45 【神々のお話③】水神ウィーロー
ピロロロロロッ......ピロロロロロッ......。
燦燦と降り注ぐ太陽。
輝く白い砂浜。
寄せては返す、穏やかな波。
ここは神界に再現された美しい海岸。
水神ウィーローのパーソナルエリア......俗に言う彼女の“神域”、自室のようなものだ。
ピロロロロロッ......ピロロロロロッ......。
そんな海岸に、似合わない電子音が響き渡っている。
「ん、ん~~~~......ふわぁ......」
波間に漂いまどろんでいた水神ウィーローは、その電子音にせかされようやく目を覚ました。
「ン、何、何、何~~......もう、朝ァ~~?」
ウィーローは海面から身を起こす。
彼女は水神なので、水の操作はお手の物だ。
再現されたものとは言え、海上であるにも関わらず、そこがまるで地面の上であるかのようにふるまうことができる。
ピロロロロロッ......ピロロロロロッ......。
「あぁ~~~......もう、ウッサイ!」
しばらく海上で胡坐をかき呆けていたウィーローだが、電子音の煩わしさに我慢の限界がきたようだ。
頬を自らの両手でパンパンとはり(彼女は水で構成されているので、実際にはピチャピチャだが)、気合を入れる。
「......ィヨッシャ!覚醒完了ッフゥ~~~ッ!!」
無理やりにテンションをアゲアゲにしてから、彼女は移動を開始した。
目指す先は電子音を発している、彼女の神器。
それは磯場に設置されており、見た目は大きな黒岩を丸くくりぬいて作った水鏡。
少し人の手が加わっただけのただの岩に見えるそれは、その実神々のテクノロジーが凝縮された最新機器であり、それが見た目にそぐわない甲高い電子音を発し続けている元凶なのだ。
「さてさて、何かトラブルでも起きたってコトかナ?......って、ハァァ~~~ッ!?」
水鏡に浮かび上がる文字の羅列を見て、思わずウィーローは叫び声をあげた。
「ザハヌ周辺、魔力の乱れあり、放置すれば災害の可能性あり、他地域への波及可能性あり、至急対策を要する、事態発生より1か月経過......!?」
ウィーローは頭を抱えた。
「なんでよりにもよって、パーティ明けで思いっきり寝てた時に、問題なんて起きるのヨゥ!」
そう、彼女はパーティ明けなのだ。
仲の良い風神や炎神と共に、10年くらいずっと飲み、食い、踊り、歌い......完徹で宴を楽しんでいたのだ。
ついつい2、3か月ほど寝過ごしてしまうのは、しょうがないことなのだ。不可抗力なのだ。
「ってかサ~~~、あそこ、守護聖獣いるじゃん?何やってんのヨゥ、あの子。えっとォ~......」
頬に手をあて、考え込むウィーロー。
そこから彼女の動きが止まり、3時間が経過した。
「......アッ!そうそう、白蛇ちゃん!ジャーナヤハーマだ!なになに、あの子が死んじゃったってコト?マジヤバくない?」
200年ほど前に知恵と力を与えて以降、一度も会っていない守護聖獣なのだ。
名前を思い出すのにも時間がかかる。
「何はともあれ、これは現場確認するっきゃないっショ!ヨッシャ、依り代構成、活動期間設定、とりあえず適当に1週間!......ゥオッケーーィ!準備完了!ンじゃま、ちょっと行ってくるとしますか!レッツゴー!フゥ~~~ッ!」
面倒くささ、煩わしさ、そういった負の感情をアゲにアゲたテンションでどこかに押し流し、ウィーローは水鏡に飛び込んだ!
この神々の最新機器『スーパー水鏡ちゃんver.821』は簡単な地上干渉、異常感知、神託発信など様々な機能が詰め込まれており、依り代を使った下界への転移も、これを使えば簡単にできてしまうのだ!
通常、神の下界への降臨は規制されているが、依り代を通しての降臨はある程度認められている。
また、ウィーローは依り代を水で構成できるため、準備の手間が非常に少ない。
故に、彼女は他の神々に比べるとかなり頻繁に下界へと降りていくことができるのだ。現場主義の神様なのだ。
◇ ◇ ◇
ところ変わって、ここはザハヌの山中。
ジャーナヤハーマの祭壇の近くから湧き出る泉の中から、水で形作られた依り代に宿ったウィーローが、勢いよく飛び出した。
「ィヤッホォーーーイ!アタシ、降臨ッ!!」
静かな山の中に、場違いなテンションの声が響き渡る。
「ン、ン、ン!?何アレ!?祭壇!?もしかして、ジャーナヤハーマの!?アラアラ、あの子も偉くなっちゃって!お母さん鼻がタカダカ~ッ!なんちゃって!誰がお母さんじゃーい!」
そうやって賑やかに騒いでいたウィーローだが、祭壇の近くに転がっているものを見て、口をつぐんだ。
それは巨大な蛇の、骨と皮。
サイズこそ違えど、太陽の光を浴びてきらきらと輝く純白の鱗は、確かにウィーローが守護聖獣に任命した白蛇のものだった。
「まったく、何にやられちゃったんだカ......人間の冒険者?なら鱗とかほっとかないだろうし、魔物か何かかナ?まぁ、とにかく」
ふわふわと浮かびながらその死骸に近づき、頭を下げるウィーロー。
「......200年間、お疲れ様だ」
そういってウィーローが2つに割れたジャーナヤハーマの頭骨を撫でると、その死骸は美しく輝く液体へと変じ大地へと吸い込まれていった。
「流れ、流れろ魂よ。廻せ、廻せよ輪廻を廻せ。願わくばその淀み押し流し、清らかな来世を送りますよう......」
さて、ジャーナヤハーマを弔ったウィーローは、早速問題の解決に着手した。
しかしながら、水神である彼女にとって、それは容易いことだ。
近くの泉にその身を浸し、そこからあたり一帯の水脈が運ぶ魔力の流れを整えていく。
水脈を整え、魔力の流れを整え、それをもって世界の安定に寄与する。
それが水神ウィーローの“治水”である。
「......ゥオッケェーイ!余計な魔力漏れ、歪み、汚濁、全て解消ッフゥ~~~ッ!!」
ジャーナヤハーマがいなくなったことが原因で生じた問題は、たった3分間で解決した。
いかにノリが軽くとも彼女は神様。その能力は計り知れない。
「ン~~~~~......でも、アレだナ、コレ。ちょっとテコ入れ必要カモ?」
彼女は問題解決に要した3分間のうちに、別の問題を発見していた。
それはザハヌ周辺を巡る魔力が、他地域に比べると滞りがちであるということ。
これは守護聖獣がいようがいまいが発生する構造的な問題である。
「なにせ、これまで200年前の術式で色々と動かしてたワケだし~~......そら色々と、歪みもでますわナ~~......」
頬に手をあて、考え込むウィーロー。
2時間の熟考を経て、何かを決めた彼女は手をパンと叩き(彼女は水で構成されているので、実際にはピチャッだが)、行動を開始した。
「......ィヨッシャ!こうなりゃもう、トコトンやっちゃうヨゥ!新しいシステム構築!アタシが不在でも万事滞りなく進む、術式の作成!ザハヌはテストケースだ。うまくいったら、他の地域にも流用しちゃうヨゥ!とりあえず......ホイッと!」
踊りながらウィーローがパチンと指を鳴らすと(彼女は水で構成されているので、実際にはピチャンだが)、あたり一面がジャーナヤハーマが生きていたころよりもさらに濃い、真っ白な霧に覆われた。
この霧は結界である。
生きとし生けるものの侵入を阻むこの結界があれば、ウィーローは余計な邪魔に心煩わせることなく、作業に没頭することができる。
「あぁ~~~......こりゃ1週間では終わりませんワ。数年単位でスケジュール組まなきゃネ。えっと......アッ、雷神との飲み予約入れてんじゃん!ヤッバ......まぁ、いっか。雷神だし」
ぺちゃくちゃと独り言をしゃべりながら、水神ウィーローは泉の中に沈んでいった。
これから1週間かけて、あたり一帯の調査を綿密に行い、日程の見通しを立ててから、改めて長期間運用可能な依り代を用意し、本格的に作業を開始する予定だ。
彼女が消えたその後には、何も見通せないほどの深い霧と、静寂だけが残された。
短いですが、これで第4章はおしまいです。
エミーちゃんの基礎能力底上げ回でした。
第5章は今書いている途中なので、書き終えたらまた投稿再開します。
よろしくお願いします。




