30 師匠との楽しい毎日
私が師匠に出会ってから、おおよそ半年が過ぎました。
季節は廻り、もうすぐ夏!
山肌はみずみずしい緑に覆われ、ハダカマズイネズミは寝床からはい出し、ポリー虫は葉っぱの裏で蠢く、そんな季節に。
私は師匠を追って、山中を駆けている。
音もなく、風のように......前世では考えられないようなスピードで走る。
そりゃ、地面を踏みしめる一歩一歩に【飛蝗】の技術を応用して使っているからね!
一瞬で何メートルも垂直に跳びあがれるほどの力を、横方向の移動に使えばどうなるか?
答えは簡単。
考えるまでもないね!
ものすごいスピードが出るのだ。
あと衝撃を魔力変換するので音もしない。
地を蹴り、木の幹を蹴り、時に跳びはね飛ぶように移動を続け、たどり着きましたるはいつぞやの崖。
師匠は山中を走ってきた勢いのまま、崖を垂直に駆け上がる。
これはまんま【紙魚】を使った移動だね。
私も追いかける。
おっと!師匠が前方から小石を投げてきましたよ!
この小石、修行の一環なので当然致死性のダメージがあるわけではないけど、もの凄く避けにくい。
避けにくいよう、師匠が放っているので当然なんだけど!
そしてもし当たってしまえば、罰ゲームが待っている。
師匠の淹れるゲロマズ茶が、さらにまずくなるのだ!
もう何なの師匠?
師匠はお茶を淹れるのが趣味なのではないの?
罰ゲーム的にお茶がまずくなるってそれ、そもそも自分の淹れてたお茶がまずいって認識してるってことじゃん?
そんなお茶淹れるなんて、もうお茶に対する冒涜じゃん?
そうこうしているうちに崖上に到着です。
ここまで2時間以上ノンストップで走り抜けてきたけど、ようやくここで景色を見ながら、ちょっと休憩......とはならないのが、師匠の修行だ。
師匠がまっすぐに私を見据え、拳を構える。私もそれに応じ、打ち合いが始まる。
そう、これは組手。
はじめはゆっくりと、そして徐々に早く、徐々に早く!
私たちは互いの攻撃を捌きあう。
......ゆっくりとした拳だからって、油断しちゃいけない。
何故ならその拳には、魔力が込められているから!
そう、数か月前に偶然私が習得した【魔撃】も、師匠は当然のことながら使いこなす。
はじめて組手をやったとき、ゆっくり動く師匠の拳を無造作に受け止め、数メートル吹き飛ばされてしまったのはちょっぴり恥ずかしい私の思い出!
【魔撃】を捌くには魔力変換を使って相手の拳に込められた魔力を無効化しなくてはならず......。
この組手、見た目以上に神経を使うんだよね。
その後も延々と組手は続き、お日様が一番高く昇ってはじめて休憩となる。
午後からは師匠と狩りやら薬草の採取やらを行って、暗くなるころに帰宅。
その後は、罠の作成、簡単な薬の調合といった手作業を行い、適度なところで就寝。
そして日の出前に起床......と。
そんな風に、最近の私はストイックな修行の日々を過ごしています。
体力、魔力共に酷使し、就寝するころには毎日へろへろだけど、不思議と辛くはないんだよね。
少しずつ自分が強くなっているのがわかるし......そして何より、師匠がいるし。
師匠は強い。わけわからんくらい強い。
出会った当初からそれはわかっていたんだけど、師匠に体や魔力の制御、捌き方を教わって、まがいなりにも私もある程度戦えるようになって......。
で、その上で改めて師匠の強さを測ろうとするんだけど......よくわからない。
強すぎて、どれくらい私と差があるのかすらわからないぐらい、強い。
拳を打ち合う。
ただそれだけで、師匠の途方もない力量を感じ取れてしまう。
体捌き、そして流し、込め、散らす魔力の動き。
全てにおいて無駄がなく、美しい。
多分、魔力総量なんかは今の私と変わらないくらいじゃないかな、とはあたりをつけているんだけど......。
それなのに、これほどまでに開いている師匠と私の差というのは、経験の差だったり、技術の差だったりするんだろう。
それほどまでの強さを積み上げてきた師匠を、私は素直に尊敬する。
そんな師匠に出会うことができた幸運に、感謝する。
ずっと一緒にいたい。
まだまだいろんなことを、教えてほしい。
大好きな師匠。
これからも、よろしくね。
え?【蟷螂】の習得はどうなったか?
あれはね、オマケ様が<剣神の異世界転生配信で視た>剣の切れ味を鋭くする【魔法剣】という技術の基礎と原理が全く同じだったらしく。
やり方さえわかれば習得は容易く。
あっという間にできるようになりましたとさ。
以上!




