36 不可視の斬撃(視えなくもない)
師匠と共に過ごしたこの半年間で、私はどう成長したのか?
何が成長したのか?
体力?魔力?精神力?
うん、半年前から比べると、それらはどれも確実に成長している。
体捌き?魔力制御?狩りの仕方?格闘術?
これらの技術もそうだ。
半年前の自分とは比べ物にならないほど、伸びている。
でも、忘れてはいけないものがある。
これがなければ、他の力の成長はあり得なかった、私の成長の基礎となる力。
土台となる力。
それは、観察力。
師匠の修行は、いつだって説明がない。
とりあえず技を見せるから、真似てみろ。
以上!
それだけ。
組手だってそう。
とにかく真似、真似、全部真似!
そりゃあ、観察力も鍛えられるってもんですよ。
その結果、師匠の魔力制御の凄まじさとかが以前よりもよくわかるようになって、師匠と比べたら私なんて、マジ蟻んこってかミジンコだなーって、自分の弱さに辟易としたりとか、まぁそんなことがあったり......。
いやいや、今はそんなことはどうでも良い。
閑話休題。
とにかく私はこの半年で、よく見ることの大切さを学び、観察力がしこたま鍛えられたと、そういう話。
そしてそれこそが、このピンチを乗り越えるための鍵になるんだって。
私が言いたいのは、そういうこと。
◇ ◇ ◇
「............」
私は黙って、【魔力視】を発動する。
師匠の修行は、いつもこれから始まる。
これが課題である以上、落ち着いて、いつも通りに、物事の観察から行うべきだったんだ。
師匠を視る。
舞うように飛び跳ね、【不可視の斬撃】とやらを避け続けている。
その魔力操作は洗練されている。
体の必要な箇所に、必要なだけ魔力が流され、必要なだけ使用される。
全く無駄がない。
あれは師匠のこれまでの人生で積み重ねてきた技術の一端であって、私があの域に到達するまでどれほどの時間がかかるかわからない。
翻って、ハゲの方を視てみると。
このハゲ、【身体強化】の様子を視ても、師匠ほど魔力操作、制御がうまいとは言えないね。
<まぁ、それでも問題はなかったんでしょうね>
うん。
何故なら、あのハゲが言うところの“異能”【不可視の斬撃】のおかげで、敵はハゲに近づけないのだから。
では、その【不可視の斬撃】とは何なのか?
......実は、【魔力視】を発動した私にとって、それは不可視でもなんでもなかった。
ハゲがゆらゆらと振っている手の指先から、それは伸びていた。
それはハゲの意志に従って素早く動き、触れた地面や木なんかに傷跡を残す。
【不可視の斬撃】の正体、それは。
“魔力で作り出した、鋭い切れ味の糸”である。
<【不可視の斬撃】、改め......正しくは【魔力斬糸】とでも呼びましょうか>
恐ろしい技だよね......【魔力視】ができなければ、その攻撃の正体を掴むことすらできないんだもん。
多分直感で避け続けている師匠のほうが恐ろしい気もするけど。
そもそも、“異能”ってなんなの?
<あまり、意味のあるカテゴリーではありません。一般的に、原理の知れ渡っていない、習得方法もわかっていない能力は、十把一絡げに“異能”と呼ばれています。実はエミーの【魔力視】も、習得者の非常に少ない“異能”ですからね>
え?私既に“異能”使ってたの?
<もしかすると、【紙魚】や【蟷螂】あたりも世間的には“異能”扱いされている技術かもしれませんが......。そんなこと、今はどうでも良いです。問題はエミー、あなたがこれからどうするか、ですよ>
......。
<あの教祖の攻撃の正体がわかったところで、あなたが捕えられている現状を、打破することはできないでしょう?>
わかっただけでは、ね。
<え?>
要はね、オマケ様。
私が体を動かそうとすると、おっさん2号は拘束を強めてくる。
つまりは、体をあまり動かさずに、拘束されたまま、気づかれないように、このおっさん2号を倒せば良いわけですよ。
<は?え?>
そのお手本は今、目の前にあるよね?
私は再度集中して、ハゲの戦い方を観察する。
ハゲはまるで指揮者のごとく手を揺らし【魔力斬糸】を操作しているが、あれはクセのようなものだと思う。
【魔力斬糸】の制御は魔力操作で行うのだから、本来的に言えば体の動きはあまり重要ではないはずなのだから。
まぁ、体の動きを伴うことで、魔力操作をイメージしやすい、という効果はあるのかもしれない。
その辺をハゲが理解してるのか、それとも感覚的にやっているだけなのか、そこはわかんないけど。
とにかく。
【魔力斬糸】は体を動かさず、相手を攻撃できる、奇襲能力の高い魔力操作技術、ということだよ。
<............つまりエミー、あなたは......!>
師匠から出されたこの課題、目標がはっきりしたね、オマケ様。
それは......【魔力斬糸】を習得することだ!




