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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
3 山奥で謎のじいちゃんと修行編!
39/716

39 ありがとう、がんばれ

「............」


 力が抜け動かなくなったハゲを放り投げ、師匠が駆け寄ってくる。

 頭、首、腕、お腹......手早く触診し、私にケガがないことを確かめると、深く息を吐いた。


 ご心配おかけしました、師匠。

 でも、私なんかより師匠だよ!

 あのハゲに斬りつけられてたよね!?

 大丈夫なのかな!?


 じっと師匠の傷ついた右腕を見つめると、師匠は私に見せつけるように右拳を何度か握っては開き、つぶやく。


「......問題ない」


 そして、優しく私の頭をなでてくれた。


「よく、頑張った」




 その言葉を聞いた瞬間、緊張の糸が切れた。

 押さえつけられていた色んな感情が顔をだし、涙があふれて止まらない。


 怖かった。

 怖かった、怖かったよ、師匠。

 でも、私戦えたよ。

 頑張ったよ。


 ひっくひっくと声を上げ、涙をだくだくと流しながら泣き続ける私を、師匠は優しく抱きしめてくれた。


 暖かい......。


 相変わらず死んでいる表情筋が作り出す無表情という仮面の奥で、心の中に満ちていた恐怖はいつの間にかどこかに消え去り、心地よい安心感に満たされていく。







 でも。

 そんな穏やかで暖かな時間は、長くは続かなかった。




 どん。




 突然、師匠が抱きしめていた私を突き飛ばす。




 え?何?




 わけもわからず尻もちをついた私の目に映ったのは。




 肩から袈裟懸けに深く斬りつけられ血をまき散らしながら倒れる、師匠の姿だった。







「くッは......はははッ!」


 後ろのほうから、笑い声が聞こえる。


 ハゲだ。


 師匠に心臓を貫かれ、なおもハゲは生きていた。

 地面に横たわり息も絶え絶え、普通なら動かない体を魔力で無理やり動かし、最後の力を振り絞っているという様子ではあったけど。


「オ、オレは使徒だッ......貴様ら、下等な連中とは、違うッ、えら、選ばれた、存在......!」


 なにやらつぶやきながら、私にも【魔力斬糸】を伸ばすハゲ。


「あっては、ならないッ!使徒が、負ける、などッ!オ、オレは、永遠の、殺戮を」







 耳障りな独り言は、そこで止まった。

 私が全力で放った【投石】に、【身体強化】もろくに使えないほど弱り切ったハゲは、耐えられなかったから。

 ハゲは頭を吹き飛ばされ、今度こそ本当に死んだ。

 【魔力斬糸】が形を保てず霧消していく。







「............」


「............師匠」


 師匠は力なく地面に横たわっていた。

 あまりにも、傷が深い......。

 上着を脱ぎ、それで体を包帯のように縛り付けようとするも、だめ。

 そんなことじゃ、血が止まらない......。


「師匠......師匠、師匠......」


 もう私は、うわごとのようにつぶやくことしかできない。

 師匠の血だまりは私たちを中心にどんどん広がっていく。

 師匠の命が、消えていく......。




「............」


 震える私の手を、師匠は何とか腕を動かし、握りしめてくれた。

 ごつごつして、大きな手。

 力強い、師匠の手。

 どんどん、温かさが失われていく。




「......あり、がとう」


 師匠の震える唇から発せられたのは、私への感謝の言葉だった。


 ......なんで......?

 私、師匠に感謝されるようなこと、なんかしたかなぁ?

 勝手に弟子になって、いっぱい迷惑かけたんじゃないかなぁ?

 私、私は師匠にもらってばっかりで、私は、私は......。







「............が、ん、ばれ......」




 そんな。


 そんな簡単な励ましの言葉を最後に、師匠の手から力が抜け、師匠は動かなくなった。







 空を覆う灰色の雲がぽつぽつと雨粒を落とし始める。

 ぬるい、ぬるい、夏の雨。

 次第に強くなるそれは地面の血だまりと混ざり合い、鉄臭い、赤黒い泥水となってどこかに流れていく。




 ざあざあと降りしきる雨の中、師匠の冷たくなった手を握り、私はただただ座り込んでいた。

 じっと、師匠の顔をのぞき込む。

 無粋な雨に打たれながら、天を仰ぐその顔は。

 どんな時でもほとんど変わることのなかった、強面師匠の表情は。

 斬りつけられて、痛かったろうに、つらかったろうに。




 穏やかな、笑顔だった。


 師匠らしい、優しい、優しい、笑顔だった。

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― 新着の感想 ―
ジャンプ黄金期世代だと、愛などいらぬコースを想像しちゃうなあ。ワクワク
[一言] 師匠、じいちゃん……ありがとう。
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