス”っていうのはね、有名な特級冒険者の一人で......えっと、簡単に言えば、凄く強い人なんだ」
男爵様は、幼い私にもわかりやすいよう、言葉を選んでお話をしてくれる。
こういう気づかいを私にしてくれる人に、転生してから初めて出会った気がする。
良い人だなー、この人。
ってか、私みたいなのにもこういう態度をとれるということは、きっと誰に対しても気づかいができる人なんでしょうな。
それでいて、このイケメンな容姿だもの。若いころは相当もてたのでは?今も若々しいけどね!
「その“黄金のアルクス”が、ちょうど君やサラと同じくらいの年頃の子どもを弟子にとったということで、話題になっていたんだよ。しかも、たった1年でそのお弟子さんは免許皆伝、えぇと、お弟子さんはたった1年で凄く強くなって、今では幼いその身でありながら独り立ちし、各地で苦しむ人々を救うためにアルクスのもとを旅立ったんだとか」
なんだその弟子!?
1年で免許皆伝とかバケモノだな!?
ってか、そいつ......。
<十中八九、加護持ちの転生者でしょうねぇ>
だよねぇ。
妙なことに巻き込まれたら嫌だし、なるべく近寄らないようにしよう。
どこにいんのか知らないけど。
「お父様ばっかりお話して、ずるいの!私だってエミーとお話したいの!」
ここで、サラちゃんが話に割り込んできた。
この子、明るくて元気で良い子なんだけど、押しが強いというか我が強いというか。
そして命の恩人だからなのか、私に対して妙に距離が近い。
私、浮浪児で黒髪黒目の呪い子だっていうのに、この子は男爵令嬢というご身分でありながら、全く私に忌避感を抱いていないらしい。
「ねぇねぇ!私、エミーのこと教えてほしいの!エミーって、どこから来たの?なんであんなに強いの!?」
「............」
表情を変えず、すぐには言葉を返さない私に、何か聞いてはいけないことを聞いてしまったかと焦る様子のご夫妻。
全く気にせず、にこにこ顔のままのサラちゃん。
いやね、これは触れてほしくない過去があるとかそんなんじゃなくてね、ただ単に喋るのが苦手だから、言葉が出てくるまでに時間がかかるだけなんですよ。
あまり気を使われても嫌なので、何とか、たどたどしくはあったかと思うけど、これまでの私の来歴を語る。
生まれた村では容姿のことで迫害され、森で暮らしていたこと。
森の拠点を奪われ、旅にでたこと。
だけど、この容姿のせいで人の住む集落に入ることができなかったこと。
魔物に追われているところを師匠に助けられたこと。
それから山奥で師匠と修行をしていたこと。
師匠が死んだので山を下りてきたこと......。
特に隠し立てすることもないので、こんな感じのことを素直に話した。
あ、凄く説明するのが難しそうだし、自分が転生者だってことは一切喋っていません。
サラちゃんは私の冒険譚を聞いて、「凄いのーーっ!」って言って喜んでた。
ご夫妻は、虫だの草だの食って飢えを凌いでいたあたりのエピソードで、若干ひいていた。
......その後、今度はマーツ男爵様から、自身や男爵家のこと、家族や使用人のことについて紹介があり、雑談の後にこの会食はお開きとなった。
サラちゃんは「まだお喋りするのー!」って駄々をこねていたが、メイドさんに引きずられて自室に連行されていった。
夜にこっそり遊びに来そうな勢いではあったけど、ベッドに放り込まれたら3秒で寝付くタイプの子だから、それはないらしい。マジか。
サラちゃんってちょっと、アレだよね。
凄くかわいらしい美少女なんだけど、その実ただのアホなんじゃないかって、そんな気もするよね。
私はというと、小さめのお部屋に案内された。
空いている使用人用の部屋らしく、殺風景な室内にはベッドと小さな棚だけが置かれている。
「すまないねぇ、恩人にこんな部屋しか用意できなくて申し訳ない」
ってな感じで男爵様は恐縮していた。大きい客室がないんだって。
でも、私にとってはこういう庶民ちっくなお部屋のほうが、落ち着くから嬉しいかな。
っていうか......。
<これまで師匠の家で過ごしていた半年を除けば、たいていが野宿でしたからねぇ。木の洞やら枝の上やらと比べれば、ベッドがあるんですからどんなお部屋でも天国ですよね!>
そう、そうなんだよね!
このお部屋にはベッドがあるんだよ!
師匠のおうちでは固い床の上に日本式の敷布団みたいのをひいて寝ていたから、これが転生後初のベッドインとなります。
ふわぁ、や、やわらかぁい......。
早速試しに寝ころんでみたら、想像以上の気持ちよさに驚く。
あ、やばい。意識が......。
そりゃ、サラちゃんも、3秒で寝付くわ......。
ちょびひげをいじりながら優し気に苦笑する男爵様を後目に、あっという間に私は意識を手放したのでした。
“黄金のアルクス”は、血縁上はエミーちゃんの叔父にあたる人物。
本人たち含めて誰も気づいてないけど。




