37 魔力斬糸の習得
「ははははは!逃げているだけですか!?あなたの力はその程度ですか!?」
ハゲはあいかわらず哄笑しながら師匠を【不可視の斬撃】改め【魔力斬糸】で攻撃し続けている。
師匠も持ち前の超人的直感力でそれを避け続けているが、流れる汗がその体力の消耗を隠していない。このままじゃジリ貧だ。
「はぁ、はぁ......まだか、まだか、まだか......首、首、首を刈りたい、刈りたい......!」
私を拘束しているおっさん2号も殺人欲求が高まり暴走寸前だ。
もうすっかりこのおっさん2号の中では、私を殺すことは既定路線のようだ。
師匠は「私を殺したら協力しない」ってあらかじめ言ってたと思うんだけどな。
まぁいいよ。
私は殺されないから。
落ちるのは私の首じゃない。
お前の首だ。
<しかし、エミー!【魔力斬糸】を習得すると簡単に言いますが、こんな土壇場でそんなことできるんですか!?>
できるかどうか、というか、やらなきゃ死ぬわけだからね、オマケ様。
そもそも、勝算のない話ではないと、私は思ってる。
だって【魔力視】で視ていたらわかったんだけど、【魔力斬糸】の魔力の流れというか、力の発現方法は、実は【蟷螂】と似たようなものなんだ。
どちらも“魔力で物を斬る”ための技なんだから、当然なんだけど。
【蟷螂】は手刀に“斬るための”魔力をまとわせ、斬る。
【魔力斬糸】は“斬るための”魔力を糸のように伸ばし、斬る。
“斬るための”魔力の使い方はわかっている以上、あとは“魔力を糸のように伸ばして”、“自在に操る”ことができれば良いわけだ。
<か、簡単に言いますけども!?>
「はぁ、はぁ、はぁ......!首、首、首ィ......!!」
<ひぃぃーーーーーーーーっ!!?>
マジで時間がないので、とっとと習得を急ぐ。
ひねり上げられていないほうの腕、右腕の指先を微かに伸ばし、魔力を纏う。
暴走寸前のおっさん2号の注意力は散漫だ。
気づかれていない。
そして纏った魔力を少しずつ、少しづつ、細く、細く、長く、長く伸ばしていく......。
ここで、半ば脱線する形で練習していた【威圧】の技術が役に立つ。
糸のように魔力を伸ばすとは、つまり方向を極端に限定して、体外に魔力を放出することと似たようなものなのだから......。
......あ、できた。
<ま、マジですか......!?>
これが、火事場の馬鹿力ってやつかな!?
私の右手指先からは、だらりと垂れた魔力の“糸”が伸びている。
まぁ、ハゲの【魔力斬糸】とは違って、縄のように太いけどね!
ハゲの【魔力斬糸】は本当に糸みたいに細いので、そこはあいつの熟練が現れた部分なのだろう。
敵とは言え、そこに関しては敬意を表しておく。
次だ。
作成した“糸”をにょろにょろと動かす。
動かそうとする。
難しい。
そしてもの凄くつらい。
動かそうとすると、どんどん魔力が消費される。
頭が割れるように痛い。
冷や汗が吹き出る。
「......ッ」
思わずこぼれそうになるうめき声を、必死で呑み込む。
......気づかれてないか!?
「はぁ、はぁ......!」
おっさん2号は未だ息を荒く吐き目を血走らせ、己の殺人欲求と教祖の命令の狭間で苦しんでいる。
ばれてない。
............。
......というか、ずいぶんとさ、余裕だよね。
私は生き残るため、必死で頑張っているのにさ。
おっさん2号、お前はなんだよ。
お前にとって、私はなんなんだよ。
簡単に刈り取れる命か。
ただお前の気持ちの悪い欲求を満たすための、玩具か、こら。
なめんなよ。
なめてんじゃねぇぞ。
お前は今、命のやり取りをしてるんだ。
高くつくぞ、その態度は。
私は生き残る。
死ぬのは、お前だ。
湧き上がる殺意とか害意とか、闘志とか......。
そういったものを、魔力と一緒に私の【魔力斬糸】にありったけ注ぎ込む。
動け、動け、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!
汗が流れ落ちる。
私の【魔力斬糸】がぴくぴくと震え始める。
目の前では師匠が舞っている。
ハゲの【魔力斬糸】はまるで鞭のように師匠に襲いかかる。
「......ッ」
師匠の腕が、また斬りつけられて、そこから赤いものがこぼれる。
ハゲは笑っている。
ふざけるなふざけるなふざけるな!
私の大切な人に何をする!
許さない、許さないぞ!
ハゲも、おっさん2号も、絶対に許さない!
殺す!
私が殺す!
殺してやる!!
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!
........................殺すッ!!!
次の瞬間。
それまで震えることしかできなかった私の【魔力斬糸】が。
ぐん、と勢いをつけ跳ね上がり。
音もなく。
何の抵抗もなく。
すっ、と。
おっさん2号の首を通り過ぎた。
「首......刈ッ......!!?」
そのつぶやきがおっさん2号の最後の言葉だった。
ぽろり、と。
おっさん2号の頭が地面に落ちて転がる。
その目は大きく見開かれ、何が起きたのかわからない、そんな表情。
すぐにその瞳からは、光が失われた。
勢いよく降り注ぐ血しぶきの中。
私は思わず膝をつく。
慣れない魔力操作を行い、予想以上に消耗が激しい。
でも、まぁ。
まだまだ不格好だけど。
修練は必要だけど。
【魔力斬糸】、これにて習得。
......次。
顔をあげる。睨みつける。
次はお前だ、ハゲ。
覚悟しろ。




