48 “馬車襲撃”~エミーの視点から~
虫をつまんで食べるのも、魔物を狩って食べるのも良いんだけどさ。
たまには、ひと手間加わった料理も食べたいよね。
師匠のおうちから旅立ち、約1月。
ようやく名も知らぬ山を下りることができたわたくしエミーちゃんは、そんなことを考えながら、草をかきわけ森の中を進んでいたわけですよ。
すると、遠くのほうから聞こえる、男たちの怒声。
それを私の強化されたスーパー聴覚が捕えた。
なんだなんだと思いまして。
人恋しさ30%、やじうま根性70%で、その怒声のもとに向かったわけですよ。
するとそこにいたのは、馬車を取り囲む10人の盗賊たちと、そいつらに脅されているキレイなお姉さんたち。
<はぁぁぁぁぁぁぁッ!こ、これは!異世界転生配信あるあるイベント!“馬車襲撃”ッ!!>
え、オマケ様、何を突然興奮してんの?異世界転生配信あるあるイベントって何?
<異世界転生配信あるあるイベントは、異世界転生した主人公たちが巻き込まれがちなイベントのことです!その中でも“馬車襲撃”というのは、物語序盤でよくあるシチュエーションなのです!>
......はぁ、さいですか。
<そして襲われた馬車に乗っているのは、それなりの地位にいる方が多いのです。つまりこれは、主人公が偉い人に知己を得るためのイベントですね!まさかこの目で生の“馬車襲撃”を見ることができるとは!>
......なるほど。
つまり、もうすぐ主人公......誰かトーチくんみたいな転生者が通りかかって、あの馬車を助けてくれる、と?
<場合によっては>
え、違うの?
<いや、エミー、この広い世界に加護持ち転生者がどれだけいると思っているんですか?ごくわずかですよ?そんな都合よく主人公が通りかかって馬車を助けてくれるわけ、ないじゃないですか?確率的に>
あれ、だってさっきこれは異世界転生配信あるあるイベントだって......。
<あるあるイベントになってしまうほど、盗賊や魔物に馬車が襲撃されるという事件はありふれているということなのですよ。襲われた馬車のうちほんの数%が、主人公に助けてもらえるのです。厳しい大自然の掟ですね>
いや、鮭の生存確率じゃないんだから!
馬車は野生動物でもないし、大自然の掟は表現としておかしいでしょ!
ってかさ、オマケ様。
今、あの桃色髪の子、盗賊のおっさんに手斧振り下ろされようとしてるけどさ......。
<はい>
このままほっとくと......。
<死にますね>
ちょっとォォーーーーーーーーッ!!?
私は思わずポケットに忍ばせていた小石(【凝固】済み。高威力)を【投石】し、手斧をはじく。
そのまま混乱している盗賊のおっさんに再度【投石】し、一撃で倒す。
同じように、他の2人の女の人に近づいていたやつらも、ついでに倒しておく。
<あら、助けるんですね?>
いや、助けますけど!?
何、その意外そうな感想!?
<意外というか、エミーに余計な負担がかかりますから、放っておいても良いかと思いまして>
あ、相変わらずオマケ様ってそういう所は結構ドライだよね!?
そういえば前に、『エミー以外の生物の生き死になど、些事』って、言い切ってたもんね。
<そういうエミーこそ、ドライだと思いますよ。今更ですけど、良いんですか?盗賊とはいえ人ですよ?殺人に忌避感とか、ないんですか?>
盗賊を殺して罪のなさそうな子どもが生き残るなら、その方が良いでしょ?
というか、これまで殺してきた虫や魔物なんかとそこにいる盗賊の間に、何の違いがあるの?
喋るか喋らないかくらいじゃない?
今更なにを忌避することがあるの?
虫も魔物も人間も、命は同じ、命でしょ?
私だって、例えば嫌がらせされた程度では暴れないだけの分別はあるよ。
でも、ここではもう、命のやりとりになっちゃってるもん。
私が、ではないけど、殺すのをためらえば殺される。
なら、殺すしかないじゃない?
まぁ、そんなこんなオマケ様と脳内会話していたんだけど。
茂みの向こう、田舎道の上に陣取る盗賊たちは、
「おいおいおい!?なんだこれ!?」
「どうなってる!?何が起きてるんだよぉ!?」
「で、出てこい魔法使い野郎!隠れてこそこそしやがって!卑怯者め!!」
とまぁ、大いに慌てている。
......私は魔法使いではないんだけど。
それに卑怯者とか、大勢で馬車を囲んでおきながらどの口が言うか。
良いでしょう、そこまで言うなら出て行ってあげましょう。
盗賊どもの力量はさっきの【投石】への反応ではっきりわかっている。
あいつら一人ひとりで見るなら、多分死神狼より弱い。
今の私が恐れる相手ではない。
......半年前なら、間違ってもケンカは売らなかっただろうけど。
師匠、修行をつけていただき、本当にありがとうございます。
茂みを揺らしながら、ゆっくりと盗賊たちの前に姿を現す。
盗賊たちも、襲われていたキレイなお姉さんたちも、私の姿を見て、とても驚いていた。
うん、私、見た目だけなら超絶かわいらしい美少女だもんね!
森の中からそんな子が突然でてきたら、そりゃ驚くさ!
でもね、だけどね。
驚いたのは、私も同じなの。
だって。
だって、だって。
あそこに立っている、あの眼帯つけた二人。
それとひげもじゃの大男。
あいつらって、ねぇ?
<間違いなく、ナソの森の拠点を奪った盗賊たちですね>
......よし、殺そう。八つ裂きにしよう。
「おいッ!てめぇら、何ぼうっとしてやがる!そんなガキにびびってんじゃねぇ!囲んで殺せッ!!」
殺意増し増し状態の私に、ひげもじゃの指示を受けた盗賊たちが突っ込んでくる。
......まず一人、【投石】で倒す。
続く二人も、【無限礫】で倒す。
残る一人は、近づかれたので【蟷螂】で斬り倒す。
はい、おしまい。
残りはひげもじゃ、お前たちだ!覚悟しろ!!
......って、あれ?
<いませんね、ひげもじゃ。逃げられましたね>
ああああああああああッ!
クソッ!じゃあ襲いかかってきた連中、全員捨て駒か!
ムカツク!ムカツクムカツク!
<追いかけますか?>
............。
いや、やめとく。
せっかく助けたこのお姉さんたち、ほっといて置いてくわけにはいかないよ。
目を離したすきに魔物に襲われてたなんてことになったら、洒落にならないでしょ。
あのひげもじゃたちは、とりあえず諦めるしかない。
どこかでのたれ死んで、これ以上不幸な事件を起こさないでくれることを願おう。
「............はぁ」
ため息一つで気持ちを切り替える。
キレイなお姉さんの方を見る。
どうやらケガはないみたい。
それは良かったんだけど、すっかり腰が抜けて立ち上がれないみたい。
そりゃ、盗賊に襲われてたんだもん、そうなるよね。かわいそうに。
<エミー、ここで一つ、私から提案があります>
ん?なぁに、オマケ様?
<あなたは今回、この女性たちを見事、盗賊の魔の手から救いました。それは、決してただ働きで済ませてはいけないことだと思うのです>
ほうほう。
<つまり、なにかご褒美をねだっても罰はあたらないんじゃないかと。見たところ、それなりの家の人たちみたいですし>
なるほどなるほど!
そうだよね!
私、今回の件でこの人たちには貸しを作ったよね!
ご褒美の一つや二つ、貰わないわけにはいかないよね!
とことこと、キレイなお姉さんに近づく。
ご褒美。
今、私が一番欲しい、ご褒美。
それは!
「......おなか、すいた」
おいしいご飯だ!
「......え?」
キレイなお姉さんはきょとんとしている。
「私、あなたたち、助けた。ご褒美、ちょうだい。ご飯、食べたい」
私は私が持てるコミュニケーション能力をフル活用し、キレイなお姉さんに要望を伝える。
「「............」」
何故か訪れる、沈黙。
あ、あれ?私、発音とかおかしかったかな?
なにせ、言葉を発するのも久しぶりだし、喋るの凄く下手になってる可能性はあるぞ?
「私、あなたたち、助けた。ご褒美、ちょうだい。ご飯、食べたい」
もう一回言ってみる。
その言葉を受けて、そのキレイなお姉さんはようやくぴくりと反応し、何か言葉を返そうと口を動かしかけた。
が、しかし。
「わーーーーーっ!凄いのーーーーっ!助けてくれて、ありがとうなのーーーーーっ!!」
横から凄い勢いで私に抱きついてきた桃色髪の女の子に、お姉さんの言葉は遮られてしまった。
「ありがとうなの!ありがとうなの!私とお母様と、使用人たち!みんなを助けてくれてありがとうなのーーっ!」
桃色髪は私に抱きついたまま、耳元で感謝の言葉を口にする。
大声で。
ちょ、うるさい!うるさいんだけど!!
ってか、え、お母様?
え、もしかしてこのキレイなお姉さん、お母さんなの!?
「私の名前は、サラ・サラー!サラー男爵家の一人娘なの!ねぇ、あなたのお名前は!?」
「......エミー」
「エミーね!よろしくね、エミー!助けてくれたお礼、お父様にお願いして、ごちそうを用意してもらうの!楽しみにしていてほしいの!!」
サラちゃんは、私の手をとってくるくると楽しそうにまわっている。
キレイなお姉さん改め、サラちゃんのお母さんと、地味な顔のメイドさん、それと呻きながらなんとか起き上がった多分御者のおじさんは、その様子を口を開けてぽかんと眺めていた。
これが、ハイテンション男爵令嬢サラ・サラーお嬢様との出会いだった。
なんかエミーが強くなりすぎな気がしないでもないけど、むしろ盗賊が弱い。
腕が立つような連中は、犯罪者などならずに冒険者だのなんだのでちゃんとやっていけるのです。
よほど性格的な問題がなければ。




