40 とある男の日記③、には書けない最後の独白
......油断したなぁ。
確実に、殺したと思ったんだが。
オレも歳をとったってことかな。
袈裟懸けに深く斬りつけられた傷口から勢いよく血が噴き出す。
もはや立ってはいられず、地面に倒れ伏す。
エミーはどうなった......。
目線だけなんとか動かしてみると、エミーは無事だった。
あのカルト教祖に向けて【投石】を放っている。
響き渡る轟音。
......はは、そんなん【投石】で出せる音じゃないぞエミー。
あのハゲも、これで確実に死んだな。確認はできないが。
「............師匠」
多分教祖にとどめを刺したエミーはすぐにオレに駆け寄り、何とか傷を塞ごうと悪戦苦闘している。
気持ちはありがたいが、オレはもう助からない。
刻一刻と、自分の命が零れ落ちていく感覚がある。
「師匠......師匠、師匠......」
あぁ、エミー。
オレの愛弟子よ。
愛しい、愛しい......オレの“孫娘”よ。
そう、泣いてくれるな。
これは当然の報いなのだから。
むしろ、因果が返ってくるのが遅すぎたくらいだ。
赤ん坊から年寄りまで。
オレは金を積まれれば誰でも殺してきた暗殺者だ。
呪い子として産み落とされ。
家族も友人もなく。
気づけば、そんな仕事をしていた。
良心の呵責だとか、そういった殊勝なものを感じたことは一切なかった。
“アーシュゴーの死神”だのなんだの、大層な二つ名がついたりしたが、つまるところオレはクズだ。
ただのクズだ。
人の命をすすって、意地汚く生き続けただけのゴミムシだ。
そんなオレのために、エミーよ。
お前は泣いてくれるのか。
「............」
なんとか体を動かし、エミーの手を握りしめる。
「......あり、がとう」
お前がいてくれて、オレは救われた。
お前がいてくれて、オレは初めて幸せだった。
ごめんな。
ごめんなエミー。
お前には、オレの名前も二つ名も、生業のことも。
何一つ、教えなかった。
教えたら、お前がどこかに逃げてしまうんじゃないかと、怖かった。
オレは卑怯者だな。
本当のことを隠して、幸せを手に入れようとしていたんだな。
あぁ、幸せを手放すってのは、つらいな。
オレはそんな幸せを、いろんな人の幸せを、奪って生きてきたんだな。
こんな男は早く死ぬべきだ。
あぁ。
あぁ、でもごめんな、エミー。
修行が途中で終わってしまうな。
お前にはもっと、色んなことを教えてやりたかった。
もっと鍛えてやりたかった。
でもまぁ、エミーなら、きっともう大丈夫。
お前は天才だよ。
基礎は教えた。
後はほっといても、勝手に強くなるだろう。
そろそろ、意識が朦朧としてきた。
最後に、最後にエミー、一言だけ。
「............が、ん、ばれ......」
あぁ。
最後の言葉が、これ。
ださいな。
しまらん。
まぁ、良いか。
エミー。
我が愛弟子の人生に。
我が“孫娘”の人生に。
幸多からん、ことを。
死ぬ間際。
生まれて初めて、神に祈った。




