46 “馬車襲撃”~イーマの視点から~
こっそり更新再開しますよ~(小声)。
しばらくは、休日は毎日、平日は気まぐれに更新します。
「オラッ!中の奴ら出てこい!無駄な抵抗すんじゃねえぞォ!」
馬車を蹴りつけながら、外で盗賊が怒鳴り声をあげているのが聞こえる。
「お、奥様......」
眼鏡をかけた地味な顔立ちのメイドが、震えながら主人に顔を向ける。
「......降りましょう」
質素ながらも上品なワンピースドレスに身を包んだ女性、イーマ・サラー男爵夫人は青い顔をしながら、それでも凛とした表情を作り、よく通る声でそう言った。
「そうね。ここに閉じこもっていても、どうしようもないもの」
その言葉に賛同する幼い声を聞き、夫人とメイドはもう一人の馬車の同乗者の方を見やる。
その声の主は桃色髪の美しい少女。
イーマの一人娘、サラであった。
「さっき外を覗いて、盗賊たちの様子を見てみたの!あいつら、大体10人くらいでこの馬車を取り囲んでいるの!」
サラは怯える様子もなく、鼻息荒くこう言った。
「だから、私たちが大体1人につき3人倒せば良いの!簡単な計算なの!」
「はい、計算は良くできました。でもそういう言葉は、せめて初歩魔法がちゃんと使えるようになってから言うものよ」
「あう......」
イーマは愛娘を優しく抱きしめた後、その体をメイドにあずけた。
「......私が交渉してみましょう。あなたは、サラをお願い。隙をみて、なんとか逃げ出して」
「は、はい!お、おま、おまかせください!私の、私の命に代えましても!お、お嬢様は、かかか、必ず助けてみせます!」
「逃げないの!私も戦うの!むーっ!むーっ!」
下手に盗賊を刺激してはいけない。
イーマとメイドは騒ぎ立てるサラの口を抑えながら、馬車から降りた。
そこで待ち構えていたのは、体の大きなひげもじゃの男だった。
両脇には、顔の細長い眼帯の男と顔の四角い眼帯の男が控えている。
おそらくあのひげもじゃがこの盗賊団のボスで、その取り巻きが幹部なのだろう。
今の時刻は午後3時ころ。
夏の日差は強くじりじりと肌を焼くが、イーマは緊張のあまりその不快感にすら気づかない。
「ほー......美人だ美人だと噂にゃ聞いちゃいたが、こいつはなかなか上玉じゃねぇか」
ひげもじゃはイーマを厭らしい目線で舐めるように見たあと、にやけながらそう言った。
「へへへ!とても子ども一人産んだ母ちゃんにゃみえねぇ!」
「で、サラとか言ったか?娘ちゃんも大層かわいらしいじゃねぇか!へへへ!こいつは高く売れそうだぁ!」
盗賊たちの下種な会話を聞きながら、イーマは内心で舌打ちをした。
この連中は、イーマたちが誰であるか知ったうえで、襲撃をかけている。
この襲撃は場当たり的なものではないのだ。
「......何が目的ですか?」
イーマは時間を稼ぐため、交渉を開始した。
時間を稼ぐと言っても、偶然冒険者のパーティがここを通りかかるとか、そういう奇跡を期待するための行動である。
ここはテーニディース国サラー男爵領を通る街道。
左右を森に挟まれた田舎道であり、人の往来は滅多にない。
つまり、イーラの行動が報われる可能性は、かなり低いわけだが。
「あなた方の口ぶりから察するに、我らがサラー男爵家の者であることは、重々承知のはず。なぜ私たちなのでしょうか?こんな貧乏男爵家を脅したところで、出せる身代金などたかが知れていますよ?」
そう、サラー男爵家は裕福な貴族ではないのだ。
イーマ自身はもともととある伯爵家の出なのだが、実家との関係はあまり良くはない。はっきり言って、悪い。
サラー男爵家に嫁いだ彼女を助けるため、実家が身銭を切るなどあり得ないと確信できるほどには。
「そりゃあよう、頼ま......オゴッ!?」
何かを喋ろうとした顔の四角い眼帯男を、ひげもじゃが殴り飛ばした。
「奥方様は知らねぇか?器量良しってのは、それだけで高く売れるんだ。それこそ、オレらみてぇなのがしばらくは糊口を凌げるくらいにはな。ははは!」
「「「へへへへへへっ!」」」
ひげもじゃのボスに追従して、手下どもが笑い声をあげる。
その隙に目線を動かしてイーマは周囲の様子を探るが、やはりどうにも状況は悪い。
御者をしていた男性使用人は、生きてはいるようだが、殴り倒され地面に臥せている。
護衛に雇ったはずの冒険者3名は、盗賊どもと一緒になってイーマたちを囲んでいる。
グルだったのだ。
「さぁ野郎ども!さっさとこいつらを縛り上げろぉ!アジトに運ぶぞぉ!」
「「「へいっ!お頭!」」」
ひげもじゃの号令のもと、盗賊たちはイーマやサラ、メイドに掴みかかる。
サラの口を押え、体を抱きしめていたメイドも乱暴に突き飛ばされ、地面に転がった。
「こ、こら!やめるの!その薄汚い手を離すの!」
そうなると、口を押えられ黙らされていたサラが騒ぎ始めるのは、彼女の性格上必然のことであった。
彼女は人一倍負けん気が強く、全く物怖じしないのだ。
「へへへ、威勢の良い嬢ちゃんだ」
「うっさいハゲ!!」
「ハゲ!!?」
サラの腕をつかんでいた帽子をかぶった盗賊は、思わずもう片方の手でその帽子を強く抑えた。
「テメェ!ガキ!なんでそのことを......!」
「うるさいのハゲ!はやく私から手を離すのハゲ!お母様たちを助けるのーっ!ハゲーーーーーっ!!」
「この、ガキ!そんな、何度も、何度もぉ......!!」
サラを縛ろうとしていた帽子の盗賊ハーゲンは、目を血走らせ、顔を真っ赤にして怒った。
彼は最近おでこが頭頂部まで広がってきたことを、とても気にしていた。
そのことをあげつらい彼を嘲笑う者は、誰であろうと許さなかった。
人が気にしていることを馬鹿にしては、いけないのだ。
人の世の基本なのだ。
同業者の盗賊であろうとそこらの村の生意気な少年だろうと、そういう連中はみな、ハーゲンの斧で頭をかち割られてきたのだ。
もちろんサラはハーゲンの毛髪の事情など何も知らずに、ただ罵倒の一種としてハゲ呼ばわりしただけなのだが、彼にはそんなことは関係なかった。
「絶対許さねぇ!ぶっ殺してやるぅぅぅーーーーッ!!」
「!?おい、テメェ!何してやがる!?そいつは売りもんだぞッ!!?」
腰にぶらさげた手斧を頭の上にかかげ、サラに振り下ろそうとするハーゲン。
ひげもじゃのお頭は手下の暴走に気づき止めようとするが、もう遅い。
何人もの血にまみれた薄汚い手斧は。
新たな犠牲者の脳漿をすするべく。
勢いよくサラの頭蓋骨を叩き割りその中に侵入。
......しなかった。
何故なら。
ガァンッ!!!
という凄まじい轟音が手元で響き。
ハーゲンが気づいた時には。
彼が振り下ろしつつあったその手斧は。
柄の部分から先が折れ、どこかに弾き飛ばされていたから。
「な、何が起きッ......!?」
手斧の先を弾き飛ばす。
突然手元にそれほどの衝撃を受けたハーゲンはよろめき、混乱しながらあたりを見回す。
何が起きたのか。
しかし、彼はその答えを知ることは、永遠になかった。
パァンッ!!!
何故なら、そんな音を立てながら、次の瞬間には彼の頭がはじけ飛んでいたのだから。
これが盗賊にして連続殺人鬼、ハーゲンという男の最後であった。
「なッ!?」
「なんだなんだ!?」
「魔法使いか!?」
突然の仲間の死に、あわてふためく盗賊たちの耳に届く、パァン、パァンという、先ほども聞いた何かがはじけ飛ぶような音が2つ。
「ひっ......!?」
イーマは思わず息をのんだ。
彼女とメイドを取り押さえていた二人の盗賊の首から上が、突然無くなったのだ。
どさりと崩れ落ちる、盗賊たちの死体。
「おいおいおい!?なんだこれ!?」
「どうなってる!?何が起きてるんだよぉ!?」
「で、出てこい魔法使い野郎!隠れてこそこそしやがって!卑怯者め!!」
ますます混乱に拍車がかかり、盗賊たちは武器を構えて右往左往している。
しかし、そんな彼らの動きがぴたりと止まる。
卑怯者、という言葉に挑発されたわけではなかろうが。
この惨劇を生み出した者が、街道を挟む片方の森の茂みから、姿を現したからだ。
その者の姿を見て。
盗賊たちは呆然とした。
もちろん、イーマも、メイドも。
そして、サラも。
それは。
照りつける太陽が作り出した、深い森の影から進み出てきた彼女は。
一見するとか弱い印象すら受ける、小さな少女だった。
薄汚い、ぼろぼろの衣服を身にまとい。
森の中から出てきたというのに、裸足で。
不吉でおぞましい、黒髪黒目の、白い肌をした。
そんな少女だった。
人の身体的特徴を馬鹿にするのは、良くないよ。
相手の気持ちをちゃんと慮って、生きていこうね。
でも馬鹿にされたと感じたからって、きれて相手を殺そうとするのはどうかと思うよ。




